+ツバサ・クロニクル感想+

01話〜13話>>14話〜26話>>27話〜39話>>40話〜50話
■音楽最高/第01話「必然のデアイ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「お願いです!サクラを助けて下さい!」(小狼)

 超 良 質 

 まさにNHK教育でやるアニメって感じ。娯楽として子どもに見て貰いたい、そんな番組です。とりあえず2点、原作への愛を感じる点と、音楽が素晴らしい点、非常にスバラシイです。

・原作への愛を感じます

 「さまざまな世界を旅する」というのがキーの物語なんで、世界が変わるごとに世界観を絵で描写することが映像媒体では大事、つーかキャラクターの絵よりもその世界を表す風景の絵が大事なくらいだと思うんですが、そこを押さえてるのがステキでした。玖楼国の描写が立体的というか、ほんとうにそういう世界があってそこに人々の生活があるかのように描かれていたのが良かったです。また、黒鋼の国とファイの国もちょっと描写されましたが、ちょっと雰囲気を変えつつその世界ごとに音楽を割り当てて違う世界感を出してるのがステキでした。「様々な世界を旅する」がキーな原作を精一杯尊重してる感じで好感がもてました。

・音楽がスバラシイです

 クライマックスの所でコーラス付きの曲が入るのが最高。美しい上に盛り上がります。これは、原作で見開き大ゴマで演出されてるクライマックスのシーンなんかで毎回この曲がかかって盛り上げてくれるのを期待です。高麗国での小狼くんの後ろ回し蹴りのシーンとか、今から楽しみ。超絶燃えになりそう。

 そして、OP&EDも最高です。これはアタリです。

◇つかやっぱ小狼くんはいいな

 やっぱ信念が決まってる男の子はカッコいい。その前に見てるSEED DESTINYがハートをグラグラさせながら道を模索していく登場人物ばかりなので、対照的にハートが最初からしっかりしてる小狼くんは見ていて清々しい(サクラ原理主義って感じですが)。バトルの技術的にはまだまだ未熟で成長型主人公として描かれるんですが、ハートの方は最初から骨太に完成系の主人公です。カッコいい!

◇次回の侑子さんとの対話に期待

 侑子さんとの「対価」の話は哲学テイストを抜かないでがっつり入れて欲しい。多少説教くさくなってもありです。良質な子ども番組チックなんで、寓話の役割も担ってもらいましょう。

 ちょっとだけ、侑子さんの目がわりと普通っぽかったのが残念かな。原作のちょっとイッちゃってるようで、それでいて全てを超越してる感じの目が好きなんですが。

◇原作との相違点

 第01話から黒鋼とファイが出て来てるとか、細かい所はありますが、一番はOPも含めて最初から敵サイドの「もう一人の小狼」が出てることかな。マガジン連載中の部分でもまだこの「もう一人の小狼」の謎は全然回収されてないんですが、こんなに早くから入れてて大丈夫なんだろうかというのはあります。(人気との兼ね合いとかあるんでしょうが)せっかく原作をリスペクトしてるようなアニメ版なんで、中途に「もう一人の小狼」はアニメオリジナル設定にして帰結させちゃうとかはちょっとイヤかな。

 つーわけで全体的に満足でした。時間との兼ね合いもありますが、出来るだけ感想書いていきたいと思います。  
 
■覚悟完了燃え/第02話「戦うチカラ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「覚悟と誠意、何かをやり遂げるために必要なものが、あなたにはちゃんと備わっているようね」(侑子さん)

 原作で超好きな旅立ちの場面です。

 アニメ版だけだとどうしてもツバササイドだけからしかこの台詞を味わえないのが惜しい。

 実は原作の『XXXHOLiC』1巻に、この「本当の覚悟と誠意」というのをキーワードに少々哲学的に解体した1話が収録されており、そこでは「本当の覚悟と誠意」が持てなかった人の顛末がネガティブチックに描写されてたりします。このシーンはそことの対比を知ってる視聴者にとっては、めちゃめちゃ熱い場面だったりします。『HOLiC』を読んでいると、侑子さん、上の台詞で、尋常無く小狼を“買っている”のが分かります。一生に一度言って貰えるかどうかという、最大限の賛辞です。

 『XXXHOLiC』1巻より抜粋。

 「違う 他人は関係ないわ 自分への、誠意よ」

 「今の世界を失っても 居心地のいい場所を捨てても、求めるものを追う 失うものの重さも辛さ分かってて、それでも欲する そのために生きる そういうのが本当の覚悟」(侑子さん)

