深緑の果てにあるものは

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「あ、何しやがんだ、てめー! おい! 待てよ!」
徹夜で仕上げた設計図を枕にゼフェルが気持ちよく昼寝していると、
顔に生あたたかい息がかかり、頭の下の設計図が引っ張られた。
目を覚ましてまじまじ見ると、ヤギである。
メェ〜〜〜〜〜ェ
ヤギは、一声鳴くと設計図をくわえて一目散に逃げ出した。
森の奥深く逃げていくヤギを追いかけ、ヤバイ、と思ったときには遅かった。
右も左も深い森、前も後も獣道さえ見つからない。
とにかく、来た(と思われる)道をとって返す。設計図は惜しいが、ヤギを追って迷子になったなどとランディに知れたら何を言われるかわからない。
首座の光の守護聖に何を言われようが構わないが、奴にだけは弱みを握られたくなかった。
と、急に目の前が開けた。庭園に出たか、との期待も虚しく、目の前は見知らぬ場所・・・。

「ゼフェル様! ゼフェル王子様!」
今一番聞きたくない、爽やかな声が、爽やかな風を引き連れてやって来た。
「ゼフェル王子様! 今日はお出かけにならないように申し上げたはずでしょう」
「ラ、ランディ?! 王子、様? て、てめー何言ってやがるんだ?」
「はい、はい、理由はお聞きしません。さ、城へ戻って下さい。今日は大事なお客様が見えられるんですから」
「おい、ちょっと待てよ! てめーからかってやがんな。王子だぁ? あ、おい、離せよ! このバカ力!」
ゼフェルは、何が何だかわからぬまま、城内に引っ立てられていった。
「王様、お后様、ゼフェル王子様をお連れしました」
「ご苦労様でした、ランディ。もう下がってよろしいですよ」
「はいっ! お后様、失礼いたします」
お后様と言われた水色の髪をした麗人が。その水色の瞳で悲しそうにゼフェルを見つめた。
「リュミエール!」
「・・・・。母親を呼び捨てにする奴があるか」
「よろしいのです。やはり、私の育て方がいけなかったのでしょう・・・」
「いや、私が構わな過ぎたのだ。お前のせいではない・・・」

○※△♂☆◎〒△$Å∞◇∀=♀◎×〜〜〜!!!!
水色の髪の麗人と黒髪で長身の男が慰め合ってる姿を目撃して
ゼフェルは訳の分からない言葉を発してその場を逃げ出した。
「おっと、王子様、今日ばかりはここをお通しすることはできませんぜ」
ドアのところで仁王立ちしている赤い髪の男を見て、ゼフェルはげんなりした。
「おめーもかよ・・・。ったく、どーなってるんだ」
「おい、オスカー、表でおめーのファンだってゆー女が待ってたぜ」
「何?」
オスカーが振り返ったその隙に表へ飛び出したゼフェルは、都合良く止めてあったエアバイクに飛び乗った。
「森の方へ行きゃあ、何とか戻れるハズだ」
エアバイクを駆って森の上空を行く。良いバイクだ。エンジン音が心地よい。
「これ、持って行っちまったら、持ち主にわりーよな・・・」
黙って乗ってきてしまったことを後悔し始めた時、下のほうで何やら言い争う声が聞こえてきた。

