月末、またしても、風邪をひいてしまった。今日で4日目であるが、なんだか、だんだんひどくなっているような気がするのである。特に咳がひどくて、昨日など、上司に露骨にいやな顔をされてしまった。
 そんな状態なのでどうしても、夜、なかなか寝付けないのだが、昨夜、夜中に外で妙な物音がしたのだ。「うみょー、うみょー」という、何か、生き物の声のようなのである。耳をすませていると、その音は移動していく。何だろう。さらに耳をすませてみる。
 それは、猫の鳴き声だった。それも、あの声では、子猫のようだ。アパートの廻りをうろうろ歩き廻っている。捨て猫だろうか。親にはぐれたのだろうか。迷子かもしれない。
 いろいろ考えてはみたが、ドアは開けなかった。ほんの一時かわいがることはできるかもしれない。1晩だけなら泊めてあげれるかもしれない。でもそんな中途半端な可愛がり方は、かえって猫を不幸にするだろう。猫にしてみればこっちの事情なんてわからないのだから。たった1度の餌や宿だなんて、因果を含めるわけにはいかない。
 だが、猫の声はだんだん、迫力を増し、「おい、聞こえてるんだろ、どうして開けないんだよ〜!!」と、脅迫しているかのような雰囲気さえする。
「ごめんね、おまえを可愛がることはできないんだ、違うところに行ってみなよ」と、祈るだけであった。
 そして、今夜、この文章を打っている今も、子猫の声がする。今日はどうしても我慢できず、そっと、窓をあけ、姿をみた。茶色っぱいぼさぼさの毛で、やっぱりやせた子猫だった。
 今夜は雨が降っている。早く住みかが見つかるといいね。
(おわり)




しあわせ町大バザール