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●タイトルの「尾久町(おぐまち=東京府北豊島郡)」は、市町村としては現存しない。「尾久町」が一つの町として存在したのは、大正12年(1923)から昭和7年(1932)までの、わずか9年にすぎないのである。 |
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T.東京郊外の遊興地”尾久町”の発展 尾久町は、明治22年5月1日に上尾久村・下尾久村と船方村の一部が合併してできた尾久村が、大正12年4月1日に町制を敷いて誕生している。もっとも、前述したように当時はまだ荒川区自体が生まれておらず(昭和7年に区創立)、北豊島郡尾久町としてうまれたのである。現在の住居表示で言えば、荒川区東尾久・西尾久及び西日暮里と町屋の各一部にあたる。 対外的に街の印象が薄く、この地域のこれまでの沿革を想像しても、荒川区の大半がそうであったように、明治終わりごろまでは農村地帯、それが旧東京市の膨張により、工業の転入が相次ぎ、とともに人口も拡大していった、と思うのがほとんどであろう。 実際に尾久町もそのような発展を経てきているのだが、一つ荒川区の他地域と異なるのは、尾久町が東京郊外の遊興地として発展し栄えていったことである。その中心となったのは、大正3年に発見された尾久温泉(ラジウム鉱泉)であった。これを核にして料理屋(旅館)・芸妓屋・待合のいわゆる三業が大正〜昭和初期にかけて形成されていった。時を同じくして、王子電気軌道(現・都電荒川線)が開通したことや(大正2年)、乗客獲得の意思をもって提携した「あら川遊園」が開園したことなど(大正11年)、町創立時は、町発展に大変な勢いがあったのである。 尾久町には、数多くの温泉旅館が乱立し、中でも、「寺の湯」として知られた後の「不老閣」(尾久温泉発祥の地・・・現・碩運寺)や広大な日本庭園を有した「小泉園」(現・荒川パレス)は著名であった。「小泉園」にいたっては、尾久町制記念で発行された大正12年の「尾久町地図」にも、はっきりと敷地が描かれているくらいである。 しかし、現在の尾久を見てみると、旧王子電車の都電こそ元気に走っているものの、三業地として栄えた形跡は数少ない。東京の他の三業地がその後、繁華街として発展した例が多い中で寂しい感じがする。今もかろうじて往時の名残として見られるのは、割烹料理屋などの存在である。熊野前〜宮の前〜小台のあたりに旅館・料理屋が点在し、「熱海」「深水」といった料理屋が小台・宮の前電停近くで現在も営業している。※追記:深水は建替えとなった。中でも「熱海」は開業当時は、温泉旅館でもあった。私は、何でこんなところに、このような大きな割烹料理屋があるのか、また何で熱海というのか、常々疑問を感じていたのだが、その背景には尾久温泉街といった歴史があったのである。「熱海」という店名は、有名温泉にちなんでつけたものと思われるが、このような命名として、他にも、有馬温泉、草津温泉というのが尾久町にあった。 また、三業の名残として料理屋や待合の黒塀が町の中ほどに散在している他、古い木造の建物の入口脇を見ると、それがかつて芸妓屋であったことを示すランプシェードが見受けられる(かすかに屋号が読み取れる。)点に、かろうじて往時をしのぶことができる。 【追記】しかし残念ながら、2001.5現在、待合「武蔵野」、料理屋「深水」が取り壊されてしまっている。特に「武蔵野」は、尾久町一の待合ともいわれ、天井画を初めとする装飾品や調度品は、目を見張るものがあっただけに、後世に引き継がれなかったことは、非常に残念である。
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U.温泉の発見 発展の基盤となった温泉(といっても、温かいわけではなく、ラジウム鉱泉である。)は、現在の尾久警察署から都電をはさんだ向い側にある碩運寺(せきうんじ)で発見された。(大正3年) 記録によれば、住職が井戸水の水質がよく、焼酎の製造に適しているだろうと考え、水質調査を衛生試験場に依頼したところ、ラジウムエマナチオンの含有がみとめられたため、一躍、「寺の湯」として名声を博するにいたったのである。そののち、「寺の湯」は「不老閣」としてが独立し、周辺にも同様の施設が次々と作られていった。とともに湯女が必要となったのが発端となり、芸妓屋の発展につながっていったのである。 主な温泉旅館
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V.尾久三業地
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