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恋は風にのって


「ハァ〜イ、アンジェリーク。今日も可愛いよ」
「オ、オ、オリヴィエ様!!」
ほっぺにキスされたアンジェリークは真っ赤になって抗議の声をあげた。
その時。
「オリヴィエ様! アンジェリークに何てことするんです! それってセクハラじゃないですか!?」
アンジェリークに負けないくらい真っ赤になったランディだった。
「ふふーん、そっか、あんたもアンジェリークにキスしたいんだ」
「オリヴィエ様!!!」
「あーあ、ゆでダコみたいになっちゃって。んじゃ、したくないってワケ?」
「そ、そんなことは言ってません!」
「あ、やっぱりしたいんじゃない〜。もぅ、このこの、おっとこのこだねー」
「オリヴィエ様っ!!!!!」
「うーん、これは夢の守護聖オリヴィエがひと肌脱ぐトコかな。じゃ、ランディ、
楽しみにしててね〜」
「オ、オリヴェエ様、俺は何も・・・。行っちゃったか・・・・。あっ! アンジェリーク?!」
当のアンジェリークはとうの昔にその場から逃げ出していた。
ひとり取り残されたランディは頭をかきながら考えた。
『楽しみにしてて、って何だろう』


★☆★☆★


”☆フリスビー大会のお知らせ☆”
”次の日の曜日、庭園にて”
”優勝者には豪華賞品あり”
”問い合わせ・申し込みはオリヴィエまで”

ランディは宮殿の掲示板に張り出されたポスターを食い入るように見ていた。
「よっ、とーぜんおめーは出るんだろ?」
背後から声を掛けられたが、ランディはふり向きもしない。
「陛下も見に来るってんで、ジュリアスまで出るらしーぜ」
「えっ? そうなのか?」
驚いてふり返ったランディはゼフェルの顔をまじまじと見た。
赤い瞳が面白そうに笑っている。
「ジュリアスだけじゃないぜ、噂じゃ、クラヴィスまで出るんじゃねーかってよ」
「本当なのか? でも、それは良いことだな。クラヴィス様もたまには外で体を
動かした方がいいと俺は思う」
「納得してんじゃねーよ。おめー、おかしいと思わねーのか?」
「何が?」
「ったく、鈍すぎるぜ。賞品だよ。そこに書いてあんだろ?」
「ああ、豪華賞品あり、これだな。何だろうな、豪華賞品って」
「噂じゃな、優勝者には女王候補から特別プレゼントがあるってよ」
「と、特別プレゼントって何だよ?! おい、ゼフェル、おまえ知ってるんじゃないのか?」
「んっと、オレは知ぃーらねー。ま、せいぜいガンバレよ」
「おい、待てよ!」

「ハァ〜イ、ランディ、ポスター見てくれた? 出るよね? トーゼン」
ゼフェルと入れ替わりにやって来たのはフリスビー大会発起人のオリヴィエ。
「あっ、オリヴィエ様。俺、出るのはいいんですけど、豪華賞品って何ですか?」
「う〜ん、いい質問。でもね、教えてア・ゲ・ナ・イ」
「だって、気になりますよ」
「そんなの優勝すればわかるって。じゃ、エントリーってコトでいいね。期待してるよん」


★☆★☆★
トーナメント表
フリスビー大会当日。
空は高くどこまでも青い。
庭園に集まった人々は大会の始まりを告げる花火を心待ちにしていた。
思ったより参加人数が集まり、競技は1組と2組に分かれて行われることになった。
トーナメント方式で同時に投げたフリスビーの飛行距離を競い、遠くまで飛んだ方が勝ち。
最終的に残ったふたりで決勝戦を行い、優勝者が決まる。

パァン パァン

開会の合図だ。
「紳士淑女の皆さ〜ん、今からフリスビー大会はじめるよん。正真正銘の腕勝負、ズルはなしね。今日は楽しんでいってね〜」
オリヴィエの挨拶の後、1組最初の対決はジュリアスとクラヴィス。

