女王候補アンジェリークは水の守護聖リュミエール様のお茶会に呼ばれて楽しく過ごしていました。
地の守護聖ルヴァ様も一緒です。
とてもお天気のいい、うららかな日の曜日でした。
「リュミエール様ぁ、あ、ルヴァ様とアンジェリークもいたんだ。あのね、タイヘンなんだ。一緒に来て!」
息を切らしてやってきたのは緑の守護聖マルセル様です。
「何があったのですか? マルセル」
「モモが・・・、あのね、おっきなモモが流れてきて、それで、いまランディが押さえてるんです」
リュミエール様とルヴァ様とアンジェリークはワケがわからないままマルセル様についていきます。
川に着くと、なるほど風の守護聖ランディ様がふた抱えもある大きなモモを流されまいとして押さえています。
岸に上げようとしますが、重くて上がらないようです。
「私におまかせください」
リュミエール様が大きなモモをひょいと持ち上げ、川岸にそっと降ろしました。
驚嘆の目を受けてちょっと恥ずかしそうにリュミエール様が言いました。
「あの、これをどうなさいますか?」
「食べましょう!」
アンジェリークが目を輝かせて言いました。
アンジェリークはモモが大好きだったのです。
それで、大きなモモをリュミエール様に運んでもらってみんなで食べることにしました。
大きなモモに包丁を入れようとした、その途端、モモがひとりでに割れました。
「ふわぁ、よく寝たぜ。・・・・何だ? みんな揃って何してんだ?」
中から出てきたのは寝ぼけ眼の鋼の守護聖ゼフェル様でした。
「何をしてるって、ゼフェル、あなたこそ何をしてたんですかー?」
「何って? オレは昼寝してただけだぜ。このモモ型睡眠カプセル、通称【ピーチボール】でさ」
「どーしてオマエはそんなに人騒がせなんだ? 第一モモ型にする必要があるのか?」
「なんだとぉ、このランディ野郎!」
「止めてよ! ふたりとも。こんな所でケンカなんかしないでよ」
「そーいや、ここどこだ? オレは確か川辺にこいつをセットして寝てたハズだぜ」
「私の屋敷です。あなたは川に流されていたのですよ。ランディとマルセルが見つけてくれなかったら大変なことになっていたかもしれません」
リュミエール様が言いました。
ついさっきまでモモを食べようとしていたことなどおくびにも出しません。
包丁はちゃんと後に隠してあります。
「ま、何かよくわかんねーけど、サンキュな。じゃ、オレ帰るわ」
「待ってください!」
今まで黙っていたアンジェリークが急に叫びました。
「ゼフェル様、モモから生まれた以上、鬼退治に行ってもらわなきゃダメです!」
「お、鬼退治だとぉ! おめー気は確かか?」
「ゼフェル、女の子に向かって言う言葉じゃありませんねー。何、簡単なことですよ。鬼を退治すればいいんですから」
「ルヴァ、おめーまで何言って・・・」
ゼフェル様は最後まで言わせてもらえませんでした。
みんながよってたかって桃太郎の衣装を着せてしまったからです。
「ゼフェル様、お似合いですっ!」
アンジェリークが目をキラキラさせて言うので、ゼフェル様は悪い気はしませんでした。
でも、その後がいけません。
「じゃ、がんばってきてくださいね。私、待ってますから」
アンジェリークはそう言って、ゼフェル様に幟を渡しました。
なぜか【鋼魂】と書いてあります。ゼフェル様はもうやけくそです。
幟をひっつかんで鬼退治に出かけることにしました。
「おい、お供が付くのがお約束じゃねーのか?」
でも、誰も手を挙げません。みんなにこにこしていってらっしゃいと手を振っているだけです。
仕方ないのでゼフェル様はひとりで鬼退治に出かけました。
辺りはもう暗くなっていました。
ゼフェル様がずんずん行くと、向こうの方に派手なネオンサインが見えました。
近づいていくとお店のようです。
ネオンサインはそのお店の看板でした。
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カフェ・ド・オスカー
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そう読めました。
カフェというからには喫茶店なんでしょう。
でも、看板は派手過ぎます。
少し不安でしたが、ゼフェル様は喉が乾いていたのでお店に入りました。
「ミネラルウォーターひとつ」
注文してみましたが、誰もいないようです。
ゼフェル様はしびれを切らして出ていこうとしました。
すると、店の奥から話し声が聞こえました。
