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菓子屋の陰謀



うららかな聖地の朝、朝と言ってももうすぐお昼といった時間帯でありました。
年少組と呼ばれる、風、鋼、緑の守護聖が“楽しく”おしゃべりしています。
風の守護聖はランディ、鋼の守護聖はゼフェル、緑の守護聖はマルセルといいました。

「ンなもん、ぜってー菓子屋の陰謀に決まってる」
「何を言い出すんだ、ゼフェル。せっかく好意で渡してくれてるのに、断るなんて失礼だろう」
「そうだよ、女の子が勇気を出してチョコを差し出してるのに、”いらねー”、何てひどいよ」
「あー!っせーな!オレはいらねーったらいらねーの!」
「ゼフェル!お前は、ちょっとは人の気持ちも考えろよ!」
「ランディ野郎に言われたかねーよ!」
「ちょ、ちょっとゼフェル、ランディも落ち着いてよー。・・・ん?メル?」
「あ、あの、マルセル様、こんにちは。あの、ごめんなさい、メル、お邪魔ですよね」
「あっ、メルじゃないか。・・・えっと、どうかしたかな?」
「もぉ、ランディったら。メルはランディとゼフェルがけんかしてるからびっくりしちゃったんだよ」
「そ、そうなのか?ごめんな、メル」
「えっ、そ、そんなことないです。あ、あの、メルにかまわず、どうぞ続けてください」
「だめだよ〜、続けちゃだめなの〜」
「えっ?あ、あのぉ・・・」
「おー!メル。おい、おめーさ、バレンタインって知ってるか?」
「ばれんたいん?ううん、知らないです」
「ここだけの話だけどよ、ありゃ、菓子屋の陰謀なんだぜ」
「おい、ゼフェル、お前は何を・・・」
「るっせー!・・・でよ、バレンタインデーに女がチョコを触っちまうと、その女はチョコを配って回る“ギリチョコハイタツマシーン”になるって話だ」
「ぎりちょこはいたつましーん?」 「えーっ!そんなのダメだよ。操られるなんて、そんなの悲しい・・・」
「メ、メル、それウソだよ、ウ、ソ!」
「ゼフェル様、ばれんたいんでーっていつですか?」
「んー?あー、今日だ」
「今日!?」
「メル、信じちゃだめだよ〜」
「メル、ゼフェルの言うことなんて信じるなよ!」
「ゼフェル様、教えてくれてありがとうございます!メル、行くところがあるから失礼します!」
「・・・聞こえてない?」
「ゼフェル、どうするの!?メル、信じちゃったじゃないかー」
「お前は何て無責任な奴なんだ!」
「っせーな!面白いからいいんだよ」
「ゼフェルのバカー!ランディ、行こう?メルを探さなくっちゃ!」

マルセルとランディは、占い師のメルを探しますが、どこにも見つかりません。
メルはどこへ行ったのでしょう。

「いた!アンジェリーク!」
「あっ、メルさん!よかったぁ、お会いできて。こんにちは、もうお昼ですね。・・・ご飯食べました?」
「えっ?ご飯?ご飯はまだだよ」
「それじゃあ、一緒に食べませんか?・・・あの、私、お弁当作ってきたんです」

メルは庭園にいました。
聖地に試験を受けに来ていたアンジェリークを探していたのです。
メルは大好きなアンジェリークがお弁当に誘ってくれたので嬉しくてたまりません。

「わぁ、いいの?」
「はいっ」

お弁当は、ハムと、レタスと、トマトを、からしマヨネーズを塗ったパンに挟んだサンドイッチと、ソースをたっぷり塗ったとんかつとキャベツが挟んであるカツサンドでした。

「おいしい! これ、アンジェリークが作ったの?」
「はい、あの・・・」
「何?」
「・・・あの、メルさんが食べてくれたらいいなって思って作ったんです」
「えっ、それって・・・ホント?ホントにメルのために作ってくれたの?」
「はい、メルさん」

