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宮殿の奥の間で リュミエールが 一発芸を披露した

いつものように出仕してきたリュミエールは、執務室の机に一通の手紙があることに気付いた。
「・・・・・一発芸披露要請書・・・?」
封筒の中には一枚の紙が入っていて、そこには、思わずリュミエールが呟いた通り、《一発芸披露要請書》とあった。
あとは日時と場所の記載があり、女王補佐官ロザリアのサインで締めくくられた、いたって事務的な内容の手紙だった。
リュミエールは困惑顔で手紙と封筒を何度もひっくり返して確かめたが、それ以上の情報はない。
どうやら自分は《一発芸》を《披露》する《要請》を受けているらしい。
「・・・一発芸?」

コンコンコン

その時、ドアがノックされ、炎の守護聖が入ってきた。
「よお、その顔ならもう読んだみたいだな」
「オスカー、・・・あの、これのことですか?」
《一発芸披露要請書》をオスカーに見せる。
「ああ、それだ。今度はお前の番だってな。ま、頑張れよ」
「一発芸、を、ですか?」
「一発芸、を、だ」
オスカーが悪戯っぽく笑う。
「陛下にお見せするんだぞ。インパクトのあるやつを頼むぜ」
「陛下に?!」

オスカーはたまらず笑い出して説明を始めた。 「クッ、クッ・・・。悪い。お前の反応が面白くて、つい、な。・・・フッ、そう睨むなって。いま説明してやる。まずこれは、女王補佐官ロザリアの発案で、女王陛下の絶大な支持を得た要請であることを頭に置いておけ。つまりは、断ることは出来ないってことだな」
リュミエールはそっと息を吐き、神妙に頷いた。
「歳の順に一発芸を披露するということで、ルヴァ様、ジュリアス様、クラヴィス様、オリヴィエ、俺と続き、お前に回ってきたって訳だ。今回は俺が説明役で、お前の番が終わったらランディに引き継いで欲しい」
「わかりました。・・・それで、あなたは何をされたのですか?」
「おっと、それは言えないな。自分で考えろってことだ。陛下は忙しい方だからな、出来るだけ短い時間で、気持ちが晴れ晴れするような一発芸をお望みだ」
「そのような・・・。私にはとても・・・・」
「頑張ればそれなりの報酬も約束されているんだぜ」
「報酬、ですか?」
「ああ」
オスカーは勿体ぶって言葉を切り、にやりと笑った。
「最高七日間の視察旅行。行き先に指定はなく、費用はすべて陛下が持って下さる。故郷だろうが、秘境の温泉地だろうが、誰はばかることなくゆっくり羽を伸ばして来て良いそうだ」
「! 本当ですか?」
「嘘を言ってどうする。これを聞いたらお前だって『とても出来ません』なんて言っていられないだろう?」
「・・・そうですね。頑張ってみます。・・・・・ありがとう、オスカー」
オスカーは返事の代わりに軽く手を挙げて執務室を出て行った。
「一発芸・・・・・」
リュミエールはそう呟くと、軽く頭を振り、執務に戻った。

◇◆◇

「ねぇ、ロザリア。リュミエールは一体どんな一発芸を見せてくれるのかしら。楽しみね」
「ええ、陛下。リュミエールのことですから、きっととても美しい芸を見せてくれますわ」
宮殿の奥の間で、女王陛下と補佐官が少々興奮気味に本日の主役の登場を待ちわびていた。

「ちょっと早く来すぎたみたいね。まだ大分時間があるわ」
「ですから申し上げたはずです。もう、陛下ったらまだ時間があるのに執務を放りだして・・・」
「うふふふ、ロザリアだって気もそぞろだったわよ」
「ま、まさか、私はいつだって冷静ですわ」
「はい、はい。いつも冷静で有能なロザリアには感謝してます。私のためにこんな楽しい企画を立ててくれたんだもん。ねぇ、覚えてる? 一番手のルヴァはちょっと気の毒だったよね」
「筒型のネットを脱いで、『はい、脱皮ですー』でしたわね。アイディアは良かったと思いますけど、ちょっと時間がかかりすぎましたわね」
「ネットに引っ掛かって、ターバンが取れそうになっちゃったしね!」
「くすくすくす・・・」

