【ゲームセンター=プリクラ?】…2005.6.9



 話が盛り上がる時はその前後の流れなど思い出せないものだ。
 最初はマクドナルドだったはずだ。誰かの腹減った、という言葉にいつものようにオレもオレもとなり、じゃあ行くかという話になったところまでは覚えている。が、気がついたら、シューティングゲームが得意とか、体力系が好きだなァとか、メダルゲームが好きとかそんな話になっていて、今現在、その話題のゲームセンター内ではしゃぎ回っている。
 さっきまで巣山のゾンビの撃ち方にスゲースゲーを連発していた田島は、今や犬の散歩に挑戦していて、柴犬を相手にかなりの体力を消耗した水谷を尻目にラブラドール・レトリバーにきっちりついて走り、側で見ている三橋の目をキラキラとしたものにさせていた。
「だいじょぶ、水谷?」
 栄口は自分が持っていたポカリスエットのペットボトルを、息切れした水谷に渡してやる。
「ありがとー」
 水谷は目の前に現れた水分に飛びつきながら「こんなの犬の散歩じゃない」と喚いた。
 目の前ではベルトに乗った田島がもの凄い勢いで走っていて、栄口も苦笑する。
「これじゃ人間の散歩だよね」
「つーかマラソン! なのにさ『楽しいワン』だの『嬉しいワン』だの言うから、つい可愛くて喜ばせたくなっちゃうんだよ〜」
 栄口もやったら、と薦められてやんわり辞退する。
「オレ、アイちゃんの散歩でいい」
 確かに、なんて笑って、水谷はペットボトルを栄口に返した。
「生き返った、サンキューな!」
「大げさだなァ」
「いやいや、マジで、って、げ。田島、まだやんの!?」
「だってオモロかった。上級コースやる!」
「元気ー」
「ジジくせーな、水谷!」
「もっかいやるくらいならジジーでいい」
 そんなことを言いながら水谷が栄口の腕を取った。あっち行こ。
 水谷の視線を辿るとベンチがあって、思わず肩を揺らす。
「そんなに疲れたんだ?」
「練習よりキツイかも。一瞬ですんげー力、使うんだもん」
「けど好きなんだろ、あーゆーの」
 真っ先に走ってたもんな、と言われて水谷はへらりと笑う。
「頭使わなくていいし、疲れた分、充実感があるからケッコウ好きなんだよね」
「わかるよ。オレもボートのヤツとか好きだったな」
「やったやった。自転車とかトロッコとか」
「大人数だと競馬もやれんだよね」
「そうそう、ふたりくらいじゃ恥ずかしくてさー」
 話を弾ませながらベンチの前に着いた時、水谷の足が止まった。
 顔を覗くと何かを見ていて、その先を追いかけるとプリクラコーナーがある。いくつかある機械の中からは六本の足が見えた。
「……水谷のスケベ」
「へ。なんで!?」
「可愛い子でもいたんだろ、あの中に」
「う……え、っ、と」
「詰まんなくてもいいじゃん、今更。な、どーゆー子だった?」
 楽しそうに興味深そうに聞いてくる栄口に、水谷は困ったなと思う。うん、困った。
 とりあえず、髪が背中くらいまであって、色白で、とか適当なことを言いながら誤魔化す。だって別に、中に入った女子高生だか中学生だかを見ていたわけではない。
 中学時代はゲームセンターと言えばプリクラで、男子も女子も交ざってみんなで騒ぎながら写真ばかり撮っていた。それを思い出したら、栄口とふたりであれをやりたいなという考えが浮かんで、動作を止めてしまっただけなのだ。
 ――でもアヤシイかな。
 野郎二人でプリクラって撮るものなのか?
 思い起こしても、三人以上だったり女子が居たりで、男とふたりだけで撮った覚えはない。ぐるぐるしていると栄口がのんびりと言った。
「オレ、プリクラって撮ったことないんだよね」
「ええ!?」
 勢いをつけて、ついでに大声までつけて振り返った水谷に、栄口は「そんなオオゴエ出すほどのこと?」と少し赤くなる。
 栄口の赤さを見て、水谷の手が勝手に動いた。
「水谷?」
 手首を取る。
 握って、歩く。
「水谷ってば」
 華やかなシートに飾られた機械の前まで。
「オレはいいよ」
「何事も経験、経験」
「いいって。どんな顔すればいーのかわかんないし」
「フツウのカオでいーんだって。モノは試し。やってみよ?」
 な、と念を押して、少しだけ強引に栄口の手を引いた。
 水谷の少しの強引に比例する程度に少しだけ抵抗した栄口は、すぐに観念して、水谷が先に入った小さな空間の中に足を踏み入れる。
「こうなってんだ……」
 周り中が白くて、カメラが睨んでて、後ろには段なんかがあって。
「ちょっとしたスタジオみたい」
 なにやらえらく感動している様子の栄口がすごく可愛い。水谷はくすくす笑って機械の前に呼んだ。
「どんなのがいい?」
 水谷がボタンを押すたび、どこかマヌケなボタンの音が流れる。
「いっぱいあるんだね」
 じっと覗き込んで一通り見てから、3ページ前にあったヤツがいいと水谷に告げる。
「りょうかーい」
 セットして後ろに下がる。段の上に並んで座ると、水谷が「いくよー」とそこにあったボタンに手を掛ける。
「え、ほんとにどんなカオしていいかわかんないんだけど」
「なんでもいいけど、じゃあ、笑お! ニィって。見て見て栄口。阿部スマイル」
「ぶっ」
 栄口の同中出身の捕手がよからぬことを考えているような時――実際に何を考えているのかはわからない――によく浮かべる表情をしてやると、栄口が噴き出す。
 そのままそのままと、水谷も笑ったままで撮影ボタンを押した。
 一瞬、眩しい光が放たれ、カメラには楽しそうな自分たちが収められる。
 本物の威力には敵わないながらも、水谷が弱い、栄口の笑顔だった。
「これでいい? あと2枚撮れるし」
「もうなんでもいいよ」
「うわ、投げやり!」
「なにがいーんだかわかんないんだって。水谷が好きなようにやってよ」
 好きなように、と言われて、トクリと心臓が跳ねた。
 好きなようにって好きなようにって好きなようにって。
 いや、別に、なにも、特別やりたいことなんて浮かびはしないけれども、なんだかドキドキする。心臓が速くなる。なんなんだろう、この感覚。
「あの、さ、さかえ、」
ぐち、と呼ぶはずだった声は田島の声に掻き消された。
「みっけ!」
「え?」



