可愛い小悪魔
彼女は最高の伴侶だ。
「恋人」なんて軽いことばで片づけられるような存在じゃない。彼女無しでは生きていけない。月並みな言い草だと笑いたい奴は笑うがいいさ。
毎晩毎晩、ベッドの上で脳髄がとろけてしまいそうな快感を与えてくれる。ふんわりとしたかんじで、ときにはどっしりとしたかんじで、快楽だけの世界へといざなってくれる。世間のうざったさや未来への漠然とした不安をいっとき忘れさせてくれる、何度でも何度でも彼女を味わう。麻薬のように味わう。可愛い小悪魔。その素晴らしい魅惑に抗える者なんているわけがない。
僕と戯れるのはベッドだけにしよう。
そんな理性的な言い分を少しもきいてくれず、彼女は所かまわず、不意に僕のからだに覆い被さってくる。鬱陶しいんじゃない、とても心地いいんだ。だから僕も、つい彼女に全身を預けてしまいたくなる。そうしてしまうことも少なくない。
でも、さすがに今はまずい。
だって朝礼中だぞ。みんな下を向いて社長の人生訓もどきを聞き流している格好だからいいようなものの、誰かひとりでも僕の様子に気づけば、忽ち全員が連鎖反応でこちらを見やって、侮蔑するに決まっている。
まずいってば。べつに、自己陶酔の長話が好きなハゲ社長にケンカを売るつもりはないんだから。一応、給料をもらってるわけだし。
でも、彼女はとても気まぐれ。僕がなんと言おうと自分本意に、遠慮なく覆い被さってくる。
脳髄に快感が吹き上がり、全身の力が抜けてゆく。
ま、まずいって。君とは一生離れられない。それはわかってる。夜まで待ってくれよ。いつもより早めにベッドにもぐるよ。だから、今はとりあえず、僕のからだを包み込まないでくれ。き、気持ちいいんだけど…あ、ああ…り…理性が遠ざかってゆく…。
脳天に痛みが走った。
先輩が僕を拳骨で殴ったらしかった。
「なにやってんだ、朝礼中だぞ」
怒っている。社長を含め、全員が僕を睨みつけている。
下手をしたらクビかもしれない。
クビになった。
職安に通う日々が続いた。
あれっきり、彼女はベッドに来なくなった。
頼むよ。頼むから機嫌を直して僕の前に現れてくれよ。また僕の全身を快楽で満たしてくれよ。頭ん中が空っぽだ。君に見捨てられたら、もう何にもできない。ぼんやりして何をする気も起こらない。お願いだから戻ってきておくれよ。このままじゃ死んじゃうよ。僕の可愛い小悪魔。可愛い可愛い睡魔ちゃん。
妄言王のアとガキ
末文だけを膨らませて書いた。