「次のジュリアスは、さすがーって感じよね」
「本を左手にみかん箱の上に乗るから何をするかと思えば、右手を高く挙げて光のサクリアを放ち『自由の女神』ですもの。七日間の視察旅行の価値はありましたわ」

「そうよね。でも、クラヴィスも負けてなかったわ」
「照明を落として欲しいと言われて真っ暗になった途端、クラヴィスが後ろを向いて・・・」
「くすくす、そうしたら星があったのよね。あの声で静かに『一番星』だって。いつ頭の後ろに星をくっつけたんだろうってあの後ずいぶん考えたのよ」

「その次のオリヴィエの一発芸もとても楽しいものでしたわ」
「あれはオリヴィエらしかったわねー」
「とにかくスポットライトを派手にってことで、スポットライトを浴びて踊るオリヴィエに思わず拍手してしまいましたわ」
「くすっ! そしたら、いきなり手で嘴を作って『極楽鳥』だもん。大笑いしちゃった」

「それを思うと、次のオスカーは、ひねりが足りないって言うのかしら、面白くありませんでしたわね」
「炎のサクリアで剣を作って飲んで見せてもねぇ。ビックリ人間じゃあるまいし」
「ええ、一泊二日の視察旅行がせいぜいでしょうね」
ふたりは顔を見合わせてふふっと笑った。

「・・・もうそろそろじゃない? えっと、リュミエールは何をして欲しいって言ってたかしら」
「合図をしたら黄色のライトを当てて欲しい、でしたわ」
「黄色ねぇ・・・。あ、来たみたい」

宮殿の奥の間に、水の守護聖がしずしずと入ってきた。

「お待たせしてしまいましたでしょうか?」
「ううん、いいのよ。私達が早く来すぎちゃったの。どうぞ、始めて」
「はい、では・・・・・」

リュミエールは部屋の真ん中に進むと、肩にかけていた青い布を広げて腰から背中を覆った。
そして、その場にしゃがみ込み、珠のように丸くなった。

「ライトをお願いします」

黄色いライトが丸くなったリュミエールにあたり、緑色の毬のように見える。

「マリモ、です」

一瞬、目が点になった女王と補佐官は、次の瞬間涙が出るほど笑い転げていた。

「・・・あの、もうよろしいでしょうか・・・?」
「くすくすくす・・・あ、ええ、ありがとう、もういいわ」
「お疲れ様。執務に戻ってよろしくてよ」
「はい。お粗末様でした」
「うふふ、楽しかったわ。ご褒美を楽しみにしていてね」

入ってきたときと同じようにしずしずと退出する水の守護聖を見送り、女王と補佐官は早速協議に入っていた。

「七日間ですわね?」
「異議な〜し」

その後、一発芸のご褒美に七日間の視察旅行を与えられたリュミエールは、陛下と補佐官へのお土産に《マリモ》を買ってきた。
その《マリモ》はリュミエールと名付けられ、宮殿にあって、長く人々の目を楽しませたという。


おしまい

2010.1.5 再up




2007年「アンジェ阿弥陀企画 ミニあみだ」参加作品です。(今更のアップでスミマセン……)お題は「宮殿の奥の間で リュミエールが 一発芸を披露した」でした。
このお題は、”どこで” ”誰が” ”何を” を募集し、シャッフルした結果でした。お題と作者の阿弥陀はなく、 お題を見て書きたい(描きたい)人が書く(描く)ということで、リュミ様ご活躍が期待できる(?)こちらのお題を選ばせていただきました。
マリモネタを思い付いてからは、お話を考えるのが楽しくて、楽しくて♪ 女王と補佐官、と言うより、仲の良い女の子達の会話も楽しかったです。
この時の阿弥陀企画そのものには参加できませんでしたが、飛び入りOKというミニあみだに参加できて嬉しかったです。ありがとうございました。