集団的戦略決定の政策/経済分野

 戦略系の政策領域は、政治分野のみに存在するわけではありません。現在の国民国家体系にあっては、対外的な経済関係に関する政策を行うことも、政府の重要な仕事です。
 
1.通商政策

 通商政策とは、外国と貿易を行うに際に、政府が、輸出入関税の税率や交易条件を決定するようになったことから出発しています。自給自足にとどまる鎖国という政策もありますが、経済関係とは、政治のメカニズムとは異なって、相互利益を生み出しますので、経済繁栄に繋がるような貿易関係の構築は、国家と国民にとって重要な課題です。
 ただし、通商政策の基本的な考え方には、おおよそ二通りあります。ひとつは、自由貿易主義であり、もう一つは保護主義です。現在のWTOを枠組みとする国際貿易体制は、自由貿易主義を基調としてます。しかしながら、関税率は、国内産業の競争力と関係しますので、国家が、国内産業を保護するために関税率を調整する場合もあるのです。
 また、自国の利益となるような二国間の貿易協定を結んだり、多国間の経済圏に参加したりすることも、通商政策の一環です。

2.資源・エネルギー政策

 資源・エネルギー政策とは、自国民の生活や産業のために必要となる資源やエネルギーを確保することです。自国領域内の資源の確保や開発はもちろんのこと、自国領域内に埋蔵資源がない場合には、外国との交易を通じて必要な資源を確保することになります。

3.産業政策

 国際貿易体制の中で、自国産業の競争力を高めるために、政府が産業をリードすることを産業政策と言います。古くは、フランスのコルベール主義など、保護主義と結びついた重商主義政策があります。また、明治時代の殖産興業政策や戦後の通産省主導型の輸出型高度成長政策も、そのひとつに数えることができるかもしれません。近年でも、NICSやBRICSなど、政府主導型の産業育成政策の事例が各国で見られます。ただし、現在の自由主義体制にあっては、むしろ、産業政策の対象は、多額の資金を要する研究・技術開発などにシフトしてきており、競争を歪めるような政府の直接的な支援には制限があります。

4.対外通貨政策

 政府が、自国産業の国際競争力を考慮して、国際通貨市場に介入を行うこと(自国通貨の売買)を為替政策、または、対外通貨政策と言います。この政策もまた、政府の戦略的な判断の下で行われますので、戦略系の政策として分類できます。

 以上に述べてきた経済政策は、国際経済の中で、自国の産業が生き残り、また、繁栄するために採られる政策です。この点は、政治分野と共通していますが、他国との関係がゼロ・サムではなくポジティヴ・サムであること、そうして、自国内部に多様な利害関係が発生することにおいて異なっています。このため、政府は、極めて巧みな政策運営が迫られることになるのです。


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