筍姫

 
 翁は料理長の位を拝命している。帝が筍を御所望になったので、その日は竹薮に踏み入っていた。
 暫く奥へ進むと奇妙な筍を見つけた。俵ほどの大きさで根を天に向け、先が地に埋まっている。まるで空から降ってきて頭から突き刺さった様子。触れると人肌の温かみがある。不思議に思って皮を剥ぐと、中から静かに眠っている女児が出てきた。頭のおかしい親が筍の皮に包んで捨てたのだろうと判断し、連れて帰ることにした。
 女児は筍姫と名づけた。また、翁は宮仕えをしているだけあって、別宅を設けて姫と乳母と数人の侍女を住まわせるだけの余裕がある。彼がそのようにしたのは、父の心情というより男の欲望に近かった。 
 数年後。娼婦に飽きた翁は、ふと筍姫のことを思い出した。乙女になるにはもう数年かかるとは思ったが、ふらりと宅を訪れてみた。
 翁は別人のような筍姫に驚愕した。
(これがあの女児か。これほどまでの美女になるとは…)
 天女と見まごうばかりの容貌に、翁の目尻が下がる。
(閨に招いてやろう。ウヒヒ)
 そこへ横槍が入った。突然の勅使来訪である。どこで聞きつけたのか、何と帝が筍姫を御所望になったという。あまつさえ、生娘でなかったら承知せぬとまで仰せになる。
(ワシは料理人であって女衒ではない! …だが、勅命を拒否すれば料理長の地位が危うい。渡す前にせめて一度だけでも閨を…いや、迂闊なことは避けよう。姫が背ならば、今の地位は腹だ)
 翁は筍姫に、この世で最も高貴な血統を持つ帝の后になれるのだと説明した。姫は、お断りしますと答える。理由を問えば、興味も時間もありませんと返す。時間が無いとの意味を尋ねれば、今宵月が私を迎えに来ると言う。翁は、白痴美という言葉を思い出した。勅使の手前もある。
(まともな会話は無理だ)
 翁は虚言の罪で筍姫を縛し、赦しは帝の胸で乞えと申し付けると、身柄を勅使に引き渡した。縄目にかかりながらも、姫は静かに言い放った。
「月の法による地球への流罪以外に、私が裁かれる謂れはありません。しかも今宵、刑期を終えるのです。貴方達は月の報復を受けることになるでしょう」

 その夜。満月は一人の女を吸い上げると、太陽に勝る光輝を放った。白々と照らし出された帝都は瞬く間に炎の森と化し、住人は貴賎を問わず多くが焼け死んだ。

 僅かに生き残った末裔たちは、再び狂月に見舞われぬよう、年に一度、満月に団子と薄を捧げて敬意を表すという。
 


妄言王のアとガキ
「地底人or海底人or宇宙人」(紺詠志さんから頂いたお題)から、
「宇宙人」をチョイスして書いた。
原典と違って翁をエロジジイにしてしまったのは、
今から考えると天啓だったのかもしれない

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