見えない探偵
俺の足元に女の屍が転がった。銃弾が胸を抉っている。
湖を臨む町外れの宿屋。両親の唯一の遺産だ。こんな辺鄙な所で一人や二人殺されても目撃者が出るはずもないし、この宿屋は元々今月一杯で閉鎖する予定だから、無人になっても誰も怪しまない。
俺と女の関係を知る奴はいない。女は一人っ子で両親は先に三途の川を渡り、親類とは悉く断交状態。友人付合いも皆無に等しい。それは俺にも当てはまる。つまり女や俺の人間関係から殺人が発覚することはない。死体を隠蔽して俺さえ永遠に口を閉ざせば、何も無かったのと同じになる。
屍をドラム缶に詰め、湖にボートを漕ぎ出して沈めた。
バカな女だ。俺を裏切らず従順に身を捧げ続けていれば死なずに済んだものを。
もう一仕事すれば終わりのはずだった。だが、女のバッグから見過ごせない手紙を見つけてしまった。
御依頼の件、承知しました。今週土曜に宿泊客として伺います。尚、この手紙は一読後、直ちに処分して下さい。 K・K探偵社
どうやら女は探偵を雇っていたらしい。依頼の内容は解らないが、「手紙を処分しろ」とあるのは、同居している俺に何らかの秘密が漏れないようにとの配慮だろう。つまり女が探偵に良からぬ情報を流した可能性があるということだ。例えば、俺に殺されるかもしれない…などと。
手紙が処分されていなかったのは不幸中の幸いだった。屍は静かな眠りを望んでいるのだ。誰にも邪魔はさせない。今週土曜に来る探偵には死んでもらう。
土曜日。宿帳には三人の男の名が記された。当然だが、誰も職業欄に「探偵」とは記帳しない。
独身ですかと世間話のように尋ねる眼鏡の男。
綺麗な湖ですねと秘密の埋葬地を称える小男。
顔色が悪いですよと俺を妙に気遣う長身の男。
皆怪しい。この中から探偵を特定するのは至難の業だ。だが一刻を争う。俺には時間が無い。
湖には新たに一人の探偵が沈んだ。
それから運の悪い二人も。
そして俺はもう一本ドラム缶を用意している。
胸から溢れていた血はとうに涸れた。腐臭すら漂う。女の銃弾が俺の心臓を撃ち抜いたことに、間抜けな死神も漸く気づいたようだ。
あの女、俺が首を絞め返したとき何を思いながら逝ったのか。細首に親指を食い込ませる行為は慈しみだった。凶弾に、俺は愛撫で応えた。
ボートの底に穴を空け、屍と化してゆく我が身をドラム缶に放り込んだ。
棺桶はゆっくりと湖に呑み込まれてゆく。
妄言王のアとガキ
タイトルの魅力だけで書いた。