北方領土問題について(鶴見大学)


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Posted by 倉西先生 on 2007/04/28 20:13:39:

    質問
     日本とロシアとの間にある北方領土問題について、先生は、どのように思いますか?

    回答
     北方領土問題は、二国間の領土争いという単純な構図では描ききれない複雑な問題です。何故ならば、この問題には、第二次世界大戦の総決算がかかっていますし、また、今後の国際秩序のあり方にも大きな影響を与えるからです。
     北方領土がソ連軍の手に落ちた理由は、1945年8月8日に、ソ連は、1941年に締結された日ソ中立条約(期限5年)を一方的に破棄し、対日戦を開始したことにあります。これは、国際条約上のルール違反ですが、その背景には、1945年2月のヤルタ会談(米、英、ソ)における密約がありました。ヤルタ協定と呼ばれるこの密約は、ソ連の対日参戦の見返りとして合意されたものです。しかも、ポツダム宣言の受け入れが表明された8月15日以降にあってもソ連軍は南下を止めず、ついに、北方領土を占領してしまうのです。
     おおよそ以上の経緯で北方領土問題が発生するのですが、先生は、北方領土はやはり四島返還で決着すべきではないかと思っています。そのように考える理由は、以下のとおりです。
     第一に、国際法としてのヤルタ協定の効力には、疑問があります。後に、協定の当事国であったアメリカは、秘密協定であったこの協定の、第三国である日本に対する効力を公式に否定しています(上院の承認のない秘密協定は無効?)。また、この見解は、“任意の国において締結された条約は、第三国を拘束しない”とする国際法の一般的なルールからも支持されています。
     第二に、日本と連合国46カ国との間に締結されました、対日講和条約(サンフランシスコ講和条約)は、締約国ではないソ連に対しては、何らの効力をも持ちません。
     第三に、ソ連は、条約上に記載された“千島列島”には、北方四島が含まれると主張していますが、仮に、このように解釈が通るとしますと、連合国の戦争事由に、大きな自己矛盾が生じることになります。1941年に米英首脳によって公表された大西洋憲章をはじめとしまして、連合国共同宣言(1942年)、カイロ宣言(1943年)に至るまで、連合国は、枢軸国の侵略行為を非難し、領土不拡大原則を一貫して掲げてきました。しかしながら、ここで、ソ連の北方四島領有を認めるとしますと、反対に、連合国側が、戦争(武力の行使)の結果として自らの領土を拡大させたことになってしまうのです。これでは、ドイツや日本の侵略を激しく咎めた連合国の、戦争の大儀が失われてしまいます。したがいまして、日本の領土権放棄の対象になるのは、“日本が暴力及び強欲により”略取した地域、つまり、戦争の結果として獲得した領土のみであり、平和裏に自らの領土としてきた固有の領土は及ばないと解釈する方が妥当となりましょう。
     第四に、国内法のみに依拠した領土の編入は、極めて危険な行為であり、戦争を惹起する可能性すらあります。仮に、何れの国も、国内法制定のみで隣国の領土が保有できるならば、他国の領土侵害が後を絶たなくなるでしょう。このような状態を認めることは、国家間による弱肉強食の戦争状態の到来を意味することになります。
     第五に、先にも述べましたように、ソ連の対日参戦は、日ソ中立条約の一方的な破棄によって起きたことです。ソ連の北方領土占領は、条約違反から発生したのであり、その合法性は、さらに疑わしいということになります。
     以上に述べてきましたように、ソ連の北方領土領有の法的根拠は極めて脆弱なものです。しかしながら、日本側の主張に対して、ロシアは、あくまでも、北方領土を第二次世界大戦の勝利による割譲(ヤルタ協定)であると主張しています。仮に割譲であるならば、日露間の平和条約において北方四島の割譲を明記しなくてはなりません。しかしながら、日本国政府が、歴史的経緯に鑑みて、この割譲を認めることは到底考えられませんし、ロシアが、これで満足するとしたならば、第二次世界大戦における連合国の大儀を忘れられたことになってしまうのです。
     現在のまがりなりにも平和な国際社会とは、第二次世界大戦の戦いの中に散っていった方々の、尊い犠牲の上に築かれています。北方領土問題の安易な解決が法と正義を無視し、国際社会を再び野蛮な状態に引き戻すものとならないよう、先生は、心から祈っているのです。


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