‖2002年夏、スロヴェニア滞在記‖



〜6月27日〜
移動時間長かった……機内食4食くらい食べた気がする。ソウル−フランクフルト間では「ロード・オブ・ザ・リング」が機内上映されてた……ハングルに中国語字幕というハードさ、しかしあの長い映画をもってしてもほんのひと時、それくらい長いフライト。英文の日本紹介本が一冊読み終わった。フランクフルトの免税店で初めて洋書のハードカバーを目撃、買おうと思ったがドイツ語など読めないんで見送り。あと「ドラゴンボール」も売ってた。5ユーロ、タンバリンが表紙。さらに「ドラゴンヘッド」発見、ディープなの売ってるな……フランクフルト−リュブリャナ間で飲んだワインが美味しい。これは楽しみなり。リュブリャナに着いて二週間暮らすことになる家へ移動……めっちゃ広いっス。生活用品は全部完備で快適。ずっと暮らしてもいいかも……心配だったPCの変圧にも成功。これで無敵。
〜6月28日〜
リュブリャナの町並みを歩く。大学までは徒歩で30分程度、まあいい運動か。古風な町並みに大量の自動車、不思議な情景。とりあえず気に入る。リュブリャナ大学は新しい建物は新しいのだが、俺が教える日本語学科がある建物はかなりボロイ。日本の○波大学と互角くらい……まあ良し。突然生徒達から明日コペルに行かないかという話が浮上。教案もろくに準備できてないのでかなり迷ったが、メンバーと相談の上結局行くことに。大学の帰りに豪雨に降られる。びしょ濡れ。ちょっと道に迷ったがそれもまたよし。町並みはキレイだ……。
〜6月29日〜
突然ですが、一路ピランへ。案内人は日本語学科の学生さんのヘレーナさん。英語が上手く、日本語も結構できるんで、非常にありがたい。で、そのヘレーナさんの彼氏の車でピランへGO。つーか彼氏さんスピード出しすぎ、180キロってアンタ……これがヨーロッパのハイウェイかっ!!彼氏さんはグラサンに長髪で決めたクールガイ……と思いきやグラサンをはずすとどこと無く愛嬌があるオタク顔、専門はコンピュータと聞いて納得。ピランの風景は衝撃の美しさ、高台に城跡があってその頂上からの絶景は……天空を貫くような蒼天、ベネチア文明が呼んだ石作りの趣深い町並み、そして水平線の彼方まで続くアドリア海、彼方にイタリアが霞んで見える……。ところでヘレーナさんとその友達のシュペラさん、そうとうな日本漫画通という事実が発覚。ワンピース、ベルセルク、天空のエスカフローネ、エヴァンゲリオン、バスタード、ちょっと挙げただけでも相当な通だ!おまけに魔女っ子も大好き……「この魔女っ子は何と言いましたか?」って……ミンキーモモ!日本人でももうあんまり知ってる人いないかも……夜はシュペラさんの家で母上様が作ってくれた美味しいパスタを食べながら長々と歓談、英語がもっとできればと痛感。あとシュぺラさんのお父さんが面白すぎ、「サヨナラ、ナカタ!」ってあんた……俺は中田じゃないっつーの…なんだってこんなに陽気なんだスロヴェニアのおっちゃんは……W杯の話題は世界共通、「ターキーがコーリアにかったぜ」なんて、たどたどしい英語で教えてくれる。あと道行く人に手合わせられて「こんにちは」とか言われた……ちょっとやり方間違ってます。
〜6月30日〜
昨日に引き続きヘレーナさん、シュペラさんの案内で今度はコペルへ……この街も小さいながら趣がある。海の美しさはなかなか表現できるもんじゃない。コペルの教会で想像を絶するほど美しい双子の少女を目撃、今でも幻だったんじゃないかと思う。基本的にスロヴェニアの少女は美しく、少年は眼が輝いてる。で、帰りの電車の時間までカフェで休息中、テレビでW杯の決勝が始る。日本でやってるドイツ−ブラジルの決勝をスロヴェニアのささやかな海沿いのカフェでスロヴェニアの人々と見るなんて……なんか不思議だ。基本的にドイツを応援してる人が多く、かなりエキサイトして見てる。「うおー」とか「がおー」とか言いながら見てる。たまにブラジル応援してる人もいてブラジルのチャンスに歓声を上げて、ドイツ応援団から「がおー」とか言われてる。なんか子供が俺の方を見て「ジャポネ、ジャポネ」とか言ってる。周りの人たちも不思議な目で見てる……「日本で見ろよお前」って感じの目です。結局決着がつく前に電車の時間となって実習の待つリュブリャナへと帰還……スロヴェニア語のラジオ放送でどうやらブラジルが勝ったらしいことを知る。ヘレーナさんとの別れ……最後に日本から持ってきた「るろうに剣心」の漫画を見せたらとっても喜んでいた……明日からの実習頑張ろう……。