 是非、アニメ版のみの視聴者の方も原作を取って頂いて、これだけの、「今の世界=サクラとの関係性」を失ってでも、それでも「サクラの命」を欲するという小狼くんの「覚悟」に酔いしれてやって下さい。

 されど、そういった裏の「深み」が満喫できないのは惜しくとも、アニメ版はアニメ版で子ども向けにエンタメパートを押し出して加工していて良質だと思います。

 具体的には、平成仮面ライダー的盛り上げ方というか、1話の後半に1バトル入れて、それをコーラス付きの楽曲で盛り上げていく……という方針っぽいのが好感です。今話も、原作では1枚目の羽に関してはバトルも何もなかったんですが、改変してバトルパートを挿入し、エンタメ度注入に気を使ってるようです。それは子ども番組としては正しいので、文句無しです。空汰と嵐の登場までハショっちゃったのはちょい残念に思いますが、前半が侑子さんの哲学パートで、後半が空汰と嵐による阪神共和国の世界観の説明パートでは、盛り上がりに欠けてしまいますもんね。バトル挿入はアリでしょう。

 ただ、やっぱりハショった部分が惜しいと感じてしまうんで、ウチの感想ではハショられてる部分の裏の「深み」を解説しながら感想書いていこうと思います。

 例えば今話だと、サブタイ「戦うチカラ」が原作だともっと「深み」を増して響いてくるように構成していたりします。黒鋼は刀を、ファイは紋章を侑子さんに差し出したために、現在は「戦うチカラ」が無い。小狼くんも足技を現時点では温存していて「戦うチカラ」がない。そんな風にタメておいて、そして、阪神共和国での「戦うチカラ」として、心の強さを反映する「巧断」が小狼くんに宿るというのが熱いシーンとして描かれます。是非ともアニメ版でも表面的なとこだけじゃなく、この小狼くんの「サクラを守る」という強い心が炎の獣の特級巧断を呼び寄せた……という辺りまで想いを馳せて見て貰いたい部分です。是非原作でも補完して、サクラを守りたい気持ちが呼び寄せた炎の獣……というシチェーションに酔いしれて下さい。
 
■破魔・竜王刃燃え/第03話「破魔のカタナ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「おい、寝ろ。とにかく、寝ろ」(黒鋼)

 徐々に小狼、黒鋼、ファイの「くっついてるんだけど離れてる」独特の関係性の構築をアニメ版でも描き始めています。原作だとお好み焼き屋には黒鋼も一緒に行って、そこでのギャグチックな黒鋼も三人の関係の発展に一枚噛んでるんですが、その辺りを改変しても、今回のように、Aパートラスト@起きてる小狼に気づきつつ同じく起きてる声はかけない黒鋼→Bパートラスト@起きてる小狼に「寝ろ」と声をかける黒鋼……という変化で関係性の発展を表現しているというオリジナル要素を入れてくれてるのは好感な部分です。

 全体的に頭の中を空っぽにして楽しめる少年向けアニメテイストが強くてステキです。原作はともすれば情報量が多く、ときたま出てくる哲学に考えさせらて時間が過ぎてしまったりと、結構読解に時間がかかったりもするんですが、アニメ版はそういうのを極力簡単にして、ポップに後半パートはバトルで楽しませてくれます。動画の「破魔・竜王刃」は疾走してる感じでカッコ良かった。黒鋼の必殺技は徐々に派手になっていくので、動画でどこまで魅せてくれるかに期待です。
 空汰と嵐の登場を原作と変えて今話のAパートに持ってきたなんてのもポップさ、ノリを重視するための配慮でしょうね。Bパートは、基本的にバトルで!みたいな。

◇正義くん

 原作未読の方は、このサブキャラ正義くんに注目して視聴しておいて欲しい所です。強い主人公とペアで、その主人公に憧れる等身大の読者視点キャラを設定するというのは漫画でよくある手法ですが、『ツバサ』の主要登場人物は皆「強い」ので、最初の憧れキャラとしてはゲストキャラの正義くんを設定しています。この「憧れ」に関する正義くん自身の昇華、そして正義くん視点から見る、小狼の「カッコよさ」、かなりイイですよ。アニメ版でも是非描いて欲しい部分です。

