「海へ行きたいですわ・・・」
最初、そう言い出したのは女王候補のロザリアだった。
女王候補は土の曜日に自分が育てている大陸を視察する。
遊星盤で大陸の上空を飛んでいると、時折海ではしゃぐ人々の楽しそうな声が女王候補の耳にまで届いてくるのだ。
ロザリアの言葉に真っ先に反応したのは遊び盛りのマルセル。
「海? ロザリアは海へ行きたいの? わぁ、ぼくも行きたいな」
そしてスポーツ大好きのランディも
「海か。やっぱり泳ぐのなら海だよな。いいよな、海は」
と大乗り気。
飛空都市での生活にも慣れ、少々退屈し始めていた守護聖たちに【海へ行きたい】病はあっという間に伝染した。
かねてより聖地にもここ飛空都市にも海がないことに寂しさを感じていたリュミエールは言うに及ばず、旅好きのクラヴィスも、
海→水着姿という図式が頭に浮かんだのかオスカーも、海→釣りという図式が頭にうかんだのかルヴァも、みんな海行きに大賛成だった。
「海に行くんなら紫外線対策は十分にしなくっちゃね」
とUV化粧品を揃えてもう行く気になってるオリヴィエに、
「女王候補にも、守護聖にもたまには息抜きが必要だ」
お気に入りのロザリアが言い出したこととは言え、ジュリアスまでがこんなことを言う始末。
そして、決め手になったのがディアの一言。
「そうですね。次の金の曜日でしたらみなさんの予定も合うと思いますよ。この日は大陸は夏ですし、守護聖の力もそれほど必要とされてないはずです。
試験中ですが、特別にお休みにいたしましょう。楽しんできて下さいね」
今日は水の曜日。
金の曜日に海行きが決まって、みんな準備に大わらわだった。
ただひとりを除いては・・・。
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「ったく! 何だってこんなに忙しいんだ!」
器用さをもたらす鋼の守護聖ゼフェルは執務室でひとり毒づいていた。
コンコン
ドアを開けて入ってきたのは、もうひとりの女王候補アンジェリーク。
「あ、あの、ゼフェル様?」
「あん? ああ、アンジェリークか。わりぃな、今忙しいんだ。用があんならさっさと言えよ」
「あの、金の曜日のことですけど・・・」
「海へ行くってゆーアレか?アレならダメだ。オレは行けねーぜ」
「えっ?!」
みるみるアンジェリークの目に涙が浮かぶ。
「だーーーっ! 泣くな! オレは別におめーと行きたくねーとかそーゆーわけじゃねぇんだ。産業革命か何か知らねーけど、
やたら鋼の力が必要らしくってよ、送っても送っても足んねーみたいなんだ。アレって金の曜日だろ? それまでにはとても終わりそーにねぇんだよ」
「・・・ゼフェル様が行かないんなら私も行かない」
「何言ってるんだよ。おめー、楽しみにしてたんじゃねーのか? 行ってこいよ。そりゃオレだっておめーと海で遊びてーけどよ、
でもよ、しゃーねーじゃねーか」
「・・・ごめんなさい。わがまま言って。お仕事がんばってくださいね」
にっこりと笑って出て行こうとするアンジェリークにゼフェルは思わず声をかけた。
「あ、アンジェリーク、おめー、あんまし派手な水着とか着んなよ! その、ビキニとかよ。そーゆー姿をオレ以外のやつに見せんじゃねーぞ!」
「くすっ、はーい! わかりましたぁ」
元気に出て行くアンジェリークを笑顔で見送りながらゼフェルは心で泣いていた。
『ちくしょー! 海のバカヤロー!!!!!』
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金の曜日、王立研究院は朝から大騒ぎだった。
大荷物を抱えている者。
いつもと変わらぬ出で立ちで、いったいどこへ行くのだろうかと首を傾げたくなる者。
忘れ物をしたと言って、慌てて取りに帰る者。
その中でひとり心ここにあらずといった風情のアンジェリーク。
彼女はしばらく思い悩んでいたが、意を決したように頭を上げた。
