極限概念とε-δ論法について

「数学の中の無限」への扉へもどる

極限概念にε-δ論法を導入する意義は何でしょうか。
■はじめに
大学1年の数学の授業で、初めて極限概念がε-δ論法で説明されたとき、
何でこんなややこしいことをやる必要があるのだろうと思いました。「無限」の恐ろしさを知らなかったんですね。
極限概念にε-δ論法を導入する意義を知っておくことはとても重要なことだと思いますので、
以下にこれを簡単にまとめてみました。
ε-δ論法の意義
(1)「xが一定値aに限りなく近づくとき、yは一定値bに限りなく近づく。」
  高校数学の教科書などにこのような記述があり、一見よくわかった気がします。
(2)しかし、これを突き詰めて考えると次のような問題点にぶつかります。
  すなわち、「限りなく」というのは終着点のないことを意味しますから、
  「限りなく…である。」という命題の真偽を保証することなど
  有限の存在である人間には根本的に不可能ではないか、という点です。
  また、「近づく」という表現にも曖昧さがあります。
(3)日常的表現や論理で数学を記述することを無制限に許容すれば
  厳密な思考が損われる危険性が予測されます。
  特に無限に関する問題に対して不用意に立ち入れば、
  ゼノンの"アキレスと亀"や"飛ぶ矢は静止している"のようなパラドックスにたちまち巻き込まれてしまいます。
(4)よって、厳密な数学的議論は
  『第一階述語論理』(∀,∃を含む論理)という数学の論理に基づいて行わなければなりません。
  これによれば、無限に関する議論をも「有限の立場」で行うことができるので
  上記問題点を解消することができます。
  註)∀:「任意の〜に対して」という意味の記号(全称記号),
    ∃:「ある〜が存在する」という意味の記号(特称記号・存在記号)
(5)例えば、(1)に示した記述はこうなります。
  すなわち、「任意の有限値ε>0に対して、
  xが|x−a|<δならば、|y−b|<εとなるようなある有限値δ>0が必ず存在する。」
  もう少し噛み砕いた言い方をすれば、
  「yはb±ε(ε>0)の範囲内でなければならないとし、このεをどんなに小さい数に設定されようとも、
  この要求に対して、xがa±δ(δ>0)の範囲内ならばOKだよ、と言えるあるδを必ず提示することができる。」
  ということになります。
  このような極限概念に基づいて理論展開していく方法をε-δ論法といいます。
■例題
y=exp(-1/x2)においてx→0のときy→0をε-δ論法により証明せよ。
任意のε(0<ε<1)に対して、δ=(−1/logeε)1/2が存在し、
|x|<δならば、x2<δ2,1/x2>1/δ2,−1/x2<−1/δ2
よってexp(−1/x2)<exp(−1/δ2)=ε
∴y=exp(-1/x2)においてx→0のときy→0 (証明終)