◇多重世界

 「言うなれば、根元が同じなんだ」(ファイ)

 SFではお馴染みの多重世界を舞台にしてる『ツバサ』ですが、この多重世界に生きる「同じだけど同じじゃない自分」というのが今後のキーになってきます。現在原作の連載進行部分まで読んでもどのくらいこのテーマが昇華されるのかは不明なんですが、一大伏線である「もう一人の小狼」辺りが絡むメイン要素であると思われます。注目ポイントです。
 僕はあんまりCLAMP作品読み込んでないんでこの辺りは弱い部分なんですが、知ってる人にはニヤリとさせられるこの「根元が同じなんだ」設定らしいです。実際、僕も読んでる『カードキャプターさくら』を踏まえると、『ツバサ』に出てくる知世ちゃんなんかはなるほど、確かに『根元が同じ』だとニヤリとさせられます。多重世界SFの醍醐味ですね。
 
■巫女服着てました/第04話「汚れなき放浪」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「でも私は信じています。今を生きている限り、思い出は流れる時のように、新たに生み出されていくことを」(サクラ)

 原作には無いサクラのモノローグは、作品のテーマを言語化して語っちゃった感じです。こういうのはそこはかとなく物語全体から感じ取るのが視聴者側の醍醐味だとも思うんですが、視聴年齢層を意識して分かりやすく言葉にして表現した模様。
 雑誌ニュータイプ4月号の『ツバサ・クロニクル』記事にて、監督の真下氏が語っておられます。

 「サクラの記憶を取り戻すための旅なんですけど、そんなことどうでもいいじゃないかと。旅をして、これからつくっていく未来の記憶・体験のほうが重要なんだよということが、原作を読むとばーんと表に出ているんですよね。たとえ何かを失うとしても前向きに生きるんだと言い切っちゃってるすごさ。そこはアニメでも一番大切にしていきたい」

 この「前向きさ」が今話冒頭のサクラのモノローグには込められていたように思います。僕的にも原作が開始した序盤から、『ツバサ』の帰結は侑子さんに対価として差し出したサクラとの過去の関係性以上の深い関係性を、その後の旅の中で小狼とサクラは作り上げていた……という所に着地するしかないだろうとずっと言っておりました。失っても前向きに作り上げる。ときおり厳しさが描かれる物語ですが、全体ではとことん前向きなメッセージを発しています。

◇今話はサクラ放浪のオリジナルエピソード

 原作では阪神共和国編の羽が見つかるまでサクラは眠っているんですが、改編してサクラパートを第04話に持ってきました。衣装お着替え編とか、普通にエンタメしていて楽しかったと思います。こういう風に改編した利点はこういう風にサクラというキャラを楽しさパートの中に組み込んでヒロインとしての印象を視聴者に残しておくことができる点かと。今話はバトルパートこそ無かったものの、クライマックスの宙に舞うサクラを小狼が受け止める所をコーラス付きのBGMで盛り上げていたのは普通に盛り上がりました。サクラ原理主義者の小狼くんがサクラのためにアクションするシーンがツバサの爽快感の源だと思うので、サクラを長い間物語から離さずにこうやってヒロイン役割で物語を盛り上げる役を買ってもらうのは短期的な盛り上がりも大事なアニメ版としては良いんじゃないでしょうか(ワルを改心させてたのも聖女ベクトルでヒロインらしさをアピールしてました)。
 改編の欠点の方は、なまじ羽がどうこうとサクラが喋ってしまったので、原作通りだとサクラが目覚めた瞬間に発する最初の言葉が小狼に対する「…あなた だあれ?」だという切なさ演出の重みが軽くなってしまったことでしょうか。ずっと喋らず眠り続けていたサクラを守るためにボロボロになって奔走した小狼にかけられる最初の言葉がそれかよ!という所が切なさ炸裂の演出だったんで、そこん所はアニメ版のように改変して既にサクラが色々動いてちゃうと、そのシーンの重さがちょっとばかし軽くなってしまいます。引用した監督コメントを素で解釈するなら、そういう重いシーンよりもポップな前向きさ重視で改変したのかな。「前向きさを前面に出す」と言い切ってるアニメ版も好きなんでOKですが。
 
■3人の関係がイイ/第05話「魔術師のバトル」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「驚かねェな」(黒鋼)

