「はぁい、アンジェリーク」 時間をくださいと言われて何日かが過ぎた。 オリヴィエがアンジェリークを迎えに王立研究院を訪れると、何やら中が騒がしい。 アンジェリークがどうのという声が聞こえる。 「何? アンジェリークがどうかしちゃったの?!」 血相を変えて飛び込んできた夢の守護聖に、これまた顔色の悪いエルンストが説明した。 「ええ、実は聖地と新しい宇宙を繋ぐ次元回廊が使用不可能になってしまったのです」 「使用不可能って、じゃ、アンジェリークは? あの子はどうなったの?」 「確認が取れません」 「ちょっ・・・。どういうことさ。どうしてそんなに落ち着いていられるワケ? あの子は新しい宇宙に取り残された。たったひとりで。それをこんなところで指をくわえて見てろって言うの?」 「申し訳ありません。ただ今総力を上げて事態の好転を図っております」 「それだけ? 何のための王立研究院なのさ? そんなの・・・」 「おい、それ位にしておけよ。エルンストにくってかかっても仕方あるまい」 「オスカー? ・・・そうだよね。ゴメン。エルンストだって一生懸命なんだ。わかってるケド、 何かダメなんだよねェ、アンジェリークのこととなると」 「そういうことだ。エルンスト、後は頼む。何かわかったら連絡してくれ。俺はこいつを連れて行くから」 「ちょ、ちょっとオスカー、私は何も・・・」 オスカーは何か言いたげなオリヴィエを無理矢理引っぱって行った。 「さぁ、話なら聞くぞ」 東屋に着いてどかっと腰を下ろしたオスカーが言った。 「そんなふうに威圧的に言われたら、話せるものも話せなくなってしまいますよ」 「リュミエール、あんたまで?」 「何だ、おまえ、どこから降って湧いて出た?」 「オスカー、それはないでしょう? 私もオリヴィエのことが心配なのです」 「何言ってんのよ、今心配なのはアンジェリークでしょ? どうして私なのさ?」 「いいえ、あなたです」 「いいや、おまえだ」 リュミエールとオスカーの声が被さった。ふたりは互いに顔を見合わせたが、仕方がないというふうに肩をすくめた。 「アンジェリークなら大丈夫です。仮にも一度は女王に決まった方なのですよ」 「それをおまえが信じてやらなくてどうする?」 「信じて、ないって? 私が?」 「そうです」 「そうだ」 またもや同時期に同じことを口にしたふたり。オスカーはリュミエールを興味深そうに見たが、リュミエールは意識的に視線を逸らした。 「何言ってんのさ。私があの子のことを信じてないワケないじゃない」 「なら、王立研究院で何故あんなふうに取り乱したんだ? いつものおまえらしくもなく」 「・・・【恋は盲目】といいますからね」 いきなりの発言に、今度はオスカーとオリヴィエが顔を見合わせた。 「おまえ、意味をわかって言っているのか?」 「オスカー!」 「い、いや、今はおまえと議論する場合じゃない。そう、恋は盲目。オリヴィエ、おまえ、アンジェリークに結婚を申し込んでいるんだってな」 「何か悪いワケ?」 「悪かないさ。彼女だって一生おまえと友達でいるために聖地に残ったわけでもあるまい」 「ええ、悪くはありません。むしろ喜ばしいことです。でも、あなたは彼女の気持ちをわかってあげていますか?」 「どういうこと? 私があの子の気持ちをわかってないって?」 「おっと、そう睨むなって。アンジェリークがおまえのことを好きなのは間違いない。そういうことじゃないんだ」 「恋は盲目と言いましたよね。あなたは恋に目がくらんで彼女も自分も見えなくなっているのではないかと、それを心配しているのです」 「なっ・・・」 「ほらな、いつものおまえならリュミエールに言い負かされて言葉に詰まるなんてことはないはずだろ?」 「オスカー、混ぜ返さないでください」 「悪かったな。でも、リュミエールの言うとおりだぜ。おまえはいつもの自分を見失っている。