多元主義の政治学

 これまでの政治学は、集団的な戦略決定、内部調整、秩序維持の各系譜に、おおよそ分類することができます。そうして、このことは、一つの役割のみに基礎をおいて構築された理論は、統治のすべてを説明できないことを示唆しているのです。
 例えば、マルクス主義の政治学は、強制的な上からの内部調整(統制経済)のみに国家の役割を特化させました。この結果、集団的戦略決定における理論は欠如し、共産主義国家の行動原則は、自由主義国家への攻撃か、もしくは、弱肉強食の時代そのままです。また、相互に自由の空間を持つ個々人の関係を律するという秩序維持の領域は、全く統治の視野から排除されてしまうのです。その一方で、ファシズムやナチズムのように、国家や民族の戦略性のみを優先させますと、平時にもかかわらず、国民生活も国民の自由をもかえりみない軍国主義国家ができあがってしまいます。
 それでは、個人と個人との横関係の規律のみに統治の役割を期待する秩序維持特化型の理論や思想が望ましいのでしょうか。これも、そうとばかりは言えません。今度は、防衛や安全保障が疎かになったり、また、公共の財源を利用して、全ての人々の生活を向上させるという集団の利点を生かせなくなる可能性もあるのです。
 このように考えますと、政治理論がそれぞれの立場から言い争うことは、もとより理論の基盤となる役割の系譜が違うのですから不毛の論争となりましょう。ここでは、この意味において、役割の多元性に基づいた多元主義的な統治学を提起しているのです。
 なお、政治とは、狭義には、戦略的な決定と内部調整を意味しています。秩序維持については、むしろ、共通ルールを掌る独立的な行政や司法の領域として理解することができましょう。


   統治=集団的戦略決定(政治)+
      内部調整(政治)+
      秩序維持(行政・司法)
                                                   

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