「あの、私も忘れ物したんで取りに行って来ます!」
やがて、全員が揃い、パスハに大型遊星盤を用意してもらった一同は大陸へと降り立ち、海辺で楽しい時を過ごした。
そして夕方、一同は研究院に戻り、それぞれの場所へと帰っていった。
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コンコン
ドアを開けて入ってきたのは、女王候補のアンジェリーク。
「あのぉ、ゼフェル様?」
「アンジェリークじゃねぇか。そっか、海から帰ったんだな。・・・それにしちゃ、おめー、あんまし焼けてねーな」
「ゼフェル様、お仕事の方は?」
「ああ、終わったぜ」
「じゃ、行きましょう!」
「行くって、どこへ?」
「海です! 海!」
「う、うみぃ?!」
何が何だかわからぬまま、ゼフェルはアンジェリークに引っ張られて王立研究院にいた。
「パスハさん、サラさん、お願いしますね」
「ええ、行ってらっしゃい。さ、パスハ、早く遊星盤を出してあげて」
ふたりは仲良く遊星盤に乗って大陸へと降り立った。
「う〜〜っ! やっぱ海ってやつぁホントに広くてでっかくて気持ちいいもんだな。感謝するぜ、アンジェリーク」
「うふっ、感謝、だなんて、ゼフェル様らしくないですよ」
「オレらしくねーって? んじゃオレらしーって言ったらどーゆーんだ?」
「えっとぉ、『おめー、何だってこんなとこまで連れてくんだよ。うざってーな』とかかな?」
「な、何だよ、それじゃ子供がすねてるみてーじゃねーか。おめーオレのことそんな風に・・・」
「うっそですよー」
「あ、こいつ! からかってやがったな! 待て!」
「きゃっ! ゼフェル様こわ〜い」
誰もいない海岸ではしゃぐふたり。大きなオレンジ色の太陽が水平線の彼方にその姿を沈めようとしていた。
「夕日が、沈むな・・・」
「きれいですね、ゼフェル様」
「おめー、ホント、よくやるぜ。あのパスハに”うん”って言わせんだからよ」
「そんなぁ、私はサラさんにお願いしただけですよ・・・。あのね、あの、ゼフェル様、ちょっと目をつぶってていただけます?」
「何だよ。ま、いっか。ほら、つぶったぜ」
「はぁい、もう目を開けていいですよ」
そこには真っ白なビキニ姿で恥ずかしそうに笑うアンジェリークがいた。
「お、おめー・・・」
「もう、たいへんだったんですよぉ。昼間は長袖の服におっきな帽子をかぶってずっとパラソルの下にいたんですからね」
「アンジェリーク!」
ゼフェルはアンジェリークの肩をがしっと掴み、見つめあったふたりの距離がだんだん近づいて・・・。
”アンジェリーク、時間だぞ。早く戻ってくるんだ”
遊星盤から聞こえてくるパスハの声。
「あ、ゼフェル様、時間ですって。帰りましょう」
いつの間にやらゼフェルの手をするっと抜けたアンジェリークが遊星盤に乗って手を振っている。
「早く、ゼフェル様。パスハさん怒らせると怖いですよぉ」
「・・・・・」
ゼフェルはしぶしぶ遊星盤に乗り込むと、心の中で叫んだ。
『海なんて大っきらいだ! 海のバッキャロー!!!!!』
おしまい
とらまるさんの「鋼企画第四弾 -ヴァカンス-海編」参加作品です。
アンジェ・リモージュは天然の入ったパワフルお嬢さん。アンジェ・コレットはおっとりとしたマイペース娘。こんなイメージがあります。
どちらのアンジェも好きです。だってプレイヤー=自分ですもの(*^_^*)
素敵な壁紙はとらまるさんが作られたものです。
☆とらまるさんに付けていただいたコメント☆
せっかく良いところ(?)まで行きつきそうだったのに
残念だったね!ゼフェル君(笑)
真面目に「労働」する彼がとっても印象的です
2000.10.07(掲載)
2004.12.18(再掲載)
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