あいつの娘


 あいつと別れてから、娘には一度も会っていない。
 もう十五年にもなる。当時五歳だったあの子は、もう私の顔など忘れてしまっているだろう。私だって、一目で娘とわかるか心許無い。それでも、一度私に会ってみたいと申し出てくれたことに感謝している。会いたかったのは私も同じだ。しかし、自分に自信が持てず、どうしても申し出られずに、気がついたら四十過ぎの中年になっていた。
 実際に会ってみると、娘は垢抜けた女の子だった。その明るさに導かれながら、私は徐々に緊張をほぐしていく。
「お母さんの言ってた通りの人みたいね」
 突然、娘がそんなことを言う。
「えっ?」
「あいつ…いや、お母さんは私のことを、どう言ってたんだい?」
 娘は、畳み掛けるようにことばを返す。
「碌に働きもしないで」
 うっ…!
ひどい言い草だが、その通りだ。あいつと別れたのも、それが主な原因だ。今でも、まともな職には就いていない。
「気弱で」
 こ、これもその通りだ。だからこそ、気の強いあいつに惹かれて結婚したのだ。その気性は、娘にもちゃんと受け継がれているようだ。
「ギャンブル狂で」
 け、競馬と競輪と競艇とパチンコと麻雀と花札が三度の飯より好きだ。死ぬまでやめられそうにない。
「浮気のひとつもできないくらい、モテなくて」
 な、何だよ! もし浮気などをしてたなら、半狂乱になって怒るか泣き叫ぶかしていた、というのが普通だろう?
「インポで」
 バババ…バカモン!
年頃の娘がそんな下品なことばを口にしてはいかーん!
「インキンで」
 ややや…やめてくれぇ!
「チビでデブで腋臭で足が臭くて…」
 そ、そそ…それ以上の罵詈雑言はご勘弁をぉぉぉ!
「欠点ばっかり。でもね」
「で、でも…?」
 私は反射的に聞き返した。
「とっても優しい人だって。そう顔に書いてある人だって」
 娘の微笑みに、体中の血液が顔に集中するのを覚えて、私は思わず下を向いてしまった。年甲斐もなく、赤面した。過去にこれほど照れたことがあったろうか?
一度くらいあったような気がするが、あれはいつだったろうか?
 …あ、思い出した。あいつに「好きです」と告げた遠い昔、今と同じように、顔を赤らめたのだ。


妄言王のアとガキ

別の人の元話があってそれに刺激されて書いた。でも全然別物。
父娘の再会で、ラストの娘の科白が「お母さんの言ってた通りの人」。
うーん、それってどういう人?
との疑問が湧いてきて、もう少し予なりに話を続けたいと勝手に思った。
その作品の向こうを張ってシリアスに書くのはどうかと思った。
で、こうなった。

Back