「ねェねェ、優勝は誰だと思う?」
「それは、やってみないとわかりませんが、アンジェリークにはがんばって欲しいですね」
「んじゃ賭ける?」
「はっ?」
「応援したい人にお金で願掛けするってコト。いい?」
「はぁ、そう言うことでしたら」
「リュミエールはアンジェリークに賭ける、と。んじゃ、あの子の健闘を祈っててね〜」

ジュリアスの完璧なバックハンドスローでディスクが滑るように進んでいく。
クラヴィスがサイドアームスローで放ったディスクはゆっくりと、でも確実に距離を稼いでいた。
僅差でクラヴィスに負けたジュリアスは苦虫をかむ潰したような表情で女王陛下の傍に控えた。

2組の1番手はゼフェルとオスカー。
密かにフリスビーマスター養成ギブスで特訓したと言われるゼフェルのディスクは力強く飛び、
オスカーのディスクが勢いを無くすのを尻目に距離を伸ばした。

「ねぇ、優勝は誰だと思う?」
「優勝ねぇ。僕には興味ないな」
「な〜に言ってんのよ。興味ないなんて人が見物してるってどう言うコト?」
「優勝が誰かなんてどうでもいいんだけど、人間観察としてこれほど面白い見せ物はないからね。
意外な一面が見られるってわけさ」
「ふーん、確かにそうだけどさ。まっ、いっか。セイラン、あんたが楽しいんならそれでいいよ。
じゃ、邪魔して悪かったね」

1組の2番手はエルンストとティムカ。
エルンストのディスクは正確に水平を保ったまま真っ直ぐ進んで行く。
対するティムカのディスクは大きな弧を描き、見事にティムカの手に戻ってきた。
ティムカの記録0。
それでも会場はやんやの大喝采に沸いた。

2組の2番手はマルセルとレイチェル。
わずかに曲がったマルセルのディスクをレイチェルのディスクがはじき飛ばして勝ちが決まった。

1組の3番手はヴィクトールとランディ。
今大会優勝候補筆頭のランディ。
ディスクの正確なグリップ、完璧なフォーム、絶妙のリリースタイミング、それにランディならではの
しなやかさと柔軟さを得てディスクはどこまでも飛んでいった。
ヴィクトールの健闘も虚しく、本命は強かった。

2組の3番手はルヴァとメル。
ルヴァは昨夜本と首っ引きで覚えたフォームを見事に再現させたが、
リリースのタイミングが合わず、OB。
メルは危なげなくディスクを飛ばして次に駒を進めた。

「うわぁ、はじまってしもてたかぁ、残念!」
「ハァ〜イ、チャーリー、遅かったじゃない。エントリー取り消ししちゃったよ」
「やっぱり? く〜〜〜、まぁ、済んだことを嘆いてもしゃーない。ほなら俺はここで見物させて
もろときますわ」
「ただ見物するってゆーのもナンだし、どお? 誰が勝つか賭けない?」
「賭け? オリヴィエ様もようやるお人やなぁ。そやけど、ばれたらヤバイんちゃいますの?」
「キャハハハ、ばれない、ばれない」
「そ、そうなん? ほな、本命はハズして、ゼフェル様に賭けますわ」
「ふーん、やっぱ賭博師よねぇ。わかった。チャーリーはゼフェルに、ね」

フリスビー大会は続く。

1組の2回戦、エルンストvsランディは危なげなくランディが制し、対戦相手のいなかった
クラヴィスをも3回戦で破って、1組の勝者はランディに決まった。

2組の2回戦は、ゼフェルvsレイチェルとメルvs不戦勝のアンジェリーク。
レイチェルの攻撃的な攻めを器用にかいくぐり、ゼフェルはレイチェルに快勝した。
メルのディスクは素直に風に乗り距離を伸ばしたが、アンジェリークの記録に僅か及ばなかった。

