“目から鱗”の「ニュートン力学」
T ニュートンの運動法則
ニュートンの運動法則は、
@第一法則(慣性の法則)
A第二法則(物体に働く力と加速度との関係)
B第三法則(作用・反作用の法則)
の3つから構成されますが、
@はAの特別な場合、
すなわち、Aにおいて物体(ここでは質点と見なせるものを考えます。)に働く力の合力が0の場合と
捉えることもできます。
従って、物体の運動は上記A,Bの2つの法則に支配されると考えることができます。
ところで、
Aは力をF,物体の速さ(力方向成分)をv,時間をtとすると、
F=mdv/dt …(1)
という微分形をしています。
これはまた、
Fdt=d(mv) …(2)
と表すこともできます。
左辺を力積、右辺のmvを運動量といいます。
U 不変量の創出
運動方程式が微分形のままでは扱いにくいので、積分して使いやすい形にすることを考えます。
1. 力学的エネルギー保存の法則
1-1 式の導出
1)力Fを受ける物体が時間dtの間に、力方向にdxだけ移動するとき、
(1)式より、
Fdx=m(dx/dt)dv
∴Fdx=mvdv …(イ)
今、Fを保存力(任意の2点間になす仕事が途中の経路によらないような力)とすれば、
ポテンシャルU(x)=−∫Fdx …(ロ) が存在します。
xがx1→x2に変化するときにvがv1→v2に変化するならば、
(イ)式を積分して
−U(x2)+U(x1)=(1/2)mv22−(1/2)mv12
∴U(x1)+(1/2)mv12=U(x2)+(1/2)mv22 …(3)
ここで、
U:ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)
K=(1/2)mv2:運動エネルギー
E=U+K:力学的エネルギー
といい、
(3)式を力学的エネルギー保存の法則といいます。
この法則はニュートンの運動第二法則と対応していることがわかります。
2)一般に(ロ)式のF,dxはベクトル量であり、Fdxはこの2つのベクトル量の内積をとります。
従って、
一般に(1),(2)式はベクトル量に関する方程式であるのに対して、(3)式はスカラー量に関する方程式です。
だから、(3)式は(1),(2)式より情報量に関しては減少することになりますが、
その反面、運動の把握をより容易にするのに有効な情報を提供します。
1-2 「エネルギー」という概念
「エネルギー」という概念がこのような導出過程を介して提示されると、
何か思考の便宜上作り上げられたに過ぎないもののように感じてしまうのですが、
取り扱いによってたちまち散逸してしまう存在であり、
これによって見事に実際の様々な現象が明確に説明できることから、
やはり単に観念的に作り出されたものではないと言えるでしょう。
そして何と言っても、
アインシュタインの有名な関係式:E=mc2は「質量はエネルギーの一態であること」を示しており、
エネルギーの実在性を裏付けるものとなっています。
2. 運動量保存の法則
2-1 式の導出
1) 運動量保存の法則とは、
簡単に言えば「外力を受けない以上、運動量は変わらない。」というものですから、
1物体(1質点)ならば「慣性の法則」そのもので、別に法則として設ける意味はないのであって、
この法則が意味を持つのは2物体またはそれ以上(質点系)の場合です。
2) いま、同一直線上を運動する質量m,m'の2物体(2質点)が衝突し、
それぞれ速さがv1→v2,v'1→v'2 に変化したとします。
2物体がそれぞれ受ける力は作用・反作用の法則により大きさが等しく、方向が反対です。
従って、その力の大きさをFとすると、
(2)式より、
∫Fdt=m(v2−v1)
−∫Fdt=m'(v'2−v'1)
これより、m(v2−v1)+m'(v'2−v'1)=0
∴mv1+m'v'1=mv2+m'v'2 …(4)
(4)式の各項を運動量といい、(4)式を運動量保存の法則といいます。
この法則はニュートンの運動第二及び第三法則に対応しているのがわかります。
2-2 運動量保存の法則と力学的エネルギー保存の法則の比較(2物体問題)
では2物体が衝突する場合、エネルギーに関してはいかなる関係が成り立つでしょうか。
2-1で運動量保存の法則を導出したときと同様、
2物体がそれぞれ受ける力は作用・反作用の法則により大きさが等しく、方向が反対ですから、
その力の大きさをFとするとき、
(1)式→(イ)式より、
∫Fdx=(1/2)mv22−(1/2)mv12
−∫Fdx=(1/2)m'v'22−(1/2)m'v'12
が成り立ち、
これより、(1/2)mv12+(1/2)m'v'12=(1/2)mv22+(1/2)m'v'22 …(ハ)
が導出されます。
ところが、この(ハ)式はよく見ると、
「衝突前後で運動エネルギーの総和は変化しない。」という物理的内容を示すものであり、
これが成り立つのはエネルギー散逸の起こらない理想的な衝突(弾性衝突)の場合だけです。
これに対して運動量保存の法則(4)式はそういう制約がなく、如何なる衝突であっても成り立ちます。
(ハ)式も(4)式も
ニュートンの運動第二及び第三法則を基にして
全く同様の数学的手順によって導出されたにも拘わらず、同値関係にないのは、
何か不思議な気がしますが、
その根本的原因は∫Fdtと∫Fdxとの性質の相異にあると考えられます。
∫Fdxは力Fが動くことによって外部になす仕事ですが、
それが再利用可能な力学的エネルギーの形でそっくり保存される場合(可逆的)もあれば、
エネルギー散逸が起こる場合(非可逆的)もあるのです。
エネルギー散逸がどの程度の割合で起こるかは
ニュートンの運動法則の問題ではなくて、熱力学第二法則との関係を有し、
ここに運動量保存の法則と同値関係にならない理由があるようです。
これに対して∫Fdtは力積、すなわち力×保持時間ですから散逸というような問題はなく、
2物体間で力積→運動量変化の受け渡しが寸分の損失もなく行われます。
言い替えれば、力(F)は時間(dt)との関係では新たに実体的なものを生み出すことはないけれども、
動き(dx)との関係においては別の実体的なものを生み出すということでしょうか。
それにしても、
エネルギーというのは壁の落書きが生命を得て飛び出してきたような存在に思えてやっぱり不思議です。
2-3 2物体衝突後の速さの算出
(4)式において、m,m',v1,v'1を既知数、v2,v'2 を未知数とすると、
v2,v'2 を求めるためには、もうひとつ方程式が必要です。
(4)式はニュートンの運動第二及び第三法則より導出したにもかかわらず、
なぜこれだけでは解けないのかといいますと、∫Fdtを消してしまったからです。
∫Fdtは感覚的に言えば、
2物体の衝突が"コツン"か"べチャ"かで変わってくるような値だと思うのですが、
実際問題として∫Fdtを直接知るのは難しいので、
その情報と同等な内容のv2,v'2に関する方程式を別に用意することを考えます。
ひとつは、衝突前の運動エネルギーが衝突後にどれくらい保存されるかがわかれば、
その関係式を第二の方程式にすることができます。
もうひとつは、運動エネルギーの保存度とは必ずしも一致しませんが、
2物体についての「反撥係数」がわかれば、それについての関係式を第二の方程式にすることもできます。
「反撥係数」は2物体の衝突前の相対速度に対する、衝突後の相対速度の割合で定義されるものであり、
2物体の材質で決まります。