「こっちいたぞー!」
 覗いてきたのは田島と泉で、田島はニッカリ笑ったあと、後ろに向かって大きな声で叫び、どうやら散った仲間たちを呼び集めているらしい。
 何が起きているのかわからず硬直している二人に、泉が「あ」と言った。
「撮影、始まるぞ」
 機械はポーズを決めてくれない被写体を待ちきれず、オート作業を始めている。画面では数字でカウントダウンが示されていく。
 泉が田島の袖をひっぱり、中に乱入する。水谷と栄口を両脇から挟んで笑顔を作ったので、つい、つられて笑った。途端、フラッシュが光る。そして泉が確定ボタンを押すと、外に集まってきているナインたちも引き込んだ。全員、入っちゃえ。
 無理矢理10人で収まり――数人、微妙に頭や顎が切れたが――期せず、集合写真の出来上がりとなる。
 姿の見えなくなったふたりを見つけたことに満足したのか、それとも写ったことに満足したのか、入ってきた時と同じく、どやどやと引き上げていったチームメイトたちに水谷が呟く。
「なんなんだよー」
「びっくりしたよね」
 栄口も肩を竦める。
 はあ、とため息を吐きながら、水谷は最初と同じように画面に近寄った。なにやらまだ作業を続けている。
「まだなにかあんの?」
「ちょっとだけ細工」
「ふーん」
「よし。あとは待つだけ」
「ふーん」
 チカチカしそうな白の空間から出て、機械の横に回り、プリントされるのを並んで待つ。結構時間かかるんだね、なんていう栄口に、この待ち時間が退屈でさぁと笑いながら水谷は垂れ下がっている糸で縛られたはさみを右手に取った。しゃきしゃきと刃を鳴らす。
 やがて出てきたものを手にしてふたつに切り分けると、片方を栄口に渡した。
「はい」
「サンキュ。あ、オレ、お金」
「いい。いらない」
「え、なんで」
「プリクラ見て!」
「え」
 それだけ言って、水谷は今度はUFOキャッチャーをしている阿部に駆け寄っていく。その後姿を見てから、栄口は手の中の写真に目を落とす。
「……」
 瞬間、栄口は声が出せなかった。
 ただ、じっと見る。
 全員で写った写真。田島と泉と水谷と自分が写った写真。そして、水谷と撮った、いちばんさいしょの写真と、そこに書き込まれた文字。
 水谷らしい字での『0608 HAPPY BIRTHDAY!』
「照れ屋だなァ」
 三橋の誕生日の時に流れでふと喋った言葉を、覚えていてくれたことが嬉しかった。
 初めてのプリクラ。
 初めて迎える、高校での誕生日。
 初めて祝ってくれた新しい友人。
 ひどくくすぐったい贈り物。
「オレもサプライズしなくちゃ」
 約半年後の相手の誕生日に。
 そう考えながら、もう一度プリクラを眺めてからカバンを開ける。入っていた教科書の間に、その嬉しいものを丁寧に挟んで入れた。
 ――ありがとうって言ったら水谷は、きっとなんでもない振りをして、だけど耳まで真っ赤にさせて、特有のふにゃりとした顔になるんだろうな。
 その顔を想像して笑った。
 実行して、その通りになった水谷に、また笑った。
 その時、自分の心臓がいつもより軽快になっていたことに、栄口はまだ気がつかなかった。





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お誕生日から2時間以上も遅刻…。うう。ごめんよう、栄口くん。
愛はあるの。いっぱいあるの。ないのは予定通りに書きあげる力…ぐす。
それは置いておき、やっぱりHがないとカップリングが微妙です。
男の子だもんね、そんなもんよね、は魔法の呪文。

ところでプリクラなんてものはここ2〜3年撮った覚えがありません。
前に撮ったときも「うっわ、進化した!」と思ったんですけど、
また更に進化してるんでしょうね。どんなものなんだかわからないよ!
……「こんなん違うよ!」と思われても上記の理由で「知らないのね」と
哀れんだ目でスルーしてやってください。
だって写真撮ると魂も取られちゃうんだよ!←写真嫌いが使う言い訳。



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