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贈り物 -五月三日に-



「リュミエール様、とっても珍しいハーブの苗が手に入ったんです! 育ててみてくださいね!」
「あ、マルセル。あの・・・、ありがとう・・・・・。・・・ふう、素早いですね」

パタパタと走り去っていくマルセルの後ろ姿を見送りながら、足元に置かれたハーブの苗を窓辺に移していると、また別の足音がした。
新たな訪問者のようだ。


「はぁい、ねぇ、見て見て、コレ。すっごくキレイでしょ?」
「オリヴィエ・・・。ええ、深い海のような、とても素敵な色合いですね」
「あんただったらそう言ってくれると思ってたよ」
オリヴィエは見せびらかしていた青いショールをリュミエールの肩にふわりとかけた。
「やっぱり思った通り。あんたじゃなきゃダメってくらい似合ってるねぇ。モチロンもらってくれるよね?」
「えっ? あの、でも・・・」
「気に入らない?」
「いいえ、そんなことは・・」
「無いよね? じゃ、私は帰るね」

片手をひらひらさせて去っていくオリヴィエの背中に感謝の言葉をかけ、もらってしまったショールを手に小首を傾げていると、また別の足音がする。


「あー、こんにちは、リュミエール。えー、実はですね、書棚の整理をしていましたらこんな本が出てきましてねー、 海の写真集なんですけどね、いつ買ったのがすっかり忘れてまして、そうそう、あなたがお好きなんじゃないかと思って持ってきたんですけど、受け取ってもらえますかねー」
「あ、はい。ありがとうございます。ルヴァ様はもうよろしいのですか?」
「ええ、一度見ましたからね。私が持っているより、あなたが持っている方が本も喜ぶんじゃないかと思いますよ。では、私は失礼しますねー」

写真集をパラパラとめくり、どこまでも青い海や、楽しげに泳ぐイルカ達の写真に思わず引き込まれていると、いつの間にか黒い影が正面に立っていた。


「・・・・・これを、お前にやろう」
「クラヴィス様!?」
「水晶クラスターだ。部屋に飾ると良い」
「ありがとうございます」
「ではな」
「あ、あの!」
「なんだ?」
「・・・・・」
リュミエールはどうして贈り物をもらえるのか尋ねようとしたが、何か文句でもあるのかと問いたげなクラヴィスの視線を受けて、黙り込んでしまった。
「あの、・・・いえ、何でもありません。ありがとうございます」
「・・・・・そうか。・・・ではな」

ニョキニョキと水晶の突き出たクラスターを手に、リュミエールは何か大事なことを忘れているのだと思った。
何か・・・・・。

「リュミエール様! これ、視察に行った時に見つけたんです。ビードロっていう楽器らしいんですけど、俺、よくわからなくて。リュミエール様なら鳴らせられますよね?」
満面の笑顔でビードロの入った箱を押しつけ、ランディは風のように去って行った。
「ありがとう、ランディ」

姿が見えなくなった贈り主に礼を言い、リュミエールは水晶クラスターをテーブルに置いて箱を開いた。
繊細な作りのガラスの楽器だ。
そっと吹くと楽しい音がする。
だんだん楽しくなって何度も鳴らしていると、足音が聞こえた。


「よぉ、元気そうだな」
「ひょっとして、あなたも何かお持ちくださったのですか?」
「ああ、もちろんだ。忘れちゃいないぜ」
そう言ってオスカーは綺麗に包まれた箱を手渡した。
「ティーカップだ。お前にとっちゃ必需品だろ?」
「ありがとう、オスカー。とても嬉しいです。・・・あの、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「ああ、俺に答えられることならな」
「今日は・・・・・」

その時、廊下で金だらいがひっくり返るような派手な音がして、リュミエールの質問は宙に浮いてしまった。

「あー、わりぃ、わりぃ」
頭をかきかき入ってきたのはゼフェルだった。
先程の音の元であろう丸みを帯びた金属を手にしている。
「ちょっと手ぇ貸してくんねーか」
見ると、1メートルくらいの高さのロボットの体が横倒しになっている。
3人がかりで元に戻すと、ゼフェルが持っていたロボットの頭部を付け直した。
「やれやれだな。おっと、俺は用事があるからもう行くぜ」
「ああ、サンキュ」
オスカーは2人に軽く合図するとマントを翻してその場をあとにした。

