禁じられた結婚


 父とのドライブ。
 弟が「あの男と結婚したいなら親父に言えよ」と車を貸してくれた。薫は頷いてキーを受け取った。
 意を決して、運転している父に打ち明ける。
「浩と結婚したいの」
 既にプロポーズを受けていることも告げると、父の横顔がみるみる強張っていった。
 唸るような返答だった。
「…だめだ」
「え? どうして?」
 父は助手席の薫を見ようともせずに告げた。
「実の兄とは結婚できない」
 父があまりに衝撃的なことを言ってのけたので、薫はすぐには事態を呑み込めなかった。しかし、やがてその意味を理解したとき、絶望の淵に突き落とされた。
 浩とは幼馴染みだったが、そんなにも近すぎる関係だったとは…。

 信じない。

 薫は父に内緒で、父と別居中の母に会った。
 そして父に告げられた一部始終を、震えた声で打ち明けた。
 母は煙草を燻らせながら言った。
「薫、バカバカしいと思わない? 同性愛者でも結婚できる法律ができてから結構経つのに、近親婚は未だに認められないなんてさ」
 いつでも、まるで友達同士のように話しかける母を、薫は今まで自然と受け容れてきた。でも、こんなときぐらいは重々しく話して欲しかった。そんな思いが、薫に怒声を発させた。
「話を逸らさないで! 浩はパパの子なの?」
 我が子の必死な形相に母は薄く笑い、あっさりと答えた。
「ちがうわよ」
 薫は思わず、「よかった…」と漏らした。と同時に疑問も浮かんできた。
 父はどうしてあんな嘘をついたのか。
 薫が男なら、法律上は問題なくても心情的に反対してやまないのだとも想像できる。しかし浩はれっきとした男で、薫は女。どちらかが性同一性障害者ということもない。
 どこまでもフレンドシップな母は、笑顔を浮かべて告げた。
「でも、浩は私が産んだよ」
 新たな不意打ちを咀嚼するように頭を必死に回転させ、やっと事を理解したとき、薫は全身の血が脳に逆流するのを覚えた。
「ど…どうして! どうして平気な顔してそんなこと言えるの?」
 薫の激昂にも、母の笑顔は曇らなかった。
「いいこと教えてあげるから怒らないの。…浩とはだめだけど、弟となら大丈夫よ」
「えっ…?」
「あの子、向こうの連れ子だしさ。あんたたちって妙に仲いいじゃない。お似合いだよ」
 薫は呆然となった。
 弟はこの事実を知っているのだろうか。
 知らないのだとしたら驚かせ甲斐がある。
 そう思ってしまった自分に、薫は母との確かな血縁を感じた。

 


妄言王のアとガキ

お幸せに(?)

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