「離して! 私、もう帰ります!」
「離しゃあしないぜ。おまえを闇の国の王子なんかに取られてたまるもんか」
「キャ〜〜! 誰かぁ!」
「おい! 嫌がってるじゃねーか、止めろよ・・・・・。?!! お、おめー、アンジェリーク?!」
「私のことを知ってるの? あなたは?」
「・・・ゼフェル」
ゼフェルの名を聞いて、アンジェリークは頬を染めた。
「おまえが闇の国の王子、ゼフェルか! ちょうどいい、決着を付けようぜ」
「アリオス! 何言ってるの? ゼフェル様は私が生まれた時からの許嫁なのよ」
「それがどうしたって言うんだ! 俺はおまえが好きだ。幼なじみのおまえがな」
「アリオス・・・。ごめんなさい! 私、あなたのこと幼なじみ以上には思えなくて・・・」
「キャッ!」
アリオスはアンジェリークを拉致してエアバイクに跨り、轟音をたてて走り去った。
「バカヤロー! んな乗り方すんじゃねー」
「エアバイクってのはな、こーゆーふうに乗るもんなんだよ!」
森の木々すれすれに風を切って走るゼフェル。アリオスのバイクが見る見るうちに近づいてくる。
ついに並ぶ二台のバイク。
「アンジェリーク! こっちへ来い! 大丈夫! ぜってー受け止めてやる!」
「はいっ!」
フルスピードで走るバイクから身を躍らせるアンジェリーク。
アクセルを緩め、やや後方に待機するゼフェル。
宙に浮くアンジェリークをしっかりと受け止めるなり、向きを変えてアリオスの反対を行く。
「家どこだ?」
「えっ?」
「家だよ。おめーの。送ってやる」

カラフルな城が見えてきた時、ゼフェルは嫌な予感がした。
「あの、ありがとうございました。どうぞお入り下さい。父母も喜ぶと思います。だって、今日お会いするはずでしたもの」
「い、いや、止めとく、オレ、これ返さなくちゃなんねーし」
「あら、このエアバイクはゼフェル様のでしょ? こっちに名前が彫ってありますよ」
「え、ああ、そうか・・・。いや、何ってーか・・・」
「あー、アンジェリーク、帰ってたんですねー。いやー、遅いから心配しましたよ」
聞き覚えのある、間延びした声が背後で聞こえる。振り向くのが怖い。
「お母様! あのね、ゼフェル様にお会いしたの」
「へぇ、そっちの人がゼフェル王子? ふーん、ま、結構お似合いなんじゃない☆」
「あ、お父様も。ごめんなさい、心配かけて」
嫌な予感は的中した。これ以上ここにいるとまた意味不明な言葉を叫んで逃げ出してしまいそうだ。
「あ、あの、んじゃ、オレ、これで・・・」
「そお? あんまりお引き留めするのもね。じゃ、闇の国の王様に、夢の国の王がよろしく言ってました、って伝えてもらえる? また今度、改めてお伺いしますって」
「・・・わかった」
そう答えたものの、あの城に近づくのはゴメンだ。王子も王も后もくそ食らえ。
許嫁のアンジェリークには未練はあるが、所詮自分のものではない。
この手入れの良いエアバイクの持ち主のものだ。同じ、ゼフェルという名の。

悪いとは思ったが、他に手段がない。ゼフェルはエアバイクを駆って森を突き進む。森の上空からでは戻れない。
そんな気がした。昔観た映画のように木の間を縫い、ジグザグに進んでいく。
向こうから、同じようにジグザグに進んでくるエアバイクが見えたような気がしたその瞬間、ゼフェルは見覚えのある場所に居た。
「へへ、あっちもオレのバイク持って行っちまいやがったか。なら同罪だよな」
エアバイクの【ゼフェル】と刻まれた文字をつるんと撫でると、空高く飛び上がり、家へ帰っていった。

おしまい


とらまるさんの「鋼企画第三弾 -王子様-」参加作品です。
王子様?と聞いて悩みました。あの口調で王子様…? う〜ん、それなら別世界にしよう。(この頃、パラレルと言う言葉を知りませんでした) と思いついて書いたお話です。
初出のアリオスは可哀想な役柄ですみませんでした。
ゼフェル王子様というのは、書いてみると、作者結構気に入った様で、後に「鋼の試練」というお話で使わせてもらっています。(設定は別。さしあげものの部屋から行けます。(宣伝・笑))

2001.04.22(掲載)
2004.12.18(再掲載)


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