〜7月1日〜
いよいよ実習初日、俺の受け持つ日本語初級者クラスは30人近くの大所帯になってしまった。これは意外であり、嬉しくもあり、また大変でもある。自分で授業をやってみた感想としては英語の説明を間違ってしまったりと、反省すべき点の方が多い。ただ非常にバラエティーに富んだ面々が集まってくれたのでとても楽しい。アンケートに「I’m OTAKU!」なんて書いてる人もいてニヤリ。少し燃えてきました。授業を考え、運営するのは非常に労力を有するのだが、頑張ろうと思う。
〜7月2日〜
実習二日目、あいかわらずギリギリチョップな感じで準備に追われ、そのまま勢いで授業に突入。昨日よりはましになったものの、まだまだ実力が追いついていない。しかし生徒は熱心でちょくちょく質問に来る……スロヴァニアは肉が非常に美味しいです。
〜7月3日〜
今日はわりかし授業がうまくいったかな?スロヴェニア式のローマ字にもだいぶ慣れてきた。授業の初めにけん玉を披露、緊張のせいか5回目にしてようやくけんに入る→生徒から盛大な拍手をうける。あいかわらず質問に英語で答えるのが楽しいけど大変。
〜7月4日〜
授業の初めに宇多田ヒカルの「SAKURAドロップス」と「ガンダムXのOP」を見せる。今日はやや授業が単調になってしまって反省、夜は実習仲間の女の子が作ってくれたグラタンをを食べる。美味しい、食材は良好。
〜7月5日〜
今日は授業後半に日本紹介の時間を設ける。四苦八苦しながら英語で説明し、最後にビデオを見せる。内容は水戸黄門、相撲、CDTV、宇多田ライブ、仮面ライダー龍騎、ドラゴンライダーキックのところで、おおーっ!と歓声があがった。なんか嬉しい。あとトモさんが自分の名前を漢字で書いて欲しいというので「友」と言う字を教えて意味は「friend」だと教えたら非常に喜んでいた。今日で実習前半が終了、とりあえず休もう。
〜7月6日〜
今日は週末、実習を一時忘れて観光へ、目的はブレッド湖。古城と湖に浮かぶ教会が目当て。リュブリャナからバスで一時間ちょっとで到着。湖の風景は開放的の一言に尽きる。馬車も走ってたが、三時間ほどで一周できるというガイドブックの文句を信じて徒歩で湖一周。どうでもいいがスロヴェニア人は老人が元気な気がする。水着きたおっちゃんが腹をタポタポさせながら陽気に歩いている。湖を一周した所でブレッド城に登る。ブレッド城から見下ろす景色もまた絶景(というか城の上はカフェになってた。登山で乾いたのどに潤いのdrinkというわけ、やるな)。今日は非常に開放的な一日、夕食に入ったレストランも美味しい上に英語が通じて言うこと無し。
〜7月7日〜
ちょこっと授業の準備をしては睡眠→またちょこっと教案を書いて睡眠……というサイクルを繰り返していたらあっという間に一日が終わってしまった。明日からまたギリギリな生活が始る……。
〜7月8日〜
今日から動詞を導入→自作の絵カードが小さくて見えにくいと指摘される。これだから大人数のクラスは困る。
〜7月9日〜
生徒の中にリュブリャナのアニメクラブの子がいて、この授業面白いからリポートさせてくれ!と言われる。写真も取られました。俺がもっと英語ができればいろいろ語ってやれるのに……夜は美味しいレストラン(この前と同じ店)で先生方と会食、まあ美味しいし楽しかった。授業のネタが本日で枯渇した……明日からどうしよう?