 原作でも好きだった、黒鋼のみならず小狼もファイの「ただものじゃ無さ」を見抜いており、そんな小狼を黒鋼も認めるシーン。この認め方がくっつきすぎず、離れすぎずの微細な関係って感じで好き。この微細な関係はファイ→小狼でも描かれます。

 「小狼君は大事な用があるんだよ」(ファイ)

 この、ファイの既に小狼君を認めてる台詞も好き。くっつき過ぎず、でも既にファイは高く小狼のことを買っています。こういう男性同士の関係には憧れます。

 で、次回、黒鋼とファイが無言で小狼のことを高く買う、原作名台詞(&シーン)の、

 「まだやらなきゃならないことがあるのに死んだりしません」(小狼)

 かな。原作では静止画のような絵に台詞を太字強調という演出でしたが、アニメ版ではどういう風に表現されるのか楽しみ。

◇今回は

 先週原作ブレイクした分、ビックリするほど原作通りでした。そんな原作の中でコーラスで盛り上げるクライマックスシーンに選ばれたのは小狼の炎の巧断発現シーン。燃えます(絵的にも燃えてます)。そうだよね、原作ではファイがプリメーラにやさしく声かける所が見開き扱いだったけど、そこをコーラス付きで盛り上げるのは何か違うもんね。

◇My巧断とマイク

 ダジャレかけてた?アニメ版で音声にしてもらって初めて気付いた(笑)。
 
■高密度な1話でした/第06話「泣かないナミダ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「死にません。まだやらなきゃならないことがあるのに、死んだりしません」(小狼)

 密 度 高 ッ 。

 原作では、正義くんがプリメーラちゃんを守るために「強くなるんだ!」と咆吼して1話、覚悟炸裂で小狼くんが羽を取り戻して1話、「あなた、だあれ」で小狼くんが泣かないナミダを流して1話、旅立ちで1話……と1話1クライマックス計算だと4クライマックスあったんですが、アニメ版ではこれらを全て1話にまとめてきました。ゆえに、どの台詞を引用するべきかかなり迷ったんですが、やっぱり『XXXHOLiC』と関連させての「本当の覚悟」がツバサのテーマの中で一番好きなので、覚悟炸裂の小狼くんの台詞を選んでみました。「僕はしにましぇん」的に運命にゆだねてるがゆえの「死んだりしません」ではなく、自立意志で、何を失ってもやると決めたことをやり遂げるという「本当の覚悟」からくる「死んだりしません」です。

 そしてXXXHOLiC的に「何かを失うとしても」の部分が、すぐさまサクラは小狼の記憶を失っているという事実によって突きつけられます。されど小狼くんは有言実行の男なので、そこで涙を流してグチったりしません。流すのは「泣かないナミダ」のみです。

 そんな小狼くんを買い始めてる黒鋼が、

 「下を向くな、やらなきゃならねぇことがあるなら、前だけ見てろ」(黒鋼)

 と、近過ぎず遠すぎずな関係からエールを送り、小狼も過度に受け取りすぎず邪険にもせずに自然に励まされて新世界への旅路へ。

 ラストの、

 「大丈夫です、オレがついてますから」(小狼)

 はアニメオリジナルの台詞です。「あなた、だあれ」から「泣かないナミダ」を流して下降してた小狼くんの心が黒鋼のエールでよみがえり、言葉通り前を向くことに……という流れでラストを前向き部分で締めるナイスな追加だったと思います。失った関係性があったとしても、未来に新しい関係性を作ればいい。04話冒頭のサクラのアニメ版オリジナルのモノローグといい、アニメ版はこの点を前面に押し出していくみたいですね。

◇ピコポイント

 アニメ版ではカットされましたが、原作版では旅立ちの際に小狼くんが正義くんに一台詞かけます(太字強調されてる結構重要台詞だったり)。正義くん物語の締めになるシーンなので、正義くん視点の「強さ」をテーマにした物語の帰結をもっとしっかり味わいたい人は是非原作版を手にとって読んで頂きたい部分です。

◇フライング燃え予告

 次回より高麗国編の模様です。激燃えの小狼くんの後ろ回し蹴りシーンやいかに演出されるのか。ツバサにハマるきっかけになったのが今回の「死にません。まだやらなきゃならないことがあるのに、死んだりしません」と、高麗国編クライマックスの小狼くん後ろ回し蹴りシーンで飛び出す小狼くんの台詞だったりします。期待して待ちたいと思います。

