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■ 絆 ■

「花梨! おい、起きてるか?」
「イサトくん! 今呼びに行こうって思ってた。大変だよ、勝真さんが・・・」
「ああ、お前も見たんだな。あいつ、辛そうだった。なぁ、今のってただの夢じゃないよな」
「うん。夢だとは思えないよ。だって、イサトくんも見たんでしょ?ふたり同時に同じ夢を見るなんて変だもん。きっと、龍神様が教えてくれたんだよ」
 龍神に選ばれ、龍神の神子として京を救った高倉花梨は、イサトと共に現代に帰り、今は高倉家に居候をしているイサトと同じ夢を見た。暗く、狭い場所に閉じこめられている勝真。どこかを怪我しているのか、息が荒い。

「行けるのか?」
「わかんない。でも・・・・あっ」

 一瞬辺りが真っ白になったかと思うと、花梨とイサトはいつの間にか京の町に立っていた。
「ここは・・・神泉苑?」
「ああ、やっぱりここがあっちと京を繋ぐ場所なんだろうな」
「イサトくん! 服!」
「?!」
 ふたりはいつの間にか京の衣装を着せられていた。
「イサトくんて何着ても似合うけど、やっぱり僧兵姿が板に付いてるよね」
「そ、そうか・・・。ってなごんでる場合じゃねぇよ! 勝真を探すんだろ? おい、お前の龍神様は何か言ってないのか?」

 シャン

 鈴の音がした。
「こっち!」
「よし! 行くぜ!」

=====

「羅城門・・・? 取り壊し中か?」
「イサトくん、あっち人が集まってるよ。行ってみよう」

「あっ! あにき! いったいどこ行ってたんだよぉ。サチのヤツ、京職のにーちゃんと一緒にうまちまったんだよぉ」
「サチと勝真が?! 何があったんだ? ちゃんと説明しろ!」
「・・・ぐすん。うん。おいらたち、ここで遊んでて、入っちゃいけないって言われてたけど、今日は人足も休みでさ、それで中に入って遊んでたら京職のにーちゃんが見回りに来て、おいらたち、やばいっ! って逃げて、そしたらサチだけ逃げ遅れて、そんで京職のにーちゃんが連れ戻そうってしたら、柱なんかがだぁって倒れてきて、それで、それで・・・」
 涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになりながら説明を終えた子供は、審判を待つようにうなだれた。
その頭に手がそっと置かれる。
「わかったよ。後はお兄さんとお姉さんに任せて。ねっ」
「花梨の言うとおりだ。お前は傷を見てもらえ。手でひっかいて掘り起こせるはずねぇだろ。でもさ、お前の努力は無駄にしないぜ」
「うんっ」
 勢いよく頷く子供を背に、イサトと花梨は勝真を呼んだ。
「・・・・・」
 僅かだが、勝真の気を感じられる。
花梨は意識を集中させて勝真を捉えようとする。
「勝真さん、勝真さん、勝真さん・・・」


「花梨?!」
「・・・どうしたの? おにぃちゃん」
「あ、いや。・・・あんまり喋るな。目をつぶってじっとしてるんだ。助けはきっと来るからな。それまで頑張るんだ」
「うん」

『花梨の声が聞こえるなんて、俺もヤキが回ったもんだぜ』
 勝真の肩を食らえ込んでいる柱は少しずつその重みを増し、勝真の骨を砕き、肉を押し潰さんばかりだった。
『そろそろ限界か。こんな小さな子も守れなかったのか、俺は・・・』
「勝真さん」
『また花梨の声が聞こえやがる。あいつはイサトと一緒に帰ったんだ』
「勝真さん!」
『呼んでも無駄だぜ。・・・俺はもう駄目だ』
「勝真!!」
「イサト!?」
「何弱気になってんだ。オレたちが来てやったんだ。駄目なんて情けねぇ事言うんじゃねぇよ!」
「勝真さん? ああ、良かった。今から五行の力を送るね。イサトくんも協力してくれるから、
そんな柱とか土砂とか、術でふっ飛ばしてよね。じゃ、行くよー」
「行くよーって、おい、俺は・・・」
 その瞬間、肩に食い込む柱の重さが無くなったような気がした。
体中に力がみなぎる。
「よし、やるか。とどろけ、閃光。俺の敵を貫け! 天震落雷!」
「今だ、イサトくん、お願い!」
「おう! 紅蓮の炎で成仏しろよ。業火滅焼!」
 勝真の術で吹き飛ばされた柱や岩の塊がイサトの術で焼き尽くされ、消滅する。

