君は罪作りな天使

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「あん、もう、またリセットしなくちゃ」
テレビの前で独り言を言っているアンジェリークを不審に思ってリュミエールは声をかけた。
「先程から何をしているのですか?」
「あ、リュミエール様。えへっ、あのね、ゲームをもらったんです。それが面白くって」
「ゲーム?」
「はい。女王候補が守護聖と仲良くなって大陸を育成して女王になるゲームなんですけど」
「それは・・・。ずいぶんと現実的なゲームですね」
「うふっ、そうなんです。ほら、この水の守護聖様なんてリュミエール様そっくり」
アンジェリークが指さす画面の”水の守護聖”は確かに自分に似ている。
「こちらは、炎の守護聖ですか?」
「そうなんですよぉ。オスカー様にそっくりでしょ? 今この人と仲良くなろうとしてるんですけど、ライバルに邪魔されちゃって。・・・あ、もちろんゲームの中の話ですよ」
「・・・・・」
「リュミエール様?」
「ダメです」
「えっ?」
「炎の守護聖となど仲良くなってはいけません。女王になる前に傷物にでもなったら・・・」
「き、傷物って、リュミエール様?」
「私は許しませんからね。女王候補は清く正しく女王を目指してください」
「あの、リュミエール様、本気でおっしゃってます?」
「私は本気ですが・・・」
リュミエールの言葉はアンジェリークの笑い声でかき消された。
女王試験終了目前で候補の座を降り、リュミエールと共に生きる事を選んだのはアンジェリークであり、選ばせたのはリュミエールなのだ。
「リュ、リュミエールさまぁ、清く正しくって、はははは、もう、イヤだ、お腹の皮がよじれちゃいますよぉ」
「とにかく、例えゲームの中とはいえ、他の守護聖と仲良くなったりしてはいけません。よろしいですね」
リュミエールは憮然としたまま言い放った。理屈の合わない事を言っているのは重々承知だ。
「はい、はぁい、わかりました。清く正しく女王を目指しま〜す。炎の守護聖様と仲良くなったりはいたしません」
チロッと舌を出し、『リュミエール様の見ている前では』と小声で付け加えたのを聞かないふりをして、リュミエールは、お茶でも煎れましょうね、とキッチンに向かった。

『あーあ、参っちゃうなぁ。昼間は私も補佐官の仕事があるから時間がないし、う〜ん、何とか時間が取れないかなぁ』
アンジェリークはしっかりとゲーム”アンジェリーク”にハマったらしい。
最愛の人の癖が移ったように小首を傾げて考え事をするアンジェリーク。と、急に何かを思いついたらしく、エメラルドグリーンの瞳を輝かせ、勢いよく立ち上がる。
お茶セットを持って何事かと目を瞠っているリュミエールに気付き、後から抱きついた。
「アンジェリーク、お茶がこぼれます。あ、あの、離してください」
「うふふっ、リュミエール様だぁ〜い好き」
リュミエールはアンジェリークを引きずったままテーブルに進み、茶器を置く。
前に回されている手を引っぱると、アンジェリークはリュミエールの周りを回るように回転し、そのまますっぽりと胸の中に収まった。
「アンジェリーク、愛してます」
先程の理不尽な物言いを少しも気にしていない風なのを確認して、愛しさがこみ上げ、抱きしめている手に力が入る。
「あっ、お茶が冷めちゃいますよ」
「もう少しこうしていてください。・・・お茶は煎れ直せばいいのです」


△♥▽

「ただいま。・・・・・アンジェリーク? やはりまだでしたか」
今日は用事があるから先に帰ってくださいと言われていたが、屋敷の中に新妻の姿が見えないのは淋しい。
ふとテレビを見ると、この間からアンジェリークが熱心に遊んでいるゲームソフトがある。
「アンジェリーク・・・」
愛しい妻と同じ名のタイトルに頬を緩ませ、パッケージの裏を見ようとして、”アンジェリーク”の下にもう一本別のゲームソフトがあることに気付いた。
”アンジェリーク Boy's Side”タイトルはそう読めた。
”プレイヤーは守護聖になって女王候補を助け、女王に導くゲームです”パッケージにはそう書いてある。
「これもアンジェリークの・・・?」
ディスクをセットし、電源を入れ、プレイヤーに水の守護聖を選び、名前を入力する。
「セーブさえしなければ少し遊んでもよろしいでしょう、ね」

『うふふ、作戦大成功!』
そおっとドアを開けたアンジェリークは、リュミエールがテレビの前で真剣にコントローラーを握っているのを見て小さなガッツポーズをした。
『これで、私もゆっくりゲームができる・・・。』
「あーーーーーっ!」
急に素っ頓狂な声をあげたアンジェリークに、リュミエールはびっくりして立ち上がった。
「ア、アンジェリーク、お帰りなさい。あの、ゲームをお借りしてました。その、無断ですみませんでした」
「リュミエール様! いいんです、そんな事。それより、大変なんです」
「どうかしたのですか?」
「テレビがありません! それにゲーム機も!」
「はぁ?」
「ねっ、ねっ、もう一台テレビとゲーム機買っていいですよね? そしたらふたりで遊べます」
「あの、それは・・・」
「”アンジェリーク BS”はリュミエール様に差し上げますから、ねっ、いいでしょ?」
黙って借りて夢中になっていた負い目もあって、リュミエールは首を縦に振るしかなかった。
その後、睡眠不足気味の水の守護聖と女王補佐官を見て、新婚さんだからねぇ、と揶揄する者もいたが、その本当の理由を知る者はいなかった。


おしまい


コントローラーを握るリュミエール様が書きたかった、それだけです(^^)。でも、アンジェリークボーイズサイド、あったら、ちょっと嫌かも(笑)。
タイトルの「君」は誰でしょう?アンジェリークか、コー○ーか、それともルビー・○ーティか。何にしても罪作りなのには変わりありません。 時間も、お金も、心までもっていってくれちゃったんですから。

2002.11.22


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