失踪・失恋・失笑
「あいつが失踪して、もう三年になる」
「ほう。君としてはリンゴだな」
「リンゴ?」
「気(木)になる」
「…まあな」
「猿の小便とも言う」
「猿の小便?」
「気(木)にかかる」
「…まあな。あいつ、小さな頃から悪ガキって言われてな」
「十五で空っぽの漁船とよばれたりしたのか?」
「空っぽの漁船?」
「不良(不漁)」
「…まあ、大人の評判は悪かった。中学のときから飲む、打つ、買うの道楽三昧だったからな。特に、女には手が早かった」
「政治家、警官、教師、死刑執行人など」
「…公務員?」
「惜しい。好色(公職)って言ったんだよ」
「…まあ、そうだな。女を見ればすぐに『愛してる』のセリフを吐いてたしな」
「竜田川の紅葉だな」
「竜田川なんて知らん」
「具体的に知らなくてもいいんだよ。相撲取りだなんて勘違いさえしなきゃ。要するに、歯(葉)が浮く科白ってこと」
「…まあ、キザな奴だな。でもな、遂にあいつを手玉に取る女が現れたんだ。あいつに貢がせるだけ貢がせて、最後にはポイ。おまけに新しい男と雲隠れだ。あいつ、かなり落ち込んでたよ」
「そいつはその女に、肥溜めのど真ん中だったわけか」
「肥溜め?」
「はまってた」
「…まあな」
「新選組局長・近藤勇の最期でもあった」
「オレ、歴史は苦手なんだけど…」
「しょうがないなあ。近藤勇は斬首されたんだよ。つまり首ったけ(首だけ)」
「それはちょっと苦しい…って、そんなことはどうでもいいんだ。話を戻すけど、本当にひどい落ち込みようで、自殺するかもしれんと思ったほどだ」
「係長から課長になったと言いたいわけだな?」
「…お前、人の話、聞いてるか?」
「聞いてるよ。つまり傷心(昇進)ってこと」
「なるほど…って、話を逸らすな! とにかく、あいつの失踪は、そのときの失恋が原因だと思うんだ。もしかしたら、あの女を捜してるのかな。それとも、もう別の女をつくってるかも」
「あるいは、シャープペンをカチカチカチ、かも」
「は?」
「死んでる(芯出る)」
「縁起でもないこと言うな!」
「そんなこと言ったって、今のところはダルマなんだろ?」
「ダルマ?」
「手も足も出ない。つまり、どうすることもできない」
「そりゃそうだけど…お前って薄情だな」
「あ、なんか気まずい雰囲気…? …あのさ、そろそろ『親父の兄貴は冷や酒を飲まない』にする?」
「何だそれ?」
「つまり…そろそろ『お時間(伯父、燗)』にする? ってこと。おあとが…よろしい?」
妄言王のアとガキ
新作落語を書こうと思った。コケてこうなった。
ダジャレを徹底したのは、我ながらアッパレと思った。