■■■   TAKURO   ■■■

 満たされてないから
 人を大事にしたり曲を作ったりするんだろうな





●以前、「自分がミュージシャンをやっていることで、人を悲しませたり、彼女に足りない思いをさせたりするのば違うと思うみたいな恋愛観…周囲の人への愛情観を、おっしゃっていませんでしたか?

「ああ。夢をかなえるために、自分の奥さんが隣で腹を減らしてるっていうのはね。たとえ、彼女がそれを目指して欲しいと思ってて、中村玉緒みたいに(笑)献身的になってくれたとしても、俺は、最低限のことは守ってやりたいし、してやりたいっていいますか…」


●その考えって、どんな経験から生まれてきたの?

「自分が、そうだったからじやないかな。淋しい思いなんか嫌ってほどどしてきたし、させただろうし。それは今から思うと、しなくていい淋しさだったり。過去がなければ今の俺が無いのは分かってるんだけど、それでも無くても良かった時期って絶対あると思うほど」


●無くてよかった時期。…話せます?

「19〜21の頃の、浦和の暗黒の3年間。もう、何もかもが上手くいかない時期だった。人に対する愛情もカケラもないような、夢だけを食ってて生きてたような…。
本当、狂ってた時代だったと思う、あの頃は。夢マシーンだったんじやないかな」


●夢ばかりを追い続ける、ただの機械。

「そう。でも…もっと違うやり方はあったんじゃないかって気がしている。『自分1人で生きてる、生きてやる!』って思ってたから」


●そんな頃、GLAYのメンバーに対しては?

「それはそれで仲良くやってたけど、でも1人の自分に帰ったときは、毎日自己嫌悪だった。『なんでこう上手くいかないんだろう』って。良かれと思ってやっても、相手にとっては迷惑だったり仇になったり。東京に出て1年とかで、流されそうになったり呑まれそうになったりしてて、今までの自分の持ってた、あらゆるやり方や考え方を修正する時期だった。この街で上手くやっていくには函館と同じにやってたらダメで、もっとズルくもならなきやいけないし、もっと誰よりも早く走らないといけないんじやないかな…と。それを学んだ時期だったと思う。その頃に、俺という人はかなり変わってしまった」


●その暗黒の3年間の終わりは、どう訪れたんですか?

「家族に啖呵切っ出てきた訳だし、GLAYが仕事にならなかったのが一番辛かったんだと思うんですよ。だから糸口は軌道に乗ることだった。良い反応が返ってきてて、そこで始めて自分の存在理由を確認できたんだと思う。それから、やっと人に優しくできるようになった。GLAYによって救われたと思う」


●自分を突き落としたのも救ったのも、GLAYだった。

「うん。ただ、俺は、大好きな人とステキな休日を送るためにやってる時だってあるし、ある時は、将来のデッカイ目標のためにGLAYを頑張ってるし。いつも、全てを大作の絵のためにやってるとは言い切れない。
何もかもをGLAYにつぎこんでるかといえばそうでもなくて、色々な要素…GLAY以外の物も大切にするのが、今の俺だと思う。俺がなりたかったロッカー像っていうのは、そういうことを忘れない、ちやんとした男な筈だったし」


●で、GLAYが軌道に乗りだして、現在のTAKUROという、愛情いっぱいの人間が新たに構築された。

「うん。そこまでに学んだことは、沢山あるしね。気持ちっていうのは、いつか変わるもんだ…とか。それは男女間でも、放っとけば、いつか心は変わると思う。前向きにも後ろ向きにも他の人に対しても変化していくんだけど、そこですごく必要なのは、『変わらない気持ちでいよう』という姿勢で。…昔、一緒に歩いてた女の子なんかがいたんだけど、その人のこととか、『嫌いになるときは嫌いになるし好きだったらずっと好きでいるんじゃない』とか言ってて。で、2人がずっと行く中で、ちぐはぐな部分も出てきた。でもそれは、お互いが、相手を慈しもうとする気持ちに対して、何もしなかったからなんだよね。ちやんと相手を見つめて『愛していこう』って気持ちをおざなりにしてなければ、もっと遺ったと思う良い形に変化してたと思うんだよね。だから、これから誰か好きな人が出来て付きあっていくとしたら、俺は、そっやって一生を共にしていこうって思ってる」

●人って、なぜか手に入れたものを大切にしないという、悲しい気持ちの変化があるもんね。

「そう、そこが大変なところなんだよね。永遠なんてものは、絶対にないと思う。欲しがるような年でもないし。でも、永遠に限りなく近づけようとする努力は、やっぱり…すれば、観測論だけど永遠になってくれるかもしれない。『あるわけないよ』と思って接したくはないの。多分…永遠なんてないんだよね。だけど、努力はしたい。GLAYだって、いつ解散するか分からない。げと解散したくないのであれば、しないように、ずっと努力するよ」


●慢心する事によって崩れてしまうってことが分かってしまったからこそ、出来る努力。

「そうですね。すごくシンプルなことで、『自分はどうしたいんだ!?』って。で、天狗にもなりたい、だけどバンドも上手くやりたいとか、頭っからそんな都合のいい話はあるわけがなくて。GLAYでもっとしたいことがあるのなら…そっちを選ぶのなら、天狗になってる暇ないもん。もっともっと、例えば『この間10行で言ったことを今度は1行で言える技術を身につけたい』と思ったら、そうしなきや…という。だから、そんなに偉いことでもないのね。天狗にならなきや偉いとかじやなくて、『自分はどうしたいんだ?』ということでしかない」


●恋愛にしてもバンドにしても自分の未来にしても、そういう姿勢を持つ所から、全て始まっている。

「そういう姿勢を持つこともそうだし、伝える努力はするべきだし、そういう曲であってほしいとも思うし」


●例えば同じことを話すにしても、笑って話せば愛情が伝わるように、そういう気持ちを持って書かれた曲って、より伝わるんだろうなって思います。

「そうですね、みんなに伝わって欲しいですよね」

●みんな…リスナーって、どういう存在なんでしょう?