「・・・ゼフェル、これは?」
「おめーさ、絵を描きに出歩いたりするだろ? そんな時にこいつを連れて行きゃあ何かと便利じゃねーかと思ってさ。 自走式で聖地のマップも読み込ませてあるから、目的地を教えてやれば先に行って待っててもくれるんだぜ。キャンバスや絵の具はこいつに持たせて、おめーは手ぶらで目的地に行けばいーってコトだ」
「私のために作ってくださったのですか?」
「あー、ま、おめーのためにってワケでもねーんだけど、こーゆーの使える奴っていやぁ、おめーくらいしかいねーってゆーか、何せ一度ひっくり返ると起こすのがひと苦労でさ、おめーなら簡単だろ?」
「はぁ・・・」
「大丈夫だって、おめーなら使いこなせるって。メンテはオレに任せときゃいーし、じゃ、決まりな。可愛がってくれよな」
「あ、ゼフェル!」
「取扱説明書は胸のキャビネットに入ってるからなー」

走り出したゼフェルは思いだしたように立ち止まってそれだけ言うと、逃げるように去って行ってしまった。
口の中でゼフェルに礼を言い、恐る恐るロボットに手を伸ばしてキャビネットから取扱説明書を取り出して読んでいると、聞き覚えのある声がした。


「これは何だ?」
「ジュリアス様! あの、これはゼフェルが私に・・・」
「ゼフェルが? ・・・そうか、ならば良い」
「は?」
「人の贈り物をとやかく言いたくはないからな。常識の範囲というものが私とあれとでは大分違うようだが、そなたが迷惑でないのなら私が口出しすることでもあるまい」
「迷惑などと言うことはありません」
「ならば良い」
「はい」
「これは私からの贈り物だ。そなたとは、いつか、ゆるりと酒を酌み交わしてみたいものだな」
「綺麗な色のワインですね。ありがとうございます。私はそんなに強くはないのですが、いつでもおつき合い致しますよ」
「そうか、その機会を楽しみにしているぞ」
「はい、私も楽しみにしております」
「それでは、失礼する。・・・これは、出来るだけ早く片付けておくように」
「わかりました。ありがとうございました」

ジュリアスは頷いて、踵を返して去って行った。

残されたリュミールは、起動ボタンを見つけてロボットを動かし、何とか人目のつかないところに移動させることに成功した。

「ふぅ・・・・・。今日は、何だったのでしょう・・・」

vvvvv vvvvv vvvvv vvvvv vvvvv vvvvv vvvvv vvvvv vvvvv vvvvv

新たな訪問者が現れた。


「来てくださったのですね。あなたを、お待ちしておりました」

「これを私に? あなたも贈り物を下さるのですね。今日は素敵な贈り物がたくさんあったのですよ」

「・・・誕生日? 私の? 今日が、ですか? ・・・・・あ・・・」

「可笑しいですね。自分の誕生日を忘れてしまっていたとは。でも、これで皆様の贈り物の意味が分かりました。あなたからのも、ね」

「私は幸せ者ですね。気に掛けてくれる仲間と、愛する人に囲まれて」

「ええ、あなたのことです。ふふっ、照れているあなたも可愛らしいですね」

「来年も再来年もその次もずっと、私は忘れていても、あなたは私の誕生日を覚えていてくださいね。それが一番の贈り物です」

「・・・ありがとう」

「感謝の言葉も良いものですが、やはりあなたに言うべき言葉は・・・」

「愛しています」


fin

2007.5.3up




リュミ様お誕生日のお話です。うわぁ〜、やっと間に合いました!
守護聖様達って仲良さそうだなぁ。(羨ましい〜)
最後の方のは、作者の願望と妄想です(*^_^*)