 それにしてもアニメ版に合わせて原作も再読する楽しみは中々オツなものがあるなー。
 
■オリジナル要素も丁寧/第07話「砕けたカタミ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「足りないんだよ、羽根(キオク)が」(ファイ)

 この辺り、現在連載続行中の原作版の、ココロや笑顔を取り戻したサクラを見てると感慨深い。こういう風にココロがゼロの状態から始まったサクラが、小狼くん達との旅を通して空白のココロを埋めていくココロ再構築物語でもあります、ツバサ。そして、「再構築」と敢えて言うのは、記憶と友にココロを取り戻したサクラは単に前のサクラに戻るというワケではなく、旅を通して成長し、小狼くん達と新たな関係性を築いていくニューサクラでもあるから。とことん前向きな話です。このサクラ物語の基本的な作りはとても好きです。
 それに関連して、今回入った呼び名がお互いに、(小狼→小狼くん)、(サクラ→サクラ姫)と変わってるという切なさ演出は、変化してしまった関係を描写してるだけじゃなく、この高麗国編クライマックスに繋がる伏線だったりします。アニメ版初見の人は覚えておくと後で燃えられます。

◇サブタイ「砕けたカタミ」はアニメオリジナル

 春香(チュニャン)の母の形見の扇が砕かれてしまうのはアニメオリジナル展開。遺跡発掘に骨董品鑑賞と、歴史や人の想いがこもった“モノ”に対して敬意を持ってる小狼くんという設定があるので、ここでそういった類の想いがこもった“モノ”を敵サイドにぞんざいに扱わせるという展開は上手いです。小狼くんの静かな怒り不可避というシチェーションです。アニメオリジナル要素を追加するにも、原作の設定に配慮してるなぁという感じです。

◇暗行御史(アメンオサ)は密偵衆に変更

 いきなり音声のみで「アメンオサ」とか言われても分からないですからね。その辺りを考慮してか、全体的に原作であったコリア読みな名詞は改変。

◇服装で世界観描写

 次元が変わるごとに異なる世界を旅するというのがツバサの魅力の一つなので、毎回毎回その世界の風俗やら何やらで世界観を表現していくのがポイントになります。小狼くんとサクラの衣装チェンジが今回の高麗国のコリアな世界観を表現する潤滑油として機能してるのが上手い。
 あと気付いたんだけど、原作でも二番目の国にコリアな世界観を選んだのは、小狼くんの足技をこの国で披露する展開をも考慮してですかね。コリア衣装に動画で炸裂する小狼くんの足技を見て、そうか、テコンドーやりたかったんだ!と納得させられました。動画で描かれる足技はカッコいいっス。1話に1クライマックスとして、コーラスで盛り上げての小狼くんの足技バトルを後半に持ってきてるのも相変わらず丁寧だと思いました。

◇サクラの賭博サイドストーリー

 原作版ではサイコロ賭博でしたが、アニメ版では福引き。地味に色々な世界でサクラちゃん賭博サイドストーリーとも言えるような、サクラが色々な賭け事に参加して勝利する話が入ります。アニメ版でも色々とサクラにギャンブルさせて欲しい所。
 
■サクラちゃんオリジナルストーリーその2/第08話「神の愛娘」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「時として人は、生きる勇気を忘れてしまうものです。でも心に信じる“何か”がある限り、勇気は決して消え去ることはありません」(サクラ)

 第04話でも入った、原作には無いサクラのモノローグ。そして内容も第04話と同様に、原作には無いサクラ中心のオリジナルストーリー。原作ではサクラはある程度羽が集まるまで守られ要員で出番もあんまし無いんですが、アニメ版では原作版を変えてでもどんどんサクラに出番を作っていく方針の模様です。04話でワルを改心させたのと同様、今話でも一人異形の姿に変えられてしまった村人を理解すると、聖女ベクトルでの魅力が積極的に描かれています。

 この聖女ベクトルの描かれた方は現段階では羽が少ないせいで肉薄したサクラの内面描写はできない、よって内面はボカしてるんだけどなんとなく神聖な感じ……という方策で魅力を作ってるように感じます。なので、最初からここまでサクラを描写する気満々な制作陣の姿勢を感じると、ある程度羽が集まってきてサクラが人間味を帯びてきてからの活躍描写に期待が高まります。そりゃもう、生き生きと描いてくれるんじゃないかと期待です。

