或る軍事裁判の証人

 
 勝利の女神の微笑みを受けたA国元帥は、軍神に見放されたZ国の都市を幾つか空爆した後、上陸した。

 元帥が真っ先に行なったのは、Z国戦犯の選定だった。今回の戦争はA国の「聖戦」だったと喧伝するのが狙いである。部下にZ国の実力者一覧表を作成させ、目を通し、うち元首と大佐を除外するよう指示した。
 元帥がZ国に関して最も無気味に感じたのは、Z国元首に対する、国民の狂信的なまでの忠誠心だった。我身より元首の処遇を気に病むZ国民も多い。これを処刑してZ国民の蜂起を招き、統治に支障を来すのを危惧した。
 そこで、元首に次ぐ権力者を「元首の威を借る黒幕」とし、これに死刑判決を下して「A国の正義」を確立する方法に切り替えた。具体的には、Z国宰相とその側近が対象となった。
 宰相らへの死刑判決をより確実に導くには、彼らを憎む者を証人にするのが良い。更に同国民であれば「信憑性」が高く、なお良い。この二条件に合致したのがZ国大佐だった。大佐には数多くの軍功があったにも関わらず、宰相との確執のため、軍閥から追放同然の身だったのである。
 軍事裁判はZ国首都で行われた。判事はA国と同盟関係にあった国から招聘された。つまり、形ばかりの中立者である。
 A国検事は、Z国弁護士の抗弁を次々と退け、着実に「証拠」を固めてゆく。その仕上げとして、大佐に証人としての出廷を求めた。
「病を患い、地元で療養中だ。是非にと言うならそっちから出向け」
 傲慢かつ予想外の返答に、検事は舞台裏の元帥に判断を仰いだ。不愉快ではあるものの、病気という妥当な理由がある上、無視するには惜しい証人である。結局、裁判を大佐の地元に出向させた。

「被告と、思想上の齟齬があったと聞くが」
 検事の問いに大佐は言下に答えた。
「無い」
「いや、あった筈だ」
「無い。彼等には思想など無いのだ。齟齬など有り得ぬ」
 被告席にいた宰相は一瞬だけ、人生最後の苦笑を浮かべた。それを見届けたのは、彼と運命を共にした側近だけだった。
 焦燥のあまり、検事は極めて露骨に質問した。
「今回の戦争で最も罪深いのは誰だと思うか」
 大佐は淡々と答えた。
「A国元帥である。彼はその命令を以て我国の都市を空爆し、意図的に民衆を殺した。軍人と雖も非戦闘員を殺せば、それはただの虐殺である」
 彼なりの条理であった。

 一年後、彼は病死した。公判記録から彼の存在が抹消されていたため、暗殺説も囁かれた。
 

妄言王のアとガキ

この拙作を一読なさって、もし、「こいつ軍国主義じゃ」「ミギ」「特定の国を貶めちょる」
などと思っちゃった人がいたら、ゆっときます。「彼なりの条理であった」の一文を読み落とさないで下さいませ。
もっとも、日本の学校教育の偏屈な近現代史教育へのアンチテーゼを多少は意図しないことも…ナンテネ。

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