集団の機能としての政策には、三つの系統があることがわかりました。それでは、機能系ではなく、枠組そのものを維持するための政策には、どのようなものがあるのでしょうか。外部からの攻撃に対する政策は、戦略系の政策として理解することができます。ここでは、国家の内部的なまとまりの維持を、自己認識の政策領域として扱うことにします。 1.国民統合 国民とは、ひとりひとりの人間を、国家との繋がりにおいて表現したものです。したがって、仮に、人々が国民であることを全く意識しなくなりますと、国家は、国家であるための三要件のうち、国民という要件を欠くことになり、当然に散り散りに霧散してしまいます。これでは、国家が果たしている集団の機能も全て喪失してしまい、個人の安全さえ守られなくなります。そこで、国家が国家であるためには、何らかの方法で、国民のまとまりを維持しなくてはならなくなるのです。 2.歴史・伝統の継承 国民とは、法的な存在でもありますが、主要な部分において共通の歴史を背負っています。そうして、国家は、国際社会にあって、ひとつの行動主体として振る舞ってきたこともまた、歴史の共有の基盤でもあります。いわば、経過した時間と経験によって、現在の国家の個性は形成されているのです。 このため、歴史や伝統を未来に向けて継承しませんと、国家の国家としての個性も失われてしまいます。文化財を保護し、有形無形の伝統を継承することは、過去と未来に対する国家の大切な責務でもあるのです。 3.出入国管理政策 国民は、国家の枠組みの一つなのですが、もしも現代版の民族大移動が発生して、この枠組みが全面的に流動化したとしたならば、この劇的な変化に対応できる国家はおそらくないでしょう。そこで、何れの国家でも国民の出入国に関しては、一定の条件や規制を設けて管理しているのです。出入国管理や国籍政策は、この一環です。 このような政策は、国家と国民のアイデンティティーを確立するために行われます。しばしば、このような政策は、排他的なナショナリズムの表われとして批判されましたが、現代のような民主主義国家にあっても、国民に国家への帰属意識がなくては、より良い国家を国民自らで築き上げてゆこうとする意識を持てなくなります。この意味において、自己認識の政策領域は、重要性を失ってはいないのです。 第3章へ戻る |