 そして、そんなサクラに対してサクラ原理主義者の小狼くんは原作通りだろうがオリジナルストーリーだろうが変わらず。分かりやすくて心地よい。

◇それにしても

 僕、『ツバサ』の小狼くん・サクラカップルは非常に好きですわ。僕は男女カップリングの魅力で漫画やアニメを観るタイプではない方なんですが、この二人は好き。記憶を失ってゼロになったとしても、また漸進的に関係性を作り出していくんだという前向きな関係に惚れます。私事ですが身内が認知障害でこれまでのコミュニケーションの形を遂行するのが困難に、関係の形がほぼゼロになってしまったというのを経験してるので、それでも新しくコミュニケーションを続けて関わり方の形を作っていくんだというメッセージは非常に励みになります。

◇原作未読者は覚えておくと良い伏線

 今回春香(チュニャン)が「母親の仇を取りたい」みたいに復讐心にモティベイトされていたのが高麗国編クライマックスに繋がる伏線だったりします。覚えておくと後で燃えられると思います。よしなに。
 
■今から次回の後ろ回し蹴りに期待/第09話「妖しきオンナ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「小狼くんにはやるべきことがあるんだから」(ファイ)

 1エピソードごとに結構入る、ファイが小狼くんを「買ってる」台詞で送り出すシーンは好き。

 けれど全体としてはタメの1話かな。ファイ&黒鋼のVS秘妖(キイシム)、小狼くんのVS領主の息子……のバトルクライマックスは次回です。ファイと黒鋼がお互いにほどよく距離を保ったまま「旅を続けるためにここでは死ねない理由」を語るシーンと、覚悟完了の小狼くんが後ろ回し蹴りを炸裂させる際の台詞が見所です。今週の小狼くんの足の負傷がいい感じのタメになって炸裂します。いつものコーラス演出で盛り上げて欲しい所。

 あとは前回オリジナルでサクラをピックアップする話を入れた分、原作に追加要素を入れてサクラちゃんにも出番を作るみたいですね。何か神々しさモードで春香(チュニャン)に語りかけてたのはアニメオリジナルです。春香の行動は原作と変わらないと思われるので、どのようにサクラを絡ませるかは想像できるんですが、とりあえずそれは次回を楽しみにということで。

 あと、Amazonに『ツバサ・クロニクル 主題歌』ってことで牧野由依さんのマキシが8月10日発売で予約開始されてるの発見したんだけど、これはガンダムSEED的に1クールごとにOP変える方針なのかな?それとも劇場版の主題歌?何か知ってる方がおられましたら情報求みます。
 
■春香ちゃん主役でした/第10話「別離のカガミ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「私の力は誰かを幸せにするためにあるんだ」(春香)

 今週は当然原作の中でも僕が好きな屈指の台詞、

 「……庇ったりしない、どこを怪我していようが関係ない、やると決めたことはやる、それだけだ」(小狼)

 を引用することになると思って観始めたんですが、なんと、原作で見開きで大々的に描かれたこのシーンは前半のピコクライマックスで、後半の本命クライマックスは春香ちゃんを主役に添えての母との対話のシーンでした。サブタイ見た時からそんな気がしてましたが、オリジナル要素の方をクライマックスに構成してきました。

 だが、それが結構良かった

 一つは『ツバサ・クロニクル』の感想では何回も書いてるように、このアニメ版は原作をちょっとだけブレイクして聖女ベクトルでサクラが序盤から活躍するように描かれてる点。その方針にブレがない感じで、今話でも春香の母親の魂を宿すという、巫女ベクトルという、まさに聖女ベクトルでちゃんと物語の中に役割が組み込まれていました。それが良かった。

 二つめは、これは次週明らかになる点ですが、展開上、オリジナル要素とはいえ、ここで春香がサクラを通して母親と対話したのが、この高麗国編のクライマックスでの春香の台詞にかかってくるように構成されている点。アニメのオリジナル要素なんだけど、ちゃんと高麗国編全体を見ると伏線になるように構成されてます。これが結構美しい。

 三つめは、理屈抜きに親から子へ連綿と受け継がれる精神(教え)というのがシチェーションとして良かった。歴史、古い物、連綿と続く時間……なんてものを尊重する小狼くんのキャラ設定にもかかってきてツバサのテーマと矛盾しないし、敵キャラのネガティブ描写としてそういう「過去との繋がり」である春香の母親の扇をぞんざいに扱う領主の息子……というシーンがタメとして描かれていました(これもアニメオリジナル要素、オリジナル要素を上手く物語構成に組み込んでるのは本当ツバサ・クロニクルは上手い感じ)。そんなぞんざいに踏みにじられた「繋がり」の描写があったからこそ、それでも母と娘は繋がっていて、大事なことを伝えていくんだ……という今話のクライマックスは普通に中々良かった。