「個々としては、見えてるつもり。だから聴いてくれる子達は、『自分に歌ってくれてるんだ』って受け止め方で、間違いないと思う。集団って形になると分からないけど、GLAYを好きな子達がどういう状況で聴いてくれてるんだろうなっていうのは、想像つくから。
発信してるのは、個人にですね。高校時代に、原付きに乗って友達んちにテープ置きに行ってたようなものかな。それが、今はレコード屋さんを通してるってだけなんですよね」


●それが、聴いてくれる人への愛情の証しである…と。

「うん。決してGLAYは親切なバンドではないと思うんですよ。誤解を生む所も沢山あるし。げと、それは俺達には関係のないことで、だから、誤解されても『俺達はこうだ』とは言い続ける。それが、俺の仕事に対するプライド。…というか、もっと分かりやすい話なんだよね。『BELOVED』の『3度目の季節』とか、『だって3年一緒にいたんだから』っていうのを、個々に『聞いてよ』って伝えたいだけのものであって」

●例えばTERU君に、『聞いてくれる?』って話してるみたいなものである。

「そうそう。あと愛し続けるってことだと、今年はもっと、愛に溢れた曲がいっぱい書ければ…とか思う。
『BEAT out!』は、なんとなく痛いアルバムだったからね。でも、'96年はなんかもっと…やっぱり幸せな歌の方がいいじゃないですか?」

●1年弱の間にそう変化したのって何かきっかけが?

「分からないなあ。別に、愛情も注がれてないしね(笑)。げと、愛情を注いであげたいと思う対象が、いっばいあるからだろうな。ファンの子とか俺が接する周りの人とか、もう、全員を抱きしめて歩きたいぐらいイイ奴ばっかりだしね。そういうアルバムを作ってもいいかなって」


●だけど、なんだか間いてて切なくなるのが、『愛を注ぐ』って言葉が出てくればくる程、『本当は自分がキュって抱きしめられたい、愛されたいんだ』って言外の気持ちが、もう溢れてるみたいな気がしてしまって。

いきなり核心に迫るなよ。そういうヘヴィな事を聞くんですか?(笑)…悪循環といえば悪循環なんだけど、そうしていないと何かが壊れるような気がしてしまってるのかな。義務に駆られてるわけでもないんだけど、注きもしないで注がれないじゃ悲しすぎるから」


●注がれたい欲や甘えたい欲は、自分からは出せない。

「人一倍あると思うけどね。そこが満たされてないから、人を大事にしたり曲を作ったりするんだろうし。俺、100%の愛情を注がれて何もかも満たされたときって、歌を作る必要はないんじやないかと思うもん。自分でその幸せをブッ壊してしまうかもしれない」


●でもそれは、さっきの大切にしたいっていう話と矛盾しますよね。

「その迷いが、本当だと思う。さっき言ったのは自分の理想で、それは信じてて、一方で、それに近づこうとするとストップをかけてしまうかもしれない自分もいて。その矛盾を共に抱きかかえて歩いていくしか、ないんじやないのって感じだよね。気持ちの矛盾はGLAYの活動にも言えるんだけど、仕事だから、嫌なこともやるし。やりたいことしかやらないなんて言ってる奴や、何もかも100%納得して進んでるって奴なんて、俺信用しない。だから4人でも『先の大きな所に辿り着くためには嫌なこともしないとね、乗り越えて行こうぜ』って何度も話してるし。『嫌なこともズルいことも抱えながら行ってるんだ、この野郎!』て。でもその裏には色んな愛情がある。この仕事を成功させれば誰かが喜んでくれるかもしれない…とか。だから同世代の社会で仕事をしている奴らと同じ」


●『自分が頑張ることによって一緒にいる誰かが笑ってくれるのなら、嫌なこともする』って気持ちに於いては。

「そうだね」


●こうやって話を聞いてると、全てのことに意味や愛情を見出だして、ここに辿り着いてきてる気がします。

「そうかな。だから自分の中では、これからも人に対する愛情を、注いでも注ぎきれないぐらい、作っていきたい。曲も、そうやってみんなの家に届けに行くし」


●やっぱり、『注いで』って言葉ばかり出でくるんですね。

「ん−、言わんとすること、当たってると思うよ。…そう、『暇を見つけて返事ちょうだいよ』って気持ちなのかもね。でも、『絶対にくれ』とは言えない。それを言って、失敗ぱっかりして来てるから」


●…・なんかもう、ちょっと痛々しい。

「俺もそう思う。カッコ悪い役ばっかだな…と思うけど、期待ばっかりするの、なんか嫌じやないですか?」


●でも、大量の失言があると、過剰に大きな期待をして、バランスを取ろうとしてしまったりしないですか?

「だから、人に良く付きあうけども、『こうしてあげたからこうかな』とは思わないようにしてる。嫌な奴になりそうだし、がっかりする自分が嫌だもん。だから『BELOVED』も、『愛してくれ』という歌じゃないんだよね。今まで言ったことが、全部入ってると思う。


●与え続ける『自分』なら信じていられて、それでいい。

「うん、それでいい。取り敢えず自分がブッ倒れない位の愛情と体力を持って生きていきたいですね」


●うん(笑)。けど、『満腹だ』って程の愛情を手に入れたTAKUROさんの幸せそうな顔を、見たいです。

「俺が見たいよ!俺がそう望んでるんだから(笑)」


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