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記憶の中の・・・


「それで、おめーは海と山、どっちがいいんだ?」
「えっと、山がいいかな。山にします。ゼフェル様」
ここは鋼の守護聖ゼフェルの私邸。
その地下室の一角になにやら大きな機械が据え付けられ、そこから何本ものコードがにょきにょき出ていた。
コードは2個のヘルメット型機械に繋がっていて、ヘルメットの横には椅子が2つ並べてあった。
「よし、山、っと。・・・言っとくけど、試作機だかんな、その、あんまし期待し過ぎんじゃねーぞ」
今日は日の曜日。
執務室に来たアンジェリークを私邸に誘ったのはゼフェルだった。
つい昨日、【バーチャルバカンス 海編・山編(仮)】が完成したからだ。
内容は変哲もない海と山だが、臨場感だけは合格点をつけていいと自負している。
「んじゃ、そこ座って、これをかぶるんだ。ちょっと重いけどがまんしてくれよな」
「はい。あとでお会いしましょうね」

機械のうなり声が遠くなると同時に、目の前に山の風景が現れた。
「ゼフェル様! すごい! ほんとに山に来たみたい」
「あ、ああ・・・」
何か変だ。妙にリアルだ。リアル過ぎて嘘っぽい感じまでする。
これは自分が作った世界とは違う。
「アンジェリーク、オレのそばを離れるんじゃねーぞ」
「えっ?」
リセットボタンを押す、が、きかない。
「あ、誰かいますよ」
「えっ、そんなハズは・・・」
家族だろうか。
父親らしき男と母親らしき女、それに4、5歳の女の子。
女の子が何かを見つけたらしく、駆け出す。
それを追う両親。
危ない! そっちは崖になっている!
そう叫ぶより先にゼフェルの身体は動いていた。
きゃぁ〜〜〜っ
女の子の小さな手はゼフェルの手に掴まれていた。
よほど怖かったのか、震えながら、泣きもせず、じっとゼフェルを見つめるマリンブルーの瞳。
両親は何度も何度も礼を言って女の子を連れて立ち去った。
残されたのはゼフェルとアンジェリーク。
「アンジェ・・・?」
アンジェリークの様子が変だ。
「私、忘れてた。あれは、あれはゼフェル様・・・? くじら山、確かそう呼んでた。ああ、どうして忘れちゃってたんだろう。私、私・・・」
「おい! どうしたんだ?! しっかりしろ!」
「ゼフェル様・・・。私、思い出したんです。あれ、私です」
「?」
「ゼフェル様でしょう? 私を助けて下さったのは。崖から落ちそうになった私に手をさしのべてくれた・・・」
「ちょ、ちょっと待てよ! オレがおめーを? 助けたって?」
「はいっ! 私が4歳の時です。両親とくじら山に遊びに来てて、崖から落ちそうになって、そしたら銀髪で赤い瞳のお兄さんが助けてくれたんです」
そういえば、とゼフェルは思った。
数ヶ月前、聖地から抜け出して主星郊外に遊びに行った時、女の子が崖に向かって駆け出して、危ないって、それで・・・。
「あっ! あれっておめーだったのか?!」
「はいっ! やっぱりゼフェル様だったんですねっ! ありがとうございました!」
「礼なんていらねーよ。でもよ、ってことはさっきのはおめーの記憶の中ってわけか。正直焦ったぜ」
「私、あの時お礼が言えなかったからずっと言わなきゃって。それなのにすっかり忘れちゃってて。 きっとゼフェル様の機械で記憶が蘇ったんです。ああ、良かった! ちゃんとお礼が言えて。ありがとうございます」
「だから、礼なんて・・・。あーわーった。そんな目で見るなよ。はいはい、礼は受け取ったぜ」
辺りはいつの間にかゼフェルの作った世界に戻っていた。
「とんだ【バカンス】だったな。もう帰ろーぜ」
「はい、ゼフェル様」
にっこり笑うアンジェリークに、この笑顔を守れて良かったと心から思うのだった。


おしまい


とらまるさんの「鋼企画第四弾 -ヴァカンス-山編」参加作品です。
SFが好きな割には書けないというのが証明されたお話・・・。(^^;)

素敵な壁紙はとらまるさんが作られたものです。


☆とらまるさんに付けていただいたコメント☆

海編ではリモ−ジュちゃん 山編ではコレットちゃん
4歳のコレットちゃんから見てゼフェルはかっこ良かったと
とらまるは思いますv

2000.10.07(掲載)
2004.12.18(再掲載)


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