現場で行う簡便なコンディショニングチェック 小山孟志(東海大学男子バスケットボール部ストレングスコーチ、日立サンロッカーズストレングスコーチ) ●コンディションを客観的に評価  コンディションの好不調というのは選手本人の「今日は調子がいい」「今日は動きが悪い」という感覚によるもの、また見ている側の監督、コーチなどからの評価があると思いますが、いずれにしても主観的な要素が大きいと思います。トレーニングコーチの立場で言えば「この選手は以前よりも体が大きくなっています」と監督、コーチに報告することは出来ますが、「以前とはいつか」「大きくなっているのは筋量なのか、脂肪なのか」ということに関しては具体的な数値を提示することが重要になってきます。数値による客観的な評価は説得力もあり、何より競技力向上に向けたトレーニング目標が立てやすいというメリットがあります。 ●簡単で長く続けられるものを  数値をコンディションに活かすために、どの項目を測定するのか、どういう分析を行えばいいのか、そして何より現場で簡単にできるものがいいと思い、いろんな方のアドバイスを受けながらチェック方法を考えました。簡単なものにしないと継続して測定することがむずかしく、長いスパンで評価することが出来なくなるからです。バスケットボールという競技特性にはジャンプ力が欠かせませんので、普段測定している垂直ジャンプを体格とどうリンクさせるかを考えながら、ひとまず体組成を測定することにしました。関東学生バスケットボール連盟(以下関東学連)でのフィジカルチェックでも体組成を測定しているのですが、これを継続して記録していく何がわかるのか楽しみでもありました。  現在東海大学男子バスケットボール部のレギュラーチームは25名程度ですが、練習前に選手一人一人を同じ測定者が測ります。測定項目は体重、周径囲(胸囲、腹囲、大腿囲、上腕囲)とキャリパーによる皮脂厚測定(上腕、肩甲下部、腹部、胸部、大腿部)です。測定誤差を出来るだけ少なくするために同じ測定者が測定するのですが、周径囲、キャリパーによる皮脂厚測定を含め、時間にしておよそ1分程度なので選手に時間的な負担をかけずに行うことが出来ます。身長は毎回測定するわけではありませんが、計算式で使用するため数値を把握しています。  測定を始めた頃は体脂肪の目安としてインピーダンス法を採用していましたが、誤差が大きいため、他大学でも採用されていたキャリパー測定に切り替えました。キャリパーによる測定も慣れるまではむずかしいのですが、慣れてしまえば時間もかからずより正確な測定数値が期待できます。  このほかに体力指標としての垂直ジャンプをトレーニング時に測定します。トレーニングプログラムに組み込まれているため、選手はトレーニングの一環として行い、その日一番よかった数値を記録します。トレーニング頻度については時期にもよりますが、試合期で週2回、トレーニング期で週3〜4回です。チームではまずトレーニングの時間を優先的に確保し、その後練習日程を決めていくようになっていて、チーム全体でトレーニングの重要性を理解しているという点で非常に恵まれた環境であるといえます。 ●測定に意味を持たせる  測定を行う目的は大きく5つあり、@監督、コーチ、選手と話し合うための元となる資料として、A選手のモチベーションアップ、B継続的な測定による一年間のデータ蓄積、次シーズンへの反省材料として、Cトレーニングの方向性が間違っていないかという指標として、D疲労のチェック、といったことが考えられます。  選手の疲労について監督、コーチと話をするときに、長いスパンでのデータを分析すると「ジャンプ力が落ちている」「体重が落ちている」という数値から「この選手の調子はよくない」ということに気がつくのですが、普段の現場では主観的な評価に偏りがちです。特に選手のプレー中に「調子がいい」「悪い」というのは、外から見ていてわからないことも多く、調子が悪そうだと思っても何が原因なのかはなかなか特定出来ません。それを測定することで裏付けられる数値が出るのであれば、すごく意味のある測定になると思います。  測定を始めた頃は記録を取るたびに垂直ジャンプの数値が上がりました。記録を取るというのが一つのモチベーションアップにもつながっていたのですが、いつかその状況も頭打ちになります。測定に慣れてきて半年も経過するとやはり記録は伸び悩み、落ち込むこともみられるようになりました。こうして慣れによる記録の変動がなくなってきたところで、ここからの数値はジャンプ力の指標として筋力や疲労などによる数値の変化がわかるようになりました。