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part4 聖獣の宇宙

ピピピピピ・・・

来客を告げる合図です。
入れ替わり立ち替わりやってくる王立研究院の人でしょうか。
それとも、今ではすっかりお馴染みになった旅の行商人でしょうか。
女王アンジェリークは立ち上がってドレスのスカートを軽く撫で、ゲートへ向かいました。

「?!」
ゲートの前に立っている水色の髪の男性を見て、アンジェリークは息を呑みました。
「こんにちは、アンジェリーク。いえ、女王陛下」
「リュミエール様・・・・・?」
「はい。突然申し訳ありません。実は・・・」
アンジェリークは頭を振り、大きく息を吸って呼吸を整えると、にっこり笑って言いました。
「ようこそいらっしゃいました。ご用件はこちらで伺います。ちょうどお茶にしていたところです。リュミエール様も如何ですか?」
「あの、せっかくなのですが、あまり長居はできません。私はこちらを届けに来ただけですから」
そう言って差しだした手の中には、金色の鬣に金色の目の一匹のドラゴン。
「ピペドラゴン?!」
「ああ、やはりあなたはご存知だったのですね。たまごが急に現れて孵った途端、こちらに来たいと言うので、何かの手違いであなたのペットが私の許に来たのだと思いました。 お返し出来て良かった。・・・それでは、私は失礼しますね」
「違います!」
「はっ?」
「違うんです。私が願ったのはこういうことじゃない。私は・・・」
リュミエールは女王の顔を心配そうに覗き込みます。
「私はいけないことをしたのでしょうか?」
ただ首を振るアンジェリークにどうして良いかわからず、リュミエールはそっと肩を抱いてその身体を引き寄せました。
「大丈夫ですよ。何があったのか知りませんが、落ち着かれるまでこうしていますから」
「リュミエール様・・・・・」
アンジェリークはあたたかい腕の中に包まれていつまでも一緒にいたいと思いましたが、やがて、想いを断ち切るかのように自分から身体を離しました。
「あ、あの、ありがとうございました。私、取り乱しちゃって。え、えーっと、ピペドラゴンを届けてくださったんですよね」
「はい、でも・・・」
「あ、ごめんなさい。私がさっき違うなんて言ったから。でも、違わないんです。確かに私が願いをかけたんだから・・・」
’チガウ ’
「えっ? 今のって」
’ネガイヲ カケタノハ アンジェリーク ’
「? ピペドラゴンさん、あなたなの? でも、私、アンジェリークなんだけど」
’アンジェリークハ 『あなたをここに寄こしたアンジェリークの所に、守護聖の役目を終えたリュミエール様が行って、一緒に暮らせますように』 ト イッタ ’
「えっ?!」
アンジェリークとリュミエールはお互いの顔を見合わせました。
「あなたをここに寄こした、って、えっ? じゃ、じゃあ私の願いは叶ったの? アンジェリークとリュミエール様は一緒にいるの?」
’ソノ ネガイハ カナエラレタ ’
アンジェリークの顔がパッと明るくなりました。
それでは、このピペドラゴンは別の世界のアンジェリークの願いを叶えるためにここに来たということです。
別の世界のアンジェリークの願い・・・・。
「ちょ、ちょっと待って。守護聖の役目を終えたって言った? ・・リュミエール様が?」
「ええ。このドラゴンのたまごが現れたのはちょうど聖地を出ようとしていたところでした。 私の手の中で孵り、あなたの宇宙に行きたいと言うので、王立研究院の方にお願いしてこちらに来たのです」
ピペドラゴンに代わってリュミエールが言いました。
「あの、良くわからないのですが、こことは違う宇宙があって、そこではあなたと私が一緒にいる、ということでしょうか?」
「そうですよ、リュミエール様。その宇宙には女王はいなくて、女王候補のアンジェリークはリュミエール様と一緒なんです。私の願いは叶えてもらえたんです」
アンジェリークは嬉しくてたまらないと言う風に弾んで答えました。
「あなたの願いだったのですか?」
「ええ、ですから、今度は別の世界の私の願いも叶えないといけませんよね」
「・・・・・私は、ここにいて良いのでしょうか?」
「もちろんです、リュミエール様。帰ろうとしたってダメですからね。ピペドラゴンがきっと帰してくれませんから」
「帰るところなどありません」
「えっ、でも、故郷に帰りたいって・・」
「そのつもりでしたが、何しろ、別の世界とはいえ、あなたの願いですからね。聞き届けないわけにはいかないでしょう?」
「私の願いなら聞き届けてもらえるんですか?」
「愛する人の言葉は無視できませんからね」
「えっ?」
その時、ピペドラゴンがひと声鳴きました。
お腹が空いているようです。
「あ、ご、ごめんなさい。たしか、綺麗な水があれば良かったのよね。ちょっと待ってね。リュミエール様、失礼します。あの、くつろいでいてくださいね」

アンジェリークはピペドラゴンを連れて奥に引っ込み、ボウルに入れた水をドラゴンの前に置きました。
「・・・ね、ピペドラゴンさん、さっき、『愛する人』ってリュミエール様仰ったよね? ねっ? 私の聞き間違いじゃないよね?」
「聞き間違いではありませんよ、愛するアンジェリーク」
「キャッ! リュ、リュミエール様!」
アンジェリークの後ろには、いつの間にかリュミエールがいました。
「守護聖の役目を終えた私があなたに会えることなどもう二度とないと思っていました。それがピペドラゴンのお陰でこうしてお会いできた、この巡り合わせに感謝します」
ふわっと回された腕に抱きしめられて、アンジェリークは愛する人が今ここにいる、ひとりではないことをひしと感じました。
「リュミエール様」
「はい、何でしょうか?」
「これからはずっと一緒ですよね?」
「それが別の世界のあなたの願いでしたね。この世界のあなたもそう願ってくださるのでしょうか?」
「もちろんです! リュミエール様、ずっとずっと好きでした。これからもずっと大好きです」
「私もずっとあなたのことだけを想ってきました。それなのに私にはそれを言う勇気がなかった。でも、これからはあなたの統べるこの宇宙が私の故郷です。 ずっと一緒にいましょう。もう離しはいたしません、よろしいですね?」
「はいっ!」

’アンジェリークノ ネガイハ カナエラレタ ’
ピペドラゴンは水を飲み干し、満足そうにひと声鳴きました。

おわり


なんとか5月中にアップできました。・・・毎度のことながら、何でしょう、この話は。
4000番のキリ番リクエストをいただいたときと、このお話を書き始めた頃、「パーンの竜騎士」や「魔法の国ザンス」、「ハリー・ポッター」や「デルトラクエスト」などを読んでいた頃で、 相当影響受けてますね。ピペドラゴンに関して、ピペの名はN○Kのプチプチアニメから。ドラゴンの設定は、友人の書いたお話の設定の一部を使わせてもらっています(了承済み)。
実はこのピペドラゴン、当サイトオープン時に、「アンダンテ」と一緒にアップする予定だったお話しが初出でした。チャーリーとコレットのお話しで、途中まで書いたのですが、話がでかくなりすぎて断念しました。 ようやく日の目を見ました。壁紙のドラゴンとはちょっとイメージが違うのですが・・・(なら、ちゃんと描けって・・・)
初出のカティス様、ふしアンをちょこっとプレイし直して口調を確かめましたが、どうでしょう? ピペドラゴンとは金目つながりです(笑)

とにかく(?)、いつも仲良しのリュミ様とコレットを書けて良かったです。お誕生日記念になったでしょうか。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。気に入っていただければ幸いです。

2004.5.26


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