「勝真さん、怪我はない?」
 ぽっかり空いた穴を覗き込んで花梨が声をかけた。
眩しい陽差しと、その陽差しよりも眩い花梨の笑顔。
勝真は大きく息を吐き、空に向かって思い切り腕を伸ばした。
「おい、もう目を開けていいぜ」
 両手で目を覆っていたサチに声をかける。
「うわぁ、まぶしい! あ、イサトにぃちゃん!」
 サチはイサトに手伝って貰って穴から出、次いで勝真が這い出た。
「イサト、花梨。お前らどうして・・・?」
「へっ、助けてやった一言目がそれか?」
「勝真さん! 血! 肩から血が出てるよ! 早く手当しなきゃ」
「こんな薄情なヤツほっときゃいいじゃん」
「イサトくんっ!」
「じょ、冗談だよ」
「何だ、お前、もう花梨の尻に敷かれてるのか?」
「何をぅ!?」
「俺に敵うとでも思ってるんだったら止めといた方がいいぜ」
 勝真はイサトの拳をすんでの所で避け、身体を反転させてイサトと花梨の背後に回り込み、ふたりの肩に手を置いた。
「・・・ありがとう」
 耳元で聞くのでなければ聞き取れない程の小さな声だった。
「お前、つくづく素直じゃねぇよな。わかったよ。わかったから早く傷の手当てしてこいよ」

「あにき! すげーよ! おいら、そんけーしちゃうよ! ねっ、こっち来てくれよ!サチのかーちゃんが礼を言いたいってさ」
 遠慮するイサトを無理矢理引っぱって行った子供は、花梨と勝真に向かってにかっと笑い、ありがとうと手を振った。

「勝真さん、大丈夫だったんだ」
「・・・?」
「夢を見たの。イサトくんと同じ夢・・・。勝真さんが暗くて狭いところに閉じこめられてて苦しそうだった」
「そういや、暗くて狭かったっけな」
「?」
「あのときは必死でそんなの気付きもしなかったぜ」
「本当?」
「ああ」
「もう暗いところも、狭いところも、全然平気なんだね」
「ああ、お陰様で、ってやつかな」
「よかったぁ!」
「つうっ!!」
「お前はバカか! 怪我人に抱きつくやつがあるか!」
「ご、ごめんなさ〜い」
「か、つ、ざ、ね〜」
 やっと解放されたイサトが、いつの間にかふたりの後ろに立っていた。
「イ、イサトくん、違うの。あの、私がね・・・」
「帰るぜ」
「イサトくん?」
「帰ろうぜ、花梨。オレたちの世界へさ。どうせ勝真たちがまたヤバイことになったら、龍神様の呼び出しがあるんだろ? そんときゃまた来りゃいいじゃん。だから、別れの言葉なんていらないんだ」
「うんっ! そうだね。それじゃ、私達帰るね」
「ああ、帰れ帰れ。何かあれば遠慮なくこき使ってやるから、それまでお前らの世界で仲良くやってな」
「羨ましいってんなら、素直にそう言えよ。じゃ、もう行くぜ」
「元気でねー」
「お前らもな」

 神泉苑に向かって走り出したふたりを見送り、勝真は瓦礫の山となった羅城門跡にぼんやり立っていた。サチが駆け寄って来て、心配そうに勝真を見上げる。
「ん・・・。ああ、大丈夫だ。俺達はここから離れられない。でも前に進むことは出来る。ここも建て直しが決まったんだ。これから良くなっていくさ。それに、何より俺達には龍神様のご加護がある。負けられないぜ」
 勝真はサチの頭をぽんぽんと軽く叩き、晴れやかな顔に白い歯を見せて笑った。





とらまるさんにキリ番777を踏んでいただいたき、差し上げたお話です。
「遥か」だけが題材のお話はこれが初めてでした。キャラがなかなか喋ってくれず、ちょっと苦労しました。
(アンジェキャラは殆どご自分で喋ってくださいます。その為、時々トンデモナイ方向へお話が進むときもあります。これもまた楽し♪)
とらまるさんに、『らしい』と言って貰えて安心しました。
イサト&勝真のお話というリクエストをもらいましたが、花梨を絡ませたかったので、イサトは現代に来ていることにしました。 行き来は龍神様なら何とかしてくれるンじゃないかなーと。(笑)ご都合主義ですみません。

■とらまるさんにいただいたコメント■

まゆさんのHP777をGETしました!ラッキ☆
リクエストは「遙かなる時空の中で2」のイサト君と勝真さんのお話。
とらまるの大好き二人組です。
まゆさんvありがとうございましたvvv
とっても素敵なお話です。二人とも会話に『らしさ』が出てます!
もちろん、声は声優さんモードで (^-^)
花梨ちゃんがイサト君と現代に帰っていてすっごくうれしいな♪
壁紙は朱雀&青龍にしてみました(笑)


2002.07.28(掲載)
2004.11.30(再掲載)


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