<ロイ・マスタング大佐>
右肩が熱い。
左手も、右手の指先も、左腹部も左腿も、右足首も。
ちりちりとした痛みを感じながら、エンヴィーはレンガの壁に寄りかかった。
息が切れる。
そして空を見上げた。
「こんなはずじゃなかったんだけどな」
興味のなにもかもを持っていかれたのは金の髪、金の瞳を持つ少年。
実力に合わない負けん気で、初対面から食って掛かってきた最年少国家錬金術師というやつだった。
何度か遭遇して。
好奇心と嫌がらせでその体を抱いて。
いつの間にか虜になっていったのは自分の方で。
――可愛いよね、おチビさん。
――うるせぇ……っ。
甘い雰囲気に酔ったりもした。
だけど、やはり自分は父親のために存在する者だから。
指令が下れば、昨日は甘く抱いた体を、いくらでも攻撃した。
ギリギリの関係が好きだった。
だから。
「最後のやり合いはおチビさんだと、バクゼンと思ってたんだけどな」
呟いた台詞に言葉が返ってきた。頭上から。
「それは申し訳ないことだな」
「……くっ」
間一髪のところで飛んできた焔を避ける。
「ほう。その体で今のを交わすか」
「みすみす、やられるわけにもいかないんでね」
「いい度胸だ」
褒めてやろう、と言いながら、相手は右手で火花を作り出し、空気中の酸素等と練成させた大きな火の玉をエンヴィー目掛けて飛ばした。
「うあ……っ」
直径三メートルはあろう玉を避けきることができず、エンヴィーの負傷していた左半身が焼かれる。
再生能力でさえ、追いつかない。
「くそ……」
相手だって無傷ではない。前半に散々痛めつけたはずなのに。
その時、左足首に違和感を感じた。
――しまった。
右に続いて痛めたらしい。これでは次の攻撃をかわすことができない。
エンヴィーが歯軋りをした瞬間、煙幕が晴れた。晴れた箇所からゆっくりとこちらに向かう人の姿が見える。
エンヴィーは肩の力を抜いた。大きく息を吐いて、両手を上げる。
「さすが焔の大佐。強いね」
「君にだけは負けるわけにはいかないからな」
「ひとつ聞いていいかな」
「なんだ」
「オレ、あんたにそんなに憎まれるようなことやった?」
ロイ・マスタングが右手を構えた。多分、最後の攻撃。
息を詰めたロイが静かに言った。
「……ヒューズの仇だ」
「……ああ。ヒューズ中佐か」
それなら文句も言えないかな。
身に覚えのある理由に、エンヴィーは笑った。
目を閉じて心臓を指差す。
「しっかり狙ってよ、大佐。じゃないと生き残っちゃうからさ、オレ」
いい度胸だ、と再度呟いた相手の声が聞こえた。ボン、という音と同時に大きな焔が見えた。自分を包み込む。
髪が焼けた。服が焼けた。
そうして肌がじりじりと焼かれる。
業火の炎はエンヴィーを取り込み、取り込まれながら、この中で灰になれるのならそんなに気分も悪くはないと、エンヴィーは思う。
ただ。
「やっぱり最後はおチビさんに会いたかったかもね」
死や無なんて怖くはないけれど。
たったひとつの願いさえ叶わないほどに、自分たちは運も相性もなかったのだと知ってしまうことが、
こんなに辛いだなんて知らなかった。
せめて。
記憶の片隅にでも残ればいいのに。
それだけは願ってもいいかな、お父様。
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あまりに痛々しいので自分で突っ込まずにはいられません。
『ねえねえ、倉橋さん。これポエム?』
……撃沈。
もっと格好良く書きたかったんだけどな…(涙)。
エンヴィーの最後の相手は大佐であろうところが、エンエド最大の
辛くて切ないとこだよね!ってことを主張したいがためのポエム(…)でした。
精進します……っ。