異邦人
成田からソウルへ。飛行機に乗ってる時間から考えれば国内旅行も同然だな、と彼は思った。
初めて降り立つ韓国に少し興奮しながら、ソウルの或るホテルに入った。
「泊マりタいでス」
あやふやな朝鮮語で告げる。
「どこの国から来ました?」
とホテルマンは英語で尋ねた。
彼は眉間に皺を寄せた。
(こっちが朝鮮語で話し掛けてんだから朝鮮語で返せよ。母国語だろうが)
怒気を抑え、やはりつたない朝鮮語で請うた。
「私、英語解ラなイ。朝鮮語デ話しテ」
嘘ではない。彼が話せる言語は、日本語とあやふやな朝鮮語だけだった。
ホテルマンは内心、変な客だと思った。日本人のくせに英語が解らず、日本語を押し通すこともせず、「朝鮮語で話してくれ」とは。
奇妙に思ったばかりでなく少し不快でもあった。「朝鮮語」ではなく「韓国語」と言ってもらいたい。ここはソウルだ。ピョンヤンではない。
「韓国語で話せばいいんですね?」
とホテルマンは母国語で確認した。
彼の眉間の溝が深まる。
「朝鮮語でス」
頑迷な客だと苛立ちながらも、ホテルマンは引き下がった。
「どちらの国から来られましたか?」
韓国人ホテルマンは、自身が思うところの「韓国語」、客が言うところの「朝鮮語」で尋ねた。
「日本でス」
漸く本題に入れると思いながら、彼はパスポートを提示した。
「日本人ですか?」
何気ないホテルマンのことばに、彼は提示していたパスポートを叩き付けた。
「フざケるナ! 朝鮮人のクせにハングル読メンのカ。こレ、日本のパスポートか? 見レば解るだろウが」
彼のパスポートにはKOREAとあった。勿論ハングル文字も添えられている。
ホテルマンは気圧されながらも弱々しく反論した。
「日本から来たとおっしゃるから…」
…反射的に日本人だと思ってしまったのです、と言いかったのだが、日本からの来訪者はそれを遮って怒鳴り続けた。
「バカか? 日本かラ来レば、全員日本人ナのカ!」
ホテルマンは、パスポートと彼の顔を見比べて漸く思い当たり、恐る恐る尋ねた。
「在日…ですか?」
「文句あルカ」
「い、いえ…」
ルームキーを奪うように受け取ると、彼は「お荷物をお持ちしますか?」という遠慮がちな声を無視してフロントを去った。
腹立たしかった。同じ民族を同じ民族として見ない祖国の人間の態度に。
(伯父さんも俺をそういう目で見ているのに招いたのか?)
明日の初対面に少し嫌気が差してきた。
妄言王のアとガキ
某氏との会話で「あ、書かなきゃ」と思った。
よって、頭の中だけでつくった話でないということだけはお断りしておく。
また「総意」ではないと思う。よって「一般的な認識に反する」との反論はイミナシである。