【忘れ物】※去年のたんじょーび話「メール交換」から1年後の話です。…2006.1.5




 帰宅し、背負っていたリュックを床に置いた時、リュックの底から聞きなれない音が聞こえた。
「……ガサ……?」
 栄口は瞬間リュックをみつめ、それから手を額に当てる。
「忘れてたァ……」
 音の主は、持ち帰るはずじゃなかった水谷宛のプレゼント。



 さっきから何度デパートの上階から下階を往復したのかわからない。
 まずはスポーツ用品店。それから紳士服売り場。文房具に玩具にCD、勢いあまってキッチン用品や食料品まで見てしまい「いや、水谷は使わないだろ」とか「消えてなくなるモノってのもなぁ」と踏み止まる。
「なにがいいんだろ」
 栄口は困りに困って、思わず呟く。
 なにかCDをと思ったが、水谷の音楽の趣味は自分より幅広く、しかも速い。早々にダビングを済ましてしまうので、日頃から自分の方がお世話になっているくらいだ。以前「いいよなー」と言っていたものでも、とっくの昔に購入済み、もしくはレンタルにて拝聴済みかもしれない。
 文具と言っても普段使いそうなノートやシャーペンではなんだか地区対抗運動会の景品のようだし、いくら使うからといっても野球用のストッキングやシャツでは、かなり色気がない。
「って、別に、イロケはいらねーんだけど!」
 ぶんぶんと頭を振ることで、そんな考えを振り払う。
 だって内緒のことだから。
 自分が、水谷文貴を『そういう対象』として好きなことは。
「なにがいーのかな」
 バス用品売り場の前でカラフルな入浴剤を手に取りながら、栄口はもう一度、悩みを口にした。
「なに貰っても喜んでくれそーだけど」
 渡す時のことを考えると顔が綻ぶ。
 ――え。……ええっ? オレに? マジで? つか、覚えててくれたんだ、ありがと、栄口ー!
 きっとこんな感じに飛びついてくる勢いだろう。
 かわいいよなァ。
 素でニマニマしてしまい、栄口はハッと辺りを見回した。 
 大丈夫。誰もいない。誰にも見られていない。
 いけない。早く決めてしまわないと不審人物以外の何者でもなくなってしまいそうだ。
 栄口は気も口も引き締めると、隣のタオルコーナーに移動した。この辺が1番無難だろうと思う。思うけれど、せめて印象深い色と柄を選びたいと目を凝らす。
 相手の好みやイメージに合い、自分の好みとも一致する品物を探し出す。
 プレゼントを選ぶって、なんて難しい。


 
 結局2時間もかけて決めたのに、年内最後の練習日である今日に渡すのを忘れてしまったのでは意味がないと、栄口は肩を落とす。
 相手の誕生日は1月4日で、冬休み真っ最中だ。
 とはいっても自分たちには部活がある。当日に会えると思っていたのだが、3日前に思わぬことを発表されて、顔には出さなかったが実は結構、焦ったのだ。
「年始の練習は5日からになります」
「え、そんなに休みなの!?」
 素直に驚いた声をあげたのは田島だが、それは全員の疑問でもあった。そして監督と顧問は「できるならもっと早くに始めたかったんだけど」と切り出し、他の部とのグラウンド交渉に破れたことを説明する。
 いつも、他の部より優先してグラウンドを使わせてもらっている関係上、大会が近いのでどうか、と言われてしまえば自分たちの予定ばかりを押し通すわけにもいかない。よって、少し遅い日付より練習開始となったらしい。
「休みの間も調子が落ちないように、軽い運動と練習はしておいてね!」
 多分言われなくても全員がするであろうことを百枝は一応の挨拶として、今日の練習が終わった。
 年初めの練習日は1月5日。
 水谷の誕生日は1月4日。
 1日くらい遅れてもかまわないとも思うが、でもやっぱり、遅くなるよりは早めに渡したい。そのため一昨日は、慌ててデパートに駆け込んだのだ。
「計画台無しじゃん」
 どーしよ、と言葉に出しながら、栄口はリュックのポケットに放り込んだままの携帯をみつめる。
 どーしよなんて、悩む必要はないはずだ。
 今から予約を入れてしまえばいい。
 気軽に、ともだち同士なんだから。
 携帯に手を伸ばす。冷たいボディをぎゅっと握る。
「ヤベ。緊張してきた」
 これでは去年からちっとも成長していない。
 去年も、断わられたらどうしようと悩み、いまひとつ勇気が出せなかった。幸い、阿部を誘うことができたので『みんなで初詣に行く』という予定を無理矢理作り出して、そのついでっぽく、おめでとうを告げたのである。今年こそは。
「ふたりきりで会いたい」
 初詣じゃなく、新年の挨拶ではなく、彼の誕生日の方を最重要事項にしたい。
 目を閉じて天井を煽ぐ。
 息を整える。
 ばくばくと早打ちする心臓に少しだけ慣れた頃、栄口はようやく、二つ折りの携帯を開いた。

 耳元でコール音が聞こえている。
 それが途切れた時に耳にするのは、恋しい相手の、大好きな声。



***** ***** ***** ***** ***** ***** ***** ***** ***** ***** *****

お誕生日おめでとう、ふみき!
なのに彼が出てこないとはこれいかに。

青い春とか青い恋とか、そんな言葉がぴったりのふたりです(自分的に)。
えっちに至ったとことかも書きたいと思うのだけども、もう鈍行列車どころか徒歩な勢いで
ゆっくりゆっくり自分の思いを確認して、相手を好きだと思って、相手のことを思って、進んでいって欲しいのです。
下手するとHシーン書くより恥ずかしかったりするんですけど(笑)。


水谷くんは、貰ったタオルを普段から持ち歩き、部室とかグラウンドで栄口くんに「使ってるよー」って感じに
毎回、見せつけると思います。栄口くんはちらりと横目で見て「オレのタオルだ」とか思っているところに
それをやられて、その都度「はいはい」って顔をするの。でも実はめちゃくちゃ嬉しいのです。
うわあ、恥ずかしい(…)。


 

<ブラウザの戻るでお戻りください>