それまではひたすら測定して記録するのみ、すごく地味な作業に「この測定で何がわかるのか」を考え込むこともありました。 ●遠征での教訓を活かす  測定を続けてみてわかったことは、ジャンプ力の反応にタイムラグがあることです。トレーニングと直結している感じではないのですが、疲労しているからすぐに数値が落ちるということでもない。感覚的には2〜3週間程度ずれているように思います。  以前チームでアメリカ遠征に行ったのですが、スケジュールの関係で帰国がリーグ戦直前になってしまいました。戻ってきてすぐにリーグ戦が始まったのですが、試合期に入ってからも選手の疲労感は抜けず、体重を落とす選手も続出し、結局遠征前のパフォーマンスに戻るまでにリーグ戦前半、約1ヶ月を費やすことになってしまいました。結果的にはこのスケジューリングによる遠征は、パフォーマンスの面からみるとマイナスだったかもしれませんが、ではこのスケジュールをどのくらい前倒しすれば一番いい状態でリーグ戦に入れるのかということを検討しました。垂直ジャンプや体重の数値は約1ヶ月後に戻ってきたことを考慮し、フィジカル面のピークにあうように逆算して次の年の遠征日程を組みなおし、今回の教訓を活かすようにしました。  リーグ戦の初戦にピークを持っていくことは、比較的わかりやすいのですが、結局3ヶ月弱あるシーズンの中でピークを保ち続けるというのはむずかしいと感じています。また選手一人一人のピークも一致しないのですが、選手個人の中でいい状態、いいコンディションを保つための指標としては有効だと思います。 ●誤差をなくす努力  測定者を一人にすることはもちろんですが、測定方法も工夫しています。キャリパーは何度かつまんでみて多少誤差があるようなら平均をとる、周径囲なども一度測定して、ゆるめて、またもう一度測定するといったことをします。測定ミスはある、という前提で出来るだけそのミスを少なくするよう心がけています。また除脂肪体重(LBM)を出す計算式などもいろんな方法があるので、皮脂厚などは測定できる点はすべて取り、その中で2点法(肩甲下部、胸)、3点法(肩甲下部、胸、腹)での計算を試し、影響している部位がどれかを模索しています。腹部の皮脂厚は測定値にかなり影響していると考えられるので、選手には腹部を含めた3点法の結果を提示しています。測定には誤差というマイナス要因がつきものですが、いかに少なくするか、そしてよりよい測定法、測定項目を試していけたらと思います。 ●目指す目標がイメージできる  体格の指標として体脂肪率、LBMを身長で割った数値を提示します。LBMを身長で割った数値は関東学連のトレーナー部会などで採用しているものですが、簡単に体格を数値化することが可能です。たとえばトップレベルの選手と比較したい場合、大会の開催パンフレットや雑誌などには選手の身長、体重、ポジションなどが載っているので、これを参考に計算します。体脂肪だけはさすがに載っていませんので、見た感じのパーセントをおよそで考えます。毎回測定を行っていると「この選手の体脂肪率は12%くらいかな?」という感覚がわかるようになります。これをもとに個人の数値、ナショナルチームであれば国別の平均値、ポジション別の平均値などが計算でき、目指す体格が数値として見えるようになります。高校生であれば大学生の平均値を調べてみるといいし、大学生はJBLを参考にすると面白い。トップレベルだと、今世界で最も強いチームの一つであるスペインやドイツの選手平均値と比べてどうか、といったことが調べられます。  大学バスケットボール選手の例でいえば、体脂肪率を10〜12%程度に、またポジション別LBM/身長値はガードで40、フォワードで42〜43、センターで45です。身長が2mくらいあるセンタープレーヤーには、逆算していくと体重100キロ(体脂肪率10%)が理想的な数値になります。こういった計算式は逆に「あとどれだけ体重増やせばいいですか?」という選手の質問に対しても理想数値を入力することで簡単に答えられます。  まだまだ試行錯誤の段階ですが、測定を継続して行うことで近未来的な目標と、競技トップレベルの最終目標が明確になり、「こうなりたい」というイメージが実感としてわいてきます。バスケットボールに限らず、他の競技においてもトップレベルの選手の体組成項目などは比較的入手しやすい数値ですので、目標とする選手の数値を比較してみることも可能です。また器具が十分にそろわない現場では、垂直ジャンプなどの爆発的なパワーの指標として、立ち幅跳びやメディシンボールスローの測定なども取り入れると面白いと思います。