【「なんか夫婦みたいだね〜」】※泉視点。…2005.4.4




 好きなヤツができたんだと言われたのは練習でヘトヘトになった後のグランド整備の時。
 水谷の性格からしてそんな子ができたあかつきには、嬉しそうに言うかと思っていた泉は、嬉しさよりも切なさと複雑さの方が多そうなその報告に真面目に目を向ける。
「喜ばしいコトじゃん。なんでンなに嬉しくなさそーなの」
 恋をしたらこの世の春だよ、なんてふざけながらも本心から言っていたのは、つい1ヶ月前のことではないか。
「そーなんだけどさぁ」
 はあああ、と大きなため息をつくばかりの水谷に、なにやら本当に複雑そうだと思った。とりあえず肩を叩いてやる。
「ま、なんかあったらいつでも相談しろよ。解決してやるとは言わねェけど、聞くだけなら聞いてやる」
「ありがと、泉〜」
 その言葉だけで充分だと笑った水谷は、帰り道のコンビニでカレーまんを奢ってくれた。
 悩む恋愛ってなんだろう。
 泉はカレーまんにかぶりつきながら考える。
 年上。いや、それほど障害ではないだろう。
 彼氏がいる。ありがちだけど可能性はなくないかな。
 それのちょっと上級編で、不倫、とか。まさか水谷が。



 わからなかったその答えは、3日もすればわかってしまった。
 ていうか。
 ――ずっと視線が追いかけてるんだっていう自覚はねーのかな、コイツには。
 水谷の目は、気が付けばただひとりだけを追いかけていて、更にその人物と話している時は、もともと固くない水谷の顔と態度が5割増でとろけている気がする。
 泉は恋のお相手がわかった途端に、水谷の複雑な心境も察した。
 ――男、かァ……。
 それは確かに春が来たと手放しで踊るわけにはいかない。
 そしてつい今も栄口と話をしてきて上機嫌の水谷は、無駄なほど元気にボールをガッシガッシと磨いていて。
「水谷」
「ん?」
「口」
「は?」
「締まりねェよ。閉めとけ」
「え」
「楽しかったのはわかっけど」
「えええええ!?」
 暗に秘めている泉の言葉を理解したらしい水谷が一気に赤面する。
 そして、視線をあちこちに彷徨わせたあと、「わか、っちゃった……?」なんて聞いてくるので、泉は正直に首を縦に振った。
「つうかモロばれ」
「そ、そう?」
「あ、でも、知ってればって話な。普通にしてたらわかんないレベルだと思う」
「そ、そっか」
「ん」
「――ごめんな」
「あ?」
 突然の謝罪にわけがわからなくて動きを止めた泉に、水谷は照れくさそうに、だけど多分、自分が結構追い込まれ、考えていたのだろうことを小さな声で告げた。
「気持ち悪いっしょ。トモダチがいきなりこんなん言ってさ」
「……」
 顔を伏せ、視線を落とす水谷の表情は、睫が目に掛かっていることもあってよく見えない。見えないけど、ああこの野郎と思って少しムカついた。
 泉は正面に座る水谷の脛を軽く蹴って、白い練習着に茶色の靴跡をつけてやる。
「うわ、ひっで!」
「ひっでくねェよ! 水谷こそひでェっつうの! ――そんなことで気持ち悪ィなんて思うわけねーだろが、バカ」
 くっきりとつけられた足型に涙目になりそうだった水谷は泉の言葉に顔を上げると、ふにゃりと嬉しそうに笑った。
「泉、いいひとー」
「最初っからです」
「うん。だよねぇ」
 へへへと笑い続ける水谷に「早く磨いて練習しよーぜ」と言って、作業を急がせる。



 そんなことがあって以来、水谷は2人の時にはぽつぽつとノロケやら愚痴やらを零すようになった。
 そして頻繁に出てくるのは「同中って強いよな」ってことだ。
「さっきも阿部が『あれさ』って言った途端『ハイ、これだろ』って出すんだもん。『オイお前』『はいよあんた』の世界じゃん。敵わないよな、時間って」
「別にそうとも限んねェじゃん。だって栄口は三橋の言葉だってわかるんだぜ? 阿部のことなんかわかるって、普通に」
「そーなんだろーけどさ、それだけじゃないっていうか」
 とどのつまりはヤキモチというヤツだ。
「水谷」
「ぅあいっ!」
 突然、後ろから声が掛かって水谷が飛び上がる。
「び、びっくりした。なんでそんなに驚くの」
「い、いや、なんとなくっ。えっと、なに、栄口」
「たいしたことじゃないんだけど」
 そう言ってなにやら相談し始めた水谷は面白いほどに破顔していて。
 ――おもしれェなァ。こんなんでわかられねーのかな、栄口に。
 トンボを支えに2人を見ていた泉は、もうひとつのことに気がついた。
 栄口が水谷を見る視線も、いつもよりずっと穏やかで、それでいて熱があること。
 ――あれ? もしかして、栄口……も?
 そして、こういうことは多分当人たちよりも、事情を知っている上で周りで冷静に見ている自分のような立場の人間の方がわかってしまうものなのだ。泉は、へーえ、と思いながらも眺めつづけ、そして話が終わった後の会話に、ため息を吐く。
「栄口、あれ」
「あ、バレた? 目立たないと思ったんだけど」
「オレ、そーゆーの超上手いよ」
「ほんと? お願いしちゃおうかな」
「うん。してして!」
 主語が不在の話は、泉にはまったくわからない。

 ――お前たちも、よっぽど夫婦みたいだぜ?
 




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 基本的にひとつの世界にホモはひとつで、周りにわかられないことを支持する派ですが
 (例えばサカミズが出来ていたら浜ちゃんと泉は友情。もしくはそっちもカップルだけど
 サカミズもハマイズもお互いがホモカプだとは気づいていない世界が理想です)
 なんとなく泉くんになら打ち明けてもいいかなと。そしてハマちゃんとの恋に悩んだ時、
 泉くんも水谷くんに愚痴って受同士で発散すればいいよ、とか考え始めてしまいました。が。
 これだとなんとなく泉→水谷みたいです(…)。しかもミズサカっぽくも…? あれ?
 サカミズです。ですったらです。無理矢理主張。



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