 「私の力は誰かを幸せにするためにあるんだ」(春香)

 劇中では秘術というはなはだファンタジックな「力」ですが、現実の様々な「力」に置き換えても通じるものがあるイイ教訓だよなーと思って観てました。さすが教育テレビでやってるだけあります(^_^;
 
■春香ちゃんが主人公でした/第11話「選ばれたアシタ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「あの二人は偽者だ、今の姫は、もう俺を小狼とは呼ばない」(小狼)

 燃え。

 漫画版でも燃え度が高かったシーンですが、コーラスの効果もあって燃え度はアニメ版の方が上かも。

 第07話で張ったお互いの呼び名に関する伏線を踏まえて、昔の関係性のまま小狼を呼び捨てにするサクラから偽者と看破。看破する小狼くんの瞳のアップシーンでコーラスが始まる所がカッコよかった。

◇死者は生き返らない

 ここも前回張ったアニメオリジナルの母と春香(チュニャン)の会話の伏線を生かして、

 「母様が言ってた、どんな力を使っても、失った生命は戻らないって」(春香)

 の帰結。

 これは原作の『ツバサ』でも繰り返し強調されてるテーマで、最近の阿修羅王の話でも小狼の口から同じ趣旨の台詞が語られていました。作中で明言はされてませんが、多分、これだけは侑子さんでも無理……という設定。対価と相応の願いの成就を描いている物語だからこそ、どうやっても叶えられない願いがあるという設定は燃えます。

◇春香ちゃんの成長物語

 こちらも領主への憎しみにモティベイトされてる春香の様子を序盤に入れておいて、母親との対話、ラストは小狼くんの語りを踏まえて、

 「こんなヤツ、殴る手がもったいない」(春香)

 の帰結へ。

 春香ちゃんの成長物語が描かれておりました。『ツバサ』はどちらかというと、小狼、ファイ、黒鋼らのメインメンバーが物語序盤からかなり成熟してるキャラなので、最初のうちは未熟な所からの成長物語はその世界その世界のゲスト主人公に委ねてるように思います。阪神共和国編での正義くん、高麗国編での春香ちゃんがその成長主人公の役割を担ってます。前回まるまるアニメオリジナルで春香話を入れてただけあって、春香ちゃん成長物語はかなり良かった。

◇誕生日は「アイデンティティ探し」の方のテーマの伏線

 蘇ったサクラの記憶がサクラの誕生会の記憶というのは、『ツバサ』のテーマの一つ、小狼くんのアイデンティティ探しにかかる伏線です。誕生日があるサクラに対して、アニメ版ではまだ明らかにされてませんが、誕生日がなく過去の自分がない小狼、そこにさらに小狼のアイデンティティを揺るがす存在として迫る「もう一人の小狼」……という風に物語が繋がっていきます。次回の話が、僕の考えるこの「小狼くんのアイデンティティ探し」の方のテーマの帰結を暗示させる話なんで、このタイミングで誕生日の話ともう一人の小狼のシーンを入れているのは上手いです。

◇次回

 僕が原作でとても好きな短編ストーリーの、「湖の国」の話。子ども向けアクションバトルが入らないこの短編の魅力を、アニメ版ではどうやって出していくのか楽しみです。
 
■超重要話/第12話「暖かなエガオ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「それにね、前のこと覚えてなくても、コレからは私が覚えてるよ」(幼サクラ)

 大満足。観てて原作におけるこの湖の国のショートエピソードの重要度が再確認できたし、追加されたアニメオリジナルの味付けもそのコアの部分を殺さないでいて上手いなと思いました。

 「小狼くんのアイデンティティ」が『ツバサ』のテーマの一つにあります。まだ原作版でも詳しい謎は明らかにされてませんが、藤隆さんに拾われるまでの記憶が小狼にはなく、小狼には「自分」、アイデンティティがありませんでした(記憶は「自分」を構成する主要な要素の一つというのが前提です)。そんな小狼に誕生日をくれて、引用部分の台詞のように小狼のことを覚えていてくれる存在として、小狼に「存在」を与えてくれたのが幼き日のサクラ(このイベントが、サクラちゃん原理主義者とも言える小狼くんの、小狼→サクラ感情成立の一大イベントです)。

