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プレゼント



「できた!」
チャーリーの店で綺麗な青い布を見つけた時から、誕生日プレゼントにしようと思っていた。
柔らかくて手触りの良い布はきっとあの人に似合うに違いない。
あの人、リュミエール様に。

でも、刺繍がこんなに大変だとは思わなかった。
同じ色の糸で刺繍をあしらったら素敵かしら、なんて思ったのが間違いだったのかもしれない。
それでも、何とか今日中に仕上げることができた。
問題は、どうやって今日中に渡せるか、ということだ。
夜も遅く、もうあまり時間がない。
明日にすれば良いのだろうが、できれば誕生日に渡したい。
アンジェリークはリボンをかけた包みをつかんでドアに手をかけた。

外に飛び出したものの、この時間では執務室にいらっしゃるはずもなく、となれば、お屋敷まで届けるのが一番確実だろうが、それも気が引ける。
庭園をぼんやり歩きながら、私は何をしているんだろうと可笑しくなってきて寮に帰ろうしたとき、かすかな音が聞こえてきた。

『音楽? ・・・・・ハープの音? まさか?!』

いつの間にか駆けだしていた。
今でははっきりとハープの音だとわかる。

「リュミエール様!」
「アンジェリーク?」
東屋でハープを弾いていたリュミエールは顔を上げて不思議そうにアンジェリークを見た。
「リュミエール様、あの・・・」
「ふふっ」
「あの?」
「あなたのことを想いながらハープを弾いていると、あなたが本当に来てくださった・・・」
「えっ?」
「今日はあなたにお逢いできなくて淋しく思っていたのですよ」
「えっと、あの、すみません」
「謝ることなどありません。こうして逢いに来てくださったのですから」
「はい、あの・・・」
「よい月が出ていますし、あなたもいらっしゃる。何かお弾きしましょうか?」
「あ、はい。・・・あ、あの」
「はい、リクエストですか?」
「いいえ、あの、私・・・、じゃなくて、リュミエール様、お誕生日おめでとうございます!」
「あなたもお祝いしてくださるのですね。ありがとうございます」
「私も?」
「ええ、実はつい先程まで祝宴に招かれていたのです。 少し、飲み過ぎたようですので、酔いを醒まそうとこちらでハープを弾いていたのですよ」
「そうなんですか」
「ええ、そうなのですよ」
「くすっ」
「ふふふ」
「あ、改めて、リュミエール様、お誕生日おめでとうございます。あの、これ、受け取ってください」
「ありがとう、アンジェリーク。開けてもよろしいですか?」
「は、はい、どうぞ」

リュミエールの指がリボンを解き、包みを開いていく。
アンジェリークはドキドキしながら反応を待った。

「これは・・・。これを私に?」
「えっ? あ、もちろんですけど、・・・あの、・・・ごめんなさい、気に入らなかったですよね」
「ああ、すみません。どうかそんな顔をなさらないでください。刺繍も青い糸でしてくださったのですね。素敵ですね。嬉しいですよ。ありがとうございます」
「でも・・・・・」
「私の言い方が悪かったのですね。謝ります。実はね、驚いたのです。あなたが青い布をくださったから」
「?」
「ふふっ、私の故郷では、青い布を異性に贈るのは、愛の告白と同じ意味なのです」
「えっ? ・・・・・・・・・・ええーーーーーーっ!」
「とても嬉しいですよ。あなたがご存知なくて贈ってくださったのだとしても、ね」
「し、知らなかったです。知らなかったんですけど、でも・・・」
「でも? 何でしょうか?」
「でも・・・・・・、ううん、何でもありません!」
「おや、残念ですね。それでは、これはお返しした方がよろしいのでしょうか」
「あっ! ダメです! 返すなんて、そんなの・・・悲しいです」
「顔を上げてください、アンジェリーク。すみません、少々意地悪でしたね。私も返したくはないのですよ。 ただ、あなたに青い布をいただいたことで、私が勘違いしてしまうかもしれないことを、知っておいて欲しいのです」
「それはどういう意味ですか?」
「ふふふ、今は教えて差し上げません。アンジェリーク、あなたの素敵なプレゼントを私に掛けていただけませんか?」
「・・・・・・・・これでいいですか?」
「ええ、アンジェリーク。ありがとう」

リュミエールはそう言うとアンジェリークの手を取り、そっと引き寄せた。
そして、肩に掛かっていた布をひとひねりしてアンジェリークにも掛けた。

「リュミエール様?!」
「あなたと私の心はいま結ばれました。これから先、離れることはありません」
「リュミエール様、あの・・・」
「故郷ではこう言うのですよ。それから、プロポーズをするのです」
「あの、私・・・」
「もちろん、これは私の勘違いですから、あなたは断ってくださって構いません」
「私・・・」
「アンジェリーク、私と共に生きていってはいただけませんか?」

アンジェリークはしばらく俯いていたが、やがて顔を上げ、リュミエールの目をまっすぐ見て言った。
「リュミエール様の勘違いじゃないです。私、あなたが好きです。刺繍をしながら、ひと針ごとにあなたのことを想って幸せでした。 だから、ずっと一緒にいられたらもっと幸せになれると思います」
「ああ、ありがとう、アンジェリーク。心から愛しています」

日付が変わり、誕生日は過ぎていたが、抱き合うふたりには関係のないことだった。
これから何度でも誕生日はやってくる。
そして、これからはふたりでお祝いをするのだから。


fin

2008.5.6up




酔っぱらいリュミ様vvv
青い布云々はまゆの捏造です(笑)
遅れてすみませんでした。