おまえが好きなアンジェリークはただ守られているだけの存在なのか?」 「オリヴィエ、よく考えてください。あなたは前向きで決して諦めることのない芯の強い女性を愛したのではなかったのですか?」 オリヴィエはアイスブルーの瞳と水色の瞳を交互に見比べた。そうしてから急に下を向き、やがてゆっくりと顔を上げた。 「あーあ、あんた達に説教されるなんてねェ。夢の守護聖オリヴィエともあろうものが、夢を見間違えちゃったみたい。 あんた達の言うとおり。私はただ守られているだけの女の子じゃない、自分というモノをシッカリ持ったアンジェリークが好きなんだ。 ア・リ・ガ・ト、思い出させてくれて」 「よかったな」 「よかったですね」 重なる言葉、重なる笑顔。 「キャハハハ。あんた達ってホント仲がいいんだねェ。じゃ、私は王立研究院へ行って来る。大丈夫。 信じているよ、あの子のこと。ただ、淋しい思いをしてやっと帰ってきた時、抱きしめてあげられるのは私しかいないでしょ」 手を振ってゆっくりと歩いていくオリヴィエを見送ると、あとに残されたのは炎と水の守護聖ふたり。 「よぉ、俺たち仲がいいらしいぜ」 「それは心外ですね」 「相変わらず手厳しいな。それよりさっきのことだがな、【恋は盲目】って、水の守護聖様としては経験がおありなのかな?」 「あなたに話す必要などありません」 「そう言うなって。恋の相談ならいつでものるぜ。・・・あ、おい、待てよ」 「あなたのからかいの材料になっては堪りませんからね。私はこれで失礼します」 ふたりは仲が良さそうに言い合いながらその場を去っていった。 「ああ、オリヴィエ様、連絡を差し上げようとしていたところでした。次元回廊が使用可能になりました。 アンジェリークの存在も確認が取れています。もう間もなく戻られるでしょう」 王立研究院に戻ったオリヴィエを待っていたのは、さっきとは打って変わって明るい顔をしたエルンストだった。 「ア・リ・ガ・ト。あんたってさぁ、やっぱ超一流の研究員だよね。さっきはホントにゴメン。私ってばどうかしてたんだ」 「いえ、あの場合は当然の反応でしょう。正直なところ、私も一時はどうなるかと思いましたが、 こちらからと新しい宇宙からのアプローチが上手く呼応したようです。優秀なのは私達ではなくアンジェリークの方です」 「次元回廊が開きました。ひとり分の熱量確認。無事なようです」 研究員がアンジェリークの帰還を告げた。 次元回廊から現れた栗色の髪の少女は、派手な衣装を纏った恋人を見つけると、その胸めがけて一直線に飛び込んで来た。 「オリヴィエ様! 私、あなたのお嫁さんになります!」 「おや、どういう風の吹き回しだい?」 「だって、淋しかったんです。このままオリヴィエ様に会えなくなっちゃったらどうしようって、そればっかり考えちゃって。 淋しくて、哀しくて。私、もうあなたから離れません」 「アンジェリーク。嬉しいんだけどねェ、あんた、ここがどこだかわかってる?」 アンジェリークはおそるおそる顔を上げ、たくさんの笑顔に囲まれていることに気付き、真っ赤になってオリヴィエから離れようとしたが、 オリヴィエは腰に回した手を離そうとしない。 「ま、いいさ。誰に恥じることもないよねェ。アンジェリーク、愛してるよ。一生あんたの側にいる。 だからあんたは安心して自分の道を歩いていいんだからね。結婚したからって私の後で小さくなっているなんて許さないから」 「オリヴィエ様、ありがとうございます」 「ふふっ、じゃ、そろそろ静かなトコロへ行こっか。こうギャラリーが多いとキスもできやしない」 オリヴィエはひょいとアンジェリークを抱き上げると、手をひらひら振って王立研究院を後にした。 研究員たちの盛大な拍手に見送られながら。 fin
中堅組の掛合漫才を見てみたいとのリクエストにお応えして・・・。えっ?違いましたか?(笑) 2002.2.24 |