「ねェ、ランディの犬ってこの辺りにいなかった?」
「ああ、それなら私が人に言ってランディの屋敷に返しました。間違ってフリスビーを
くわえてしまっては大変ですからね。・・・・・。あの、オリヴィエ? どうかしましたか?」
「えっ? いや、も、もう、リュミちゃんたら! ほんっと気が利くんだから! そう、そーよね、
くわえて行っちゃったらタイヘンよね。あーあ、アテが外れちゃった」
「何か仰いましたか?」
「いーの、こっちの話。それよかがんばってるよねェ、アンジェリークってば」
「ええ、そうですね。でも、ランディがいる限り、このまま優勝というのは難しそうですが」
「そう! そうなのよ! だからこそ・・・。あ、ま、いっかぁ。じゃ、私は用があるから、またね〜」
「はい。お役目お疲れ様です」

2組3回戦は、ゼフェルvsアンジェリーク。
意外な顔合わせに会場にどよめきが起こる。

ピッ

笛が吹かれ、ゼフェルとアンジェリークのディスクが同時に手から離れ、真っ直ぐに飛んで行く。
と、アンジェリークのディスクがバランスを崩して失速しそうになる。
『アンジェリーク! がんばれ!』
固唾を呑んで見守っていたランディの拳に力が入った。

ピピピピピー!

「ランディ反則! ダメじゃない、力使っちゃあ」
「えっ? 俺?」
「そうそう、風のサクリア。もしかして、我知れずってヤツ? でも、何だってアンジェリークを
助けたのさ?助けなきゃゼフェルが勝って、それをあんたが負かして、見事アンジェリークの
キスはあんたのもんだったのに」
「えっ? ア、アンジェリークの、キ、キス??」
「あーあ、惜しかったねェ。あんたが助けちゃったからアンジェリークの勝ち。
あんたは反則負けだからアンジェリークの優勝だなんて、なーんか気が抜けちゃったねェ。
・・・・・。アンジェリークの優勝? というコトは?」
「私の願掛けは効果があったということですね」
「うわぁ、リュミエール! 急に現れないでくれる? わかった、あんたの総取りだよ」
「総取り、ですか?」
「あー、もう! 説明なんかしてアゲナイ! 後でお屋敷に届けたげるから、質問はナシ!」
「はぁ」
困惑顔のリュミエールを残し、オリヴィエは閉会宣言をするために壇上に上がった。



★☆★☆★


「ランディ様」
「あ、アンジェリーク・・」
「あの、私、お礼が言いたくて」
「お礼なんかいいよ。それより・・・」
「それより、なんでしょうか?」
「それよりさ、き、君のキスがフリスビー大会の賞品だなんて、どうしてそんなこと
許したんだい?」
「ランディ様は誰にも負けませんから・・・」
「えっ?」
「あなたが負けるなんてことは絶対ないって信じてましたから。だから、私・・・」
「アンジェリーク、それって・・・」
真っ赤になって俯くアンジェリークの顔をそっと両手で挟み、じっと瞳を覗き込む。
深い海のような不思議な色をたたえた瞳に自分の姿が映っている。
「ア、アンジェリーク、君が優勝したんだから、君のキスは君のものなんだけど、
あ、あの、代わりに俺が、そっ、その、君に・・・。」
ここまで言ってハッと我に返ったランディは慌てて手を放しその場を逃げ去ろうとした。
「待ってください!」
ランディがゆっくりとふり返る。
「そうですよね。私が優勝したんだから、オリヴィエ様のメイク無料券10枚綴り以外にも
賞品は欲しいです」
「アンジェリーク・・・、その、俺でいいのかい?」
アンジェリークは恥ずかしそうに頷き、瞳を閉じる。
夕焼けが聖地を照らし、重なり合ったふたつの影を優しく包んでいた。

fin


とらまるさんの「月星天企画第三弾・テーマは休日」参加作品その2です。
どうもオリヴィエが出てくると話が別の方向へ進むみたいです。
「人生楽しまなくっちゃソンじゃない。さぁさ、アンタも楽しんで書いてよ☆」
な〜んて言われてるような気がします。ヴィエ様の言う通り(^o^)楽しんで書きました。

素敵な壁紙はとらまるさんが作られたものです。


2000.10.07(掲載)
2004.12.18(再掲載)


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