メルはもうすっかり嬉しくなって、バレンタインのことなど忘れていました。

「・・・それに、今日はデザートも作ってきたんです。・・・今日はバレンタインデーだから・・・」
「ば、ばれんたいんでー!」
「メルさん、あの、何か顔色が悪いですよ。・・・あっ!ひょっとしてサンドイッチが傷んでたとか・・・」
「ううん!違うの!サンドイッチはおいしかったし、あなたは何も悪くないの。・・・・・あの、あのね、アンジェリーク・・・」
「はい、何でしょうか?」
「あのね、・・・あの、今日、・・・チョコとか触ったり、した・・・?」
「チョコレートですか?・・・えっと、昨日焼いたチョコケーキを持ってきたんだから、ちょっとくらい触ったかな?」
「えーーーーーーっ!そ、そんなぁ…、ア、アンジェリーク〜」
「???メルさん??」
「アンジェリークが・・・くすん・・ぎりちょこはいたつましーんになっちゃった・・・、メルが、メルがもっと早く気付いてあげられてたら・・あ〜ん・・・・・」
「メルさん、どうしたんですか?・・・あの、メルさん?」

そこに、ゼフェルがやって来ました。
ゼフェルは口では知らないようなことを言っていましたが、やっぱりメルのことが気になっていたのです。

「あーあ・・・。泣いてやがる・・」
「あっ、ゼフェル様。あの、メルさんの様子が急におかしくなちゃって、私、私・・・」
「あー!おめーまで泣くな!・・・あのよ、おめー、チョコ持ってるんだろ?」
「えっ?あ、はい。チョコケーキですけど」
「それって、メルにやるんだよな?」
「・・・・・はい」
「もう渡しちまったか?」
「い、いいえ」
「よし。・・・それで、それって義理じゃねーだろーな?」
「な、何ですか、え、えーっと、その・・・」
「大事なトコなんだ、ちゃんと答えろ」
「義理じゃ、・・・ないです」
「・・そっか。・・よし」

ゼフェルは泣いているメルの前に立って大声で話し出しました。

「おい、メル。おめーにひとつ言い忘れてた」
「・・・な、何?」
「義理じゃねー本命チョコを持ってるヤツは、ギリチョコハイタツマシーンにならねーんだ」
「?」
「おい、アンジェリーク、おめーのチョコをメルにやってくれ」
「あ・・・。わかりました。メルさん、チョコケーキなんですけど、受け取ってくださいますか?」
「アンジェリーク・・・。でも、あなたは・・・」
「だから、こいつは菓子屋の陰謀には加担してねーって言ってんだよ。・・・本命だってよ」
「えっ!あの、えっと、・・・アンジェリークはぎりちょこはいたつましーんじゃなくて、ほんめいチョコをメルに・・・?えっ?えっと、ほんめいって・・何・・・?」
「・・・こいつに教えてもらえ。じゃな」
「あ、ゼフェル様。ありがとうございました。ゼフェル様のお陰でメルさんの具合も良くなったみたいだし、それに、ちゃんとチョコケーキも渡せました」
「あー、そうかよ。メデタシメデタシだな。じゃな」

ゼフェルが庭園を出ていくのをランディとマルセルが見ていました。
ふたりはちょっと前から来ていたのですが、三人の様子を見ていたようです。

「僕、ゼフェルのこと見直しちゃったなー」
「えっ、そうなのか?」
「だって、メルとアンジェリークのキューピッド役になったんだよ、あのゼフェルが」
「キューピッド?あいつ、そんなことをしていたのか?」
「やだなー、ランディだって見てたじゃない」
「そうか・・・。まぁ、何にせよ、メルが幸せそうで良かった」
「うん、そうだね!」

平和でしあわせな聖地の昼下がりでした。



おわり

2010.5.1 再up




AVP(アンジェバレンタインパーティ)2010という素晴らしい企画の「仮面舞踏会」に参加したお話です。
お題は「お菓子屋さんの陰謀」でした。「お」と「さん」を取ったらゼフェルが喋り出しちゃいました。
「仮面」・・・被れてませんでしたね。