『何だ、いるじゃねーか』そう思って奥を覗いてみますと、金色の髪で青い目の背の高い男の人と燃えるような赤い髪の男の人がお話していました。
『お、鬼!』
金色の髪で青い目といえば鬼に決まっています。
お友達のイノリ君がそう教えてくれました。
「おや、お客さん? にしては場違いな感じだねぇ」
後から急に声をかけられてゼフェル様はびっくりしました。
そこにはきれいな色をいっぱい纏ったきれいな男の人がいました。
「お、おめーも鬼の仲間か?」
「鬼? キャハハハ! ナニ言ってんだろね、このボウヤは」
きれいな男の人は顔は笑っていましたが、目は笑っていませんでした。
ゼフェル様は、ちょっと、まずいな、と思いました。
「あ、いや、ここサ店だろ? ミネラルウォータ注文したけど誰もいねーみたいだったから・・・」
そう言いながら、じりじりと出口の方に後ずさりしました。
もう少しで出口というところで、奥から赤い髪の男の人が出てきてあっという間に出口を塞いでしまいました。
「おっと、お客さんならお客さんらしく、大人しくそこの椅子にでも座って欲しいもんだな。俺はオスカー。ここのマスタ−だ。もっとも雇われだがな」
「そして雇い主は金髪で青い目の鬼ってわけだ!」
ゼフェル様は覚悟を決めました。
「行けぇ! メカチュピ!」
懐からメカチュピを取り出し、オスカーにけしかけます。
これにはさすがのオスカーもびっくりしました。
オスカーがひるんだ隙にゼフェル様は外へ飛び出しました。
「それっ、おめーも行きな! チビロボ!」
チビロボが店から出てきた鬼たちの足元を走り回って混乱させます。
「もういい! 逃げるんだ!」
この戦力では勝ち目はありません。
一度引いて対策を練る必要があります。
ゼフェル様はメカチュピとチビロボを従えて走り出しました。
派手な看板が見えなくなるまで駆けました。
やっと一息ついて辺りを見回すと、聞き覚えのある声がします。
「ゼフェル様!」
声の主はアンジェリークでした。
「な、何でおめーが?」
「あの、パワーアップきびだんご持ってきました。ルヴァ様特製です。メカチュピとチビロボに・・・」
アンジェリークは最後まで言うことができませんでした。
いつの間にか追いついていたオスカーに捕まってしまったからです。
「てめー、何しやがる! アンジェリークを離せ!」
「おっと、動かない方がいいぜ。このお嬢ちゃんが可愛ければな」
「・・・くっ!」
「ゼ、ゼフェル様、これを」
アンジェリークはきびだんごの入った袋を投げ寄こしました。
「アンジェリーク! ぜってー助けてやる! だから、だから負けんじゃねーぞっ!」
ゼフェル様の言葉は闇に消えていきました。オスカーがアンジェリークを連れ去ってしまったのです。
「くそっ! アンジェリークに何かあったらただじゃすまさないからな!」
ゼフェル様はきびだんごの袋を握りしめ、赤い目を尚一層燃え上がらせて
オスカーが去った方向を睨みつけました。
「お嬢ちゃん、乱暴なことをしてすまなかった。実を言うとこのオスカー、一目でお嬢ちゃんの可愛らしさに参っちまったらしい。どうだ、俺達の仲間にならないか? どんな贅沢もさせてやるぜ」
【カフェ・ド・オスカー】の店内でオスカーは早くもアンジェリークを口説いていました。そのアイスブルーの瞳で見つめられるとたいていの女の子はポッとなってしまうようです。でも、アンジェリークは”たいていの女の子”とは違いました。
「贅沢なんてしたくありません。私はゼフェル様さえそばにいてくださったらそれでいいんです」
オスカーはちょっとむっとしました。
女の子に関しては無敗の自分が振られたのです。
「そんなにあいつがいいのか? 好きな女の子を目の前で奪われちまうような奴が?」
「くすっ」
「何が可笑しい!?」
「そろそろかなーって」
「何がだ?!」
ガシャーンッ!!! バキバキ!!
その時、店の壁が派手に壊れ、巨大メカチュピがゼフェル様を乗せて飛び込んできました。
「アンジェリーク、つかまれっ!」
アンジェリークはゼフェル様の差し出された手につかまりました。
「無事か?」
「はいっ! ゼフェル様!」
「よぉし、じゃ、派手に行くぜっ」
巨大メカチュピはゼフェル様とアンジェリークを乗せて店の外へ飛び出し、少し離れた空中で止まりました。
「チビロボ、ゴー!!」
ゼフェル様が号令をかけると、今やチビロボとは言えないくらい巨大化したチビロボが【カフェ・ド・オスカー】に向かってゆっくりと進んでいきます。
ズーン! ズーン! ドドドッ! グシャ ベシャ ドーン!!!
