森の幼稚園的思想

「森の幼稚園」から学ぶ

幼稚園生活は、大部分の子ども達にとって集団生活の第一歩を歩み始める場。緑豊かなむさしのでの幼稚園生活を前に、そこで子ども達は何を学び、何に重きを置くべきなのか?ひとつ、興味深い話がありますのでご紹介します。

「小学校一年の時点で、やる気、忍耐力、集中力、社交性、協調性、芸術性、体力を評価したところ、いずれも、森で子どもを育てる「森の幼稚園」に通っていた子ども達のほうが、一般の幼稚園を出た子よりすぐれていた。風邪をひいても長引きせず、管理もでき、語句が発達し、友達づくりがうまく、学習面も良好」

 …との報告があります。実際に、森のもたらす大きな要素に着目し、世界各国では自然そのものの森が幼稚園としての生活の場として取り入れられ始めています。

「森はたとえて言うなら、同じ色のブロックが存在しない世界。他の子が見つけた枝の杖が欲しいのだが、同じものはない。だから我慢も必要になる。自分の気持ちに折り合いをつけねばならず、情緒の発達につながる。さらに、使い方が決められた遊具も存在しない。何かに見立てることで創造性も養われる。互いに助け合う中で、差し伸べられた手を、今度は自分が差し伸べる側に自然になれる。」「自然はいいことばかりではない。雨や雪の日もあり、ヘビなどもいて怖い目にもあう。森林や自然には、子ども同士で力を合わせないと立ち向かえない。自分や仲間を守るため、コミュニケーションを自然にとる。言葉の発達が通常の園児より早く、情緒面でも安定した子どもが育まれる。」 …のだそうです。

では「学力」。毎日机に向かい、日々勉強に取り組んできた子どもと学力テストの比較をしたら、どちらが優れているのでしょうか?その時点に限って言えば、ほぼ間違いなく後者であろう事は想像がつきます。現実には社会という大きな舞台に向けて様々な知識が必要な事は避けられない事実。そこで、社会の変化や大人たちの要望が学校に変化をもたらし、子どもや家庭の環境をも変えてきました。ただ、何かが減り、何かが変わり、何かが犠牲になってはいないだろうか?そう感じざるを得ない方も多々いらっしゃると思います。頭が良い子どもと賢い子どもが違うとすれば、それが、前者と後者の違いなのかもしれません。柔軟かつ応用力を備え、そして豊かな情緒面の発達。それは、様々なものへ自分で興味を持って取り組んだり、困難があってもくじけず工夫でき、友達(社会)の中で孤立することのないコミュニケーション力にもつながります。そうした土台があり、さらに様々な知識が積み重ねられていくことが健全な成長過程ではないかと思うのです。


大人にとっては「弊害」。子どもにとっては「要素」

面白いことに、大人の望む環境は、時として子どもの成長の可能性を狭めてしまうケースにつながることもあります。真白であるほど、幼ければ幼いほど限りなくクリエイティブな能力を持ち得ている子ども達は、その能力を発揮していく可能性を秘めています。そこで、準備されればされるほど思想と工夫の枠は閉ざされ、無作為であるほど可能性の枠は広がります。森の幼稚園の存在とは、単に自然に恵まれているということより深く、それは、規格化された教育にはない、子ども達の秘めた能力を伸ばしてくれる要素、森の幼稚園の云う無作為の良さとは、自由であるほど子どもたちの自立心や対応力を伸ばしていくところにあるのだと思います。数ある活動の中にも、そういった自然の中に隠されている素晴らしさに少しでも触れさせたいとの思いで、むさしの幼稚園は開園当初から自然の中で、自然と共に成長できる環境を守ってきました。

まだまだ幼い子ども達ではありますが、誰もが経験を元に乗り越えていく無限の可能性を秘めています。応じてその時々のマイナスな事象に対して断片的に捉えがちなのが大人であり、しかし、子ども達にとっては、それが大切な経験となりうるもの。大人はそこで葛藤を感じてしまうものです。教育は継続が大切。そして、知識と理解と冷静と勇気。子どもたちが将来健全に自ら歩んでいけるよう、園生活を通して、その力を身につけさせてあげたいと思うのです。

幼稚園という場は、毎年沢山の子ども達を迎え、成長の過程を見守り、何千人と送り出し、そして、その後も小学校や地元や社会の輪の中で、その後の子ども達の姿を見ています。だからこそ、将来から遡った上での幼少期に何が大切なのか、そんな沢山のノウハウが蓄積されています。在園期間中は、喜怒哀楽、様々なことがあります。喜びや優しさは、それを糧に、広き大きな心となっていきます。時には物事の壁に当たったりして辛いこともあるでしょう。その様な時、周りの力添えとともに乗り越えていくたびに、子ども達の心に大きな勇気や自信が積み重ねられていきます。子ども達には、たくさんの経験を重ね、たくさんのことを感じてもらいたい。乗り越える機会を大切に育ててほしい。それには、大人たちも時には子ども達の迎える壁や困難を前に手を貸すことを一歩留まらなければならず、自立の力を育ませるための勇気も必要かと思うのです。

ご家族の方も、もちろん我々教職員も、時に迷い、考え込むときもあります。しかしながら、全園児とご家族の皆様、そして、教職員が「子どもの将来のために」というひとつの目標に向かっているものです。互いに協調しながら子ども達を育て続けてあげられる環境が、何より素晴らしい幼稚園環境を生み出すものとだと思います。

そこにある、無作為だからこそ、あらゆる子ども達の能力は引き出され、伸びていく。「森の幼稚園」的発想、とても大きな共感を得るものでもありました。


2008年4月、入園書類の文章より
「森のようちえん全国ネットワーク」ホームページ