法治とは、統治の方法として、文字に書かれた文章が用いられることを意味します。これだけの意味ですと、為政者の意思を文章にしたものが国民に伝達されるということに過ぎませんので、人治とあまり変わりはありません。しかしながら、ここで言う”法の支配”には、形式的な法治とは異なる内容が含まれています。それは、法が、個人の自由や権利を侵害しない、という原則です。 1.集団的戦略系 集団的戦略系における法の支配とは、立憲主義と表現されることがあります。それは、憲法という法形式において、為政者や統治機関の権限に制約を課すようになったからです。立憲主義によって、まずは、絶対主義時代のように、君主が、国民の生殺与奪の権を握ることはなくなり、君主もまた、憲法の下に置かれることになりました(立憲君主制)。 現代の国家では、戦略の決定者は、憲法や法律の範囲において、自らの政策権限を用いています。そうして、決定された政策は、法文形式を以って実施されるのです。 2.内部調整系 議会などの立法機関の権限が、憲法や法律によって定められていることは、戦略系と同じです。内部調整系の政策領域にあって、法の支配は、合意された政策の法文形式化を意味します。この場合、法は、共通ルールというよりも、公的な事業の実施を定めることになります。そうして、仮に政府が、この公的な事業を実施するに際して、国民の個人的な自由や権利を侵害するような場合には、被害を受けた国民は、法律に依拠して裁判所に訴えることができるようになっています(行政裁判)。 3.秩序維持系 秩序維持系における法とは、個々人が相互に守るべき共通ルールのことです。この種の法律は、戦略系や内部調整系と異なって、個々の行為の反復性が前提とされていますので、その多くは、永続性が考慮された刑法典や民法典などの法典形式が採られる場合が少なくありません。この意味において、法の支配が文字通りの意味を持つのは、この領域であると言えます。為政者個人の恣意的な意思や強権によって秩序が保たれるのではなく、人々が、法を相互に守ることによって秩序が維持されるからです。 4.枠組系 枠組系の政策領域においても、法の支配は、法律が政策の手段として使われています。各国とも、国旗や国歌などを憲法や法律で定めたり、文化財保護や出入国管理などもまた、法に基づいて実施されています。 第4章へ戻る |