今日は待ちに待った日曜日。 「・・・来ちゃったね」 「お前、無茶苦茶なヤツだな。こんなことしてお前の世界に帰れなくなったらどうするんだ」 「うーん、どうしよう。まっ、それは後で考えるとして、さぁ、行こうよ」 「行こうってどこへ?」 「イサトくんの家だよ。ろくに挨拶もしないで行っちゃったから気になってたんだ。ねっ、 イサトくん、連れて行ってよ。ちゃんと挨拶とかしときたいんだ」 「・・・・・わかった」 イサトは前に立って歩き始めた。 花梨は遅れないように大急ぎで後に付いていく。 イサトがお寺の前で立ち止まる。 「ここ?」 「ああ」 花梨がここに来るのは初めてだった。 イサトの見送りに来ていた家族にはその時会ったが、それきりだった。 「ねぇ、イサトくん、私、恨まれてるかなぁ」 「な、何言い出すんだ。んなことあるハズねぇじゃん」 「だって、私のわがままでイサトくんを連れて行っちゃったんだもん。恨まれて当然だよ」 「バァーカ、お前がわがままだって言うんなら、オレはもっとわがままだ。お前を独り占めしたくて 一緒にあっちの世界へ行っちまったんだからな」 「イ、イサトくん・・・」 「でも、ま、後悔はしてねぇぜ。オレは何度でもお前を選ぶ。オレにはお前が必要なんだからさ」 「イ、イサトくんってば、こんな所で・・・」 「こんな所だからだ」 「?」 「・・・ここだから。オレが今まで生きていた所だから。オレはここのことを忘れない。ずっと・・・」 真っ正面を見つめていたイサトの瞳がふっと優しくなり花梨を捉えた。 「入んねぇのか?」 「あっ、もちろん入るよ」 「ったく、子供扱いしやがって」 「でも、イサトくん、親から見たらいくつになっても子供は子供だよ。いいご両親じゃない」 「まっ、な」 イサトは弟と妹から贈られた桜の枝を見上げて照れたように笑った。 枝からこぼれた花びらを手で受け、花梨もにっこり笑った。 「私も全然恨まれてなかったみたいで安心したよ。よろしくお願いします、なんて言われちゃった」 「だから言ったろ?」 「うん」 「・・・帰るか?」 「うん。そうだね」 「じゃ、龍神様にお願いしろよ」 「うん・・・。あの、あのね、本当にいいの? 私、ここに残ってもいいんだよ」 「お前、優しすぎるんだよ。オレを甘やかせてたらロクな事になんねぇぞ。 オレはここのことは忘れない。でもそれはお前とお前の世界で生きるためだ。・・・帰ろう、花梨。 お前とオレの世界に」 「帰れた・・・」 「・・・・・」 ぺたんと床に座り込んだ花梨が見上げると、イサトは怒ったような顔をして前を睨んでいる。 「イサトくん?」 「・・・すんな」 「えっ?」 「もうオレのためにこんな無理はすんじゃねぇ」 「そんな、イサトくんのためとかじゃ・・・」 「お前、嘘が下手なんだよ。オレさ、ちゃんと踏ん切り付けてこっち来たハズなのに、 やっぱどっかで引っ掛かってたんだろうな。それが京へ行ってわかった。オレは生まれ育った 場所のことをちゃんと心に刻みつけてなかったんだ。心のどっかで否定してたんだろうな。 でももう大丈夫だ。お前がオレにしてくれたこと、忘れないからな」 イサトは花梨を引き寄せ、そっと口づけをした。 「お、お前さ、オレがちゃんと働けるようになってお前を守れるようになったら、オレの着替え 覗きに来いよな」 「!?」 「そ、そしたら、責任取らせてやるからさ」 「えっ?」 「わかんねぇのかよ! 嫁にもらってやるって言ってんだよ! いいな、きっとだぞ」 髪の色に負けないくらい真っ赤になったイサトは、コックリ頷く花梨を抱きしめた。 春爛漫。 散り始めた桜の花びらが若い葉をいざなうように舞っていた。 終わり
とらまるさんの「月星天企画第三弾・テーマは休日」参加作品其の一です。
2000.10.07(掲載) |