 しかしそんなサクラの記憶が飛び散ってしまい、小狼を記憶していてくれたサクラは、対価の契約で二度とそれまでの小狼の記憶を思い出せないことになってしまいます。そこで、小狼を小狼たらしめてくれていたサクラの記憶がなくなってしまったら、小狼は小狼ではなくなってしまうのか、藤隆さんに拾われる前の虚無状態のように、小狼は小狼のアイデンティティをロストしてしまうのか?そう問いかけられる状況が、『ツバサ』の中の小狼物語の基本的な舞台設定です。

 そして、答えは否というのが『ツバサ』の放つメッセージです。

 「君が笑ったり楽しんだりしても、誰も小狼くんを責めないよ」(ファイ)

 「君にもきっと、君だけの幸せがある、今はまだ分からないかもしれないけど、見つかるよ、必ず」(藤隆さん)

 と、この「湖の国」の話では強力に未来の小狼、それは明るい、楽しい、幸せなものだというメッセージが語られます。

 そしてファイの、

 「楽しい旅になるといいよね」(ファイ)

 の締め。

 記憶が失われたのだとしたら、未来に新しい楽しい記憶を作っていけばいい、そうした新しい関係性の中に出来上がっていった小狼も、間違いなく小狼。そういう超前向きメッセージが小狼物語の回帰点として、この「湖の国」の話では描かれているように思います。

 だから、原作では一人で小狼が見つけた湖の町の所を、アニメ版では小狼とサクラ二人で見に行くという風に変更してるのも自然だと思いました。かつての小狼を忘れてしまったサクラだけれど、これから小狼の楽しさを共有していく中で新しい小狼とサクラの関係が生まれていく。そういう流れにするために、小狼にとっての幸せ体験であったこの湖の町見学を小狼とサクラの共有体験にしたのは自然だと思いました。

 後半に「もう一人の小狼」を始め、今の小狼くんのアイデンティティを脅かす存在が迫ってくる展開が示唆されていますが、たとえそうなっても、この「湖の国」での経験のように新しい小狼とサクラの関係の中に出来上がってきた小狼はまぎれもなく本当の小狼、その部分に回帰していって小狼くんのアイデンティティクライシスは乗り越えられていくんじゃないかと思っています。    
 
■ライトミステリなジェイド国編/第13話「まぼろしのオトギ」/ツバサ・クロニクル感想
 

 「書物や歴史が真実のみを語っているとは限りませんから」(小狼)

 原作で一番好きなジェイド国編。満足な内容です。この小狼くんの台詞を受けて、サブタイが今回の「まぼろしのオトギ」と「真実のレキシ」と対になってるのが最高です。まぼろし、超常現象と「偽」で認識されていたものを、「真実の歴史」と「真」に解体していく物語にはカタルシスがあります。

◇ジェイド国編の魅力

 なんと言ってもライトミステリ仕立てになってることでしょう(←ミステリ好き)。次回の前半に提示される情報から、一応ちゃんとした推理の道筋をたどって視聴者が犯人にたどり着けるように作られています。

・子ども達が消えるという事件勃発
・人為的な犯行の可能性の中、犯人のミスリードを仕込む
・超常現象の可能性をも示唆(エメロード姫)
・物理トリック(どうやって城に渡ったのか)
・衒学要素(歴史云々)

 と、オーソドックスなミステリ要素をブチ込んでいます。普通に小狼くんを探偵役に捉えてミステリミステリして楽しめます。

◇サクラの変遷

 アニメ版で見返しながら、神秘、聖女ベクトルから人間ベクトルへの移行を描いているのかなと思うようになってきました。記憶が無い状態の序盤では神秘ベクトルで超常現象パートで一役買うことが多かったんですが、記憶が集まって人間味を帯びてくるにつれて、そういうのが薄くなって普通に人間として活躍するようになってきてます。その最たるものが、現在マガジンで連載中のピッフル国編なんじゃないかと。等身大の人間になったサクラちゃんの生々しい活躍話です。ここまでアニメ版は続くのかな。レースシーンの動画は見てみたいんで是非続いて欲しいんですが。  
 

01話〜13話>>14話〜26話>>27話〜39話>>40話〜50話

TOPへ