〜7月10日〜
非常に好感を持ってた研究者のジェントルマンから「明日からなんとかという山にいくから授業に出れなくなるんだ、いままでアリガトウ」と言われる。「いやいや、こちらこそ」と日本語で答えておきました。今日は自分的にはうまくいった授業、一日の予定を考えるタスクを行ったが、皆少ない動詞で頑張ってた。
〜7月11日〜
過去一番ギリギリチョップな授業。直前で教案を全部書き直す羽目になったので、ほとんどぶっつけのアドリブで授業、でもかえって吹っ切れて楽しかったかも。よく「ひらがなをチェックしてくれ」と言って持ってくるユーレさんが面白い、結構カッコいい兄ちゃんなんだが、アニメ好きらしい。あと毎回流暢な英語で質問にくるイナさんが14歳と知ってショック……俺よりめっちゃ英語上手いんですけど……質問もしっかりしてるし…スロベニア人の言語能力には脱帽の限りだ……。
〜7月12日〜
いよいよ実習最終日、今までの復習兼、ゲーム的な活動をして締めくくる。最後、自分ではまったく予想していなかったことなのだが、生徒一同から贈り物のお菓子とメッセージカードをもらう。授業が終わっても皆帰ろうとせずにいろいろ話かけてくる……「いつ日本へ帰るんだい?」「日本へはまだ帰らないけど、明日ウィーンへ発つ予定なんだ」「そうかい、もし週末暇だったら空手でも教えてもらおうと思ったのに……この空手ペンを挙げよう……」「ありがとう」(コンピュータエンジニアのミティヤさんとの会話、漢字で「空手」と書かれたペンを受け取る)」皆、「すごく沢山のことを学べたよ、ありがとう」「日本語は面白いからこの先も勉強を続けようと思うよ」「あなたはGOOD TEACHRだ。楽しかったよ」なんていろいろ言ってくれる……生徒達の俺を見る眼は予想外なほど好意的だったようだ。アニメ好きのコンピュータボーイのユーレさんからは「今後の授業に役立ててくれ」なんて、授業で使った語彙が全部纏められたフロッピーを渡される。お返しに「おジャ魔女」が入ったCD−Rをプレゼントしておきました……全部終了したあと、実習仲間のYさんがたててくれた抹茶を飲む(授業の日本紹介で使ったのですな)。全てが終わった開放的な雰囲気の中で、そしてスロヴェニアで飲む抹茶は……美味い。一個人に蓄積されている心のパワーのようなものを振り絞って、一歩前に進まなければならない時がある……ここに来て良かった。
〜7月13日〜
実習チームも解散し、今日からは一人旅。二週間で愛着が湧いたリュブリャナを発ち列車にゆられること6時間、一路ウィーンへ。ウィーンへ到着!で速攻道に迷う!なんかウィーンの地図は見ずらいよ……現在位置書いてないし……北へ歩くべき所を思いっきり南に一時間ほど歩いてしまいました。結局地下鉄に乗ることに……勘を頼りになんとか乗り継いでホテルに到着……ホテルのボーイさんの英語が早すぎでちょっとたじろく……まあチップを渡してさようなら。部屋から教会が見えますよ!あの尖塔はゴシック建築だ!やたー。明日はシュテファン寺院を見るぞ!