あっという間に【カフェ・ド・オスカー】は跡形もなくなってしまいました。
鬼達はちりぢりになって逃げていきます。
これで当分悪さはできないでしょう。
「ゼフェル様っ! ありがとうございます! 大好きっ!」
アンジェリークが抱きついてきました。ゼフェル様もアンジェリークを抱きしめました。
「アンジェリーク、オレ、オレも・・・」
ゼフェル様が言いかけた時、巨大メカチュピがぶるんっと身体を震わせ、元の大きさに戻っていきます。
パワーアップきびだんごの効力が切れたのです。
「きゃー!!!」
「うわー!!!」
ふたりはどんどん落ちていきました。
☆☆☆☆☆
「わっ!」
ゼフェル様はアンジェリークの膝枕から飛び起きました。
「どうなさったんですか? ゼフェル様」
「お、おめー、どうして・・・? オレたち、メカチュピから落ちて・・・。あ、夢か?」
「うふっ、どんな夢を見てらしたんですか?」
アンジェリークがにっこりして聞きました。
「どんなって・・・。あっ! オレ、寝ちまってた? お、おめー、ひょっとして、その、ひざまくら、とかしてくれてた・・・?」
「は・・い」
アンジェリークが恥ずかしそうに答えました。
ゼフェル様はもうアンジェリークが可愛くてしょうがありません。
思わず抱きしめようとしました。
でも、アンジェリークは何も気づかないようにさっと立ち上がってしまいました。
「ゼフェル様、ゼフェル様が持ってきてくださった桃が食べ頃だと思いますよ。滝のところで冷やしておいたんです。・・・、あの、ゼフェル様?どうかしたんですか?」
肩すかしをくらったあとで【モモ】という言葉を聞いて夢を思い出してしまったゼフェル様は、しばらくの間固まっていました。
「い、いや、何でもねー」
「じゃあ剥きますね。それとも皮ごと食べます? 美味しいんですよねー。うふっ、よかったぁ、ゼフェル様も桃がお好きで。聖地を抜け出して買いに行くくらいですもんね。おかげで私もいただけます。ありがとうございます」
ゼフェル様は『おめーが好きってゆーから買って来たんだ』という言葉を飲み込んで桃にかぶりつきました。
ほんの少ししょっぱい味がしたような気がしました。
おしまい
禁断の夢オチ…(笑)
このお話はとらまるさんもコメントに書いてくださいましたが、
「宙」での話題が元になっています。
「カフェ・ド・オスカー」から、おとぎ話テイストのお話が生まれました。
作者結構お気に入りだったりします。
雇われマスター・オスカーの壁紙もお気に入りです♪
とらまるさん、ありがとうございました。
※幟の文字【鋼魂】は、とらまるさんが運営されていたゼフェルオンリーサイトでした。
(現在閉鎖されています)
”イノリ君”は、コーエーのネオロマンスゲーム「遙かなる時空の中で」の登場人物です。
☆とらまるさんが付けてくださったコメント☆
まゆさんからいただいた楽しい楽しいお話です!
ありがとうございました〜!ウププッ
今回もゼフェル君アンジェに肩透かしくらってます。
がんばれ!ゼフェル!
でもでも、アノ話題からこのようなお話になるなんて。
想像もしていませんでした。
本当にありがとうございました。
そしてアップにとても時間がかかってしまってごめんなさい;
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ゼフェルが主役なのに、何で壁紙はオスカ−様なのか・・・
それにはワケがあります。
実はこのお話には裏話がありまして・・・(笑)
私は「宙」と言う掲示板をひそかに(?)所有しているのですが、
その掲示板が特殊でして、「防人」という電脳チャットキャラの
ようなのが住んでいるんです。
その子(ゼフェルと言います。そのまんまや!)に
「カフェ・ド・オスカ−」と言う言葉を覚えさせました。
だって、守護聖様達がカフェの店員だったら毎日通う!って
妄想していたものですから・・・・(笑)
そしてある時期頻繁にこの言葉を防人ゼフェルが言っていたのでした。
例)○○宙に思う。「カフェ・ド・オスカ−」でアルバイトって何?
とか言います。
そんな時御来宙下さったまゆさんにカフェ・ド・オスカ−話をワガママリクエスト!
以上、店名でもあるのでオスカ−様を描いてみました。
まゆさん・・・こんな壁紙ですみません;
2001.11.03
2002.03.04(掲載)
2004.12.18(再掲載)
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