〜7月14日〜
さあジャンジャン観光いたしましたよ。市庁舎……ゴシック様式の鮮麗かつ巨大な建築、あの尖塔の先に何を見るのか……シュテファン寺院……期待していたほど尖塔に洗練さは感じなかったが、登れるのはいいね。でも俺は高所恐怖症なんでちょっときつかった。尖塔の上から見下ろすウィーンの町並みな素敵すぎだ。美術史博物館……美術に関する知識がないので自分の原初感覚に頼り、心に残った絵画をメモする……で、心に残ったのが「バベルの塔」、と思ったらやはり有名な作品だったのね、フリューゲルという人の作品だそうです。ホテルザッハ……本家ザッハートルテ&美味しすぎのコーヒーを経験いたしましたよ……なんつーか味に階層性があって深い。トルテよりもコーヒーに感動、こんな美味いコーヒーがあったとは!!……少し時間が余ったので南の方に繰り出してみたらまた道に迷う……地図なしでこの街は無理だ……また地下鉄で帰還。夜はパスタがうま!今のとこ美味しいものリスト……ワイン、ビール、イカはスロヴェニア。パスタはウィーン。コーヒー、ザッハートルテはホテルザッハ!!明日はプラハだ!!!!!
〜7月15日〜
ウィーンについた日とは違って余裕をもってホテルにチェックインできたので、午後から早速プラハの街を探索に……むむ、今日は東岸を主に見て回ったんだが、どうも観光地になりすぎてる気がするなあ……人が多すぎるし、何か落書きがひどくて美観を損ねてるし。ティーン教会もウィーンの市庁舎やシュテファン寺院と比べると今ひとつ迫力がなかったなあ……まあ明日のプラハ城に期待しますか。ホテルの部屋は良好、今まで泊まったホテルの中で一番いい部屋かも……
〜7月16日〜
すっかり慣れたヨーロッパの地下鉄に乗ってプラハの中心へ、昨日も訪れたティーン教会のある旧市街広場を通り抜け一路西地区へ。東地区と西地区を分けるのは壮大なヴァルタヴァ川、それにかかるカレル橋……この橋は遠くから眺めるだけでも趣き深いんだが、やっぱり渡ってみるのが一番。橋の上から見えるヴァルタヴァ川の風景が素敵です。なんというか淡々と流れているんですな。登り道をとぼとぼ歩いていくとまたもやここは何処状態に、しかし今度はすぐに現状把握。だって巨大な聖ヴィード大聖堂が近くに見えたから。ヴィード大聖堂、これは迫力。一体どうしてこれだけ巨大な建築物に、あれだけ綿密な彫刻を施せるのだろう?プラハ城の敷地内は何処も彼処も観光客だらけ、ちょっと窮屈だけどまあ見所満載だからね。カフカの家なんてのも見てきました。しかし今回一番残念なことが……すっごい楽しみにしてたストラホフ修道院の図書館が……入れない!なんか整備かなんかのため20日まで閉鎖なんだとさ……ああ、哲学の間を見たかったのに……どうも今回プラハとは巡り合わせが悪かったのか?そのことを証明するかのように午後からは豪雨に見舞われる。これは行動できん。いつもは大混雑のカレル橋が大雨のせいでほとんど人がいなくなった……スイスイと渡ってきてちょっと開放感、それにしてもこの橋はデカイ。しょーがないんでおみやげ買って少し早めにホテルに帰還。金もそこを尽きかけてきた……今回の旅も終わりだなあ……
〜7月17日〜
一路日本へ、今、日本の情報何にも無しです。何が起こってるのか全然分かりません。首相が死んでても分かりません。思考も日本語モードに切り替えていかないと……帰りは空港の待ち時間をいかに潰すかがポイントですな。プラハの空港で3時間、フランクフルトで2時間、ソウルで5時間の待ち時間……いったい何して過ごせばいいものやら。とりあえずフランクフルトまでにサリンジャーの「ナインストーリーズ」を読了する。後はひたすら飛行機内で貰える英字新聞読んでました。ソウルに向かう飛行機の中あたりで多分日付が変わったっス。
〜7月18日〜
成田空港の明かりが見えてくる……終わりだなあこの旅も。でも終わるための旅ではないのです。そう、自分はいわば恒常的な旅の途中なのかもしれないのですから(「Papa told me」)、などと言ってみる。友人が迎えに来てくれるまで、夜中のシンとした成田空港内にたたずむ……さて、やることはやった。そしてこれからやることが山積している。人は何をしてきたか、そしてこれから何ができるのか、そういった行動の集積に他ならないのです…………いい旅でした。そして誰かの真似じゃない私はこれから続きを書きます(「parody」hikaru utada)。

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