建築レポート:環境共生住宅

屋久島環境共生住宅

建物概要
所 在 地 鹿児島県熊毛郡上屋久町宮之浦地内
敷地面積 19,750u

建設戸数 県営24戸、町営26戸  計50戸
事業期間 平成10年度〜16年度
構 造 木造平屋建て
床面積 3DKタイプ(79.4m2) 2DKタイプ(64.1m2)
付帯施設 集会室等共用施設


 屋久島に遊びに行く機会があり、遊ぶだけではもったいないと、何か建築的に面白い物を探していたら、この住宅を見つけることが出来た。
 屋久島と言うところは、屋久杉で有名であり、非常に自然豊かな島である。また、島でありながら九州最高峰の宮之浦岳(1935m)があり、洋上にぽっかり山が浮かんでいるような所でもある。このような地形から年間の雨量が半端じゃなく(年間8000mm!ちなみに石川県では1900mm)、一月に35日雨が降ると言われている。このおかげで島でありながらおいしい水が尽きることなく湧き出て、多くの生き物を潤している。また、冬には山間部では雪も降り、巨木や巨石がある非常に不思議で魅力のある島である。

環境共生住宅の定義(国土交通省)
 地球環境を保全するという観点から、エネルギー・資源・廃棄物などの面で十分な配慮がなされ、また、周辺の自然環境と親密に美しく調和し、角手が主体的に関わりながら、健康で快適に生活できるように工夫された住宅およびその地域環境。

 
○屋久島環境共生住宅の基本コンセプト
 環境と折り合い、様々な生命を育む「屋久トープ(YAKUTOPE)」を育むということで、海と里と山を結び、地場の材料を活かし、エネルギーと物質の循環を図り、屋久島らしい家並みを創出する。
 ちなみに、TOPE(トープ)というのは、ギリシャ語で「場所」を表す言葉の「トポス」に由来するそうです。

YAKUTOPEの円環構造


○屋久島環境共生住宅の取り組み
 ビオトープ
 環境共生住宅には付き物のビオトープではあるけれど、ここでは既存の小川を多自然型河川に再整備し、その横には森林ビオトープ、そしてフォレストファームという菜園を配置している。これによって、自然との接触がしやすい仕組みとなっている。これまでビオトープといえば水辺空間という思いこみがあったけれど、今回森林ビオトープというものを見て、屋久島のような自然豊富な場所だからこそ、本当に自然と共生するということを考えさせられた。

 自然エネルギーの活用
 集会場には風車(風力発電機)を設け、雨水と湧き水を利用したせせらぎを設け、風車で発電した電力で水を循環させています。
 また、緑地に設置された外灯は、太陽光発電によって明かりをつけています。

 住宅
 景観的には、生垣や石垣、平屋の切り妻屋根など島らしい住宅のスタイルを見せている。これらは、台風や豪雨、塩害、白アリなど島における災害などに対応するためである。
 住宅の作りもまた、地域で育まれてきた作りを継承しており、広い玄関と田の字型の間取りを採用している。さらに暑さをしのぐ工夫として、屋根に風楼を設置し、風が無くても空気を流れるようにしている。

 団地内通路
 住宅の棟の間には、小さな東屋と緑道を配置して、夕涼みなどに利用しコミュニティーの活性化を図っている。構内通路や駐車場は透水性舗装とし、団地内の気候を和らげ、水の循環を図っている。また、住棟から少し離れた集合駐車場やボンエルフによって団地内の安全性を高めている。

その他にも、自然に親しむ工夫、自然に負けない工夫、自然を壊さない工夫がいろいろと考えられている。

既設住宅 森林ビオトープ。この先に水辺のビオトープがある
背割り緑道でコミュニティー活性化のお手伝い 住宅が道路よりかなり高いのは、バリアフリーよりも湿気対策か?
現在建設中の町営住宅 外壁の色で県営、町営を区別しているのだろうか
背割り緑道に四阿を設置 集会場に風力発電機を設け、せせらぎ空間の水を汲み上げる
センターモールは海から山へと抜ける 街灯は太陽光発電

 
環境共生住宅が数年前から話題であるが、これまで見た物はどちらかというと、都会の中に緑を取り込んで、環境教育をしようというような、いわば作り物的なイメージが強く、いいことだとは分かっていても、それほど共感できるものではなかった。
 しかし、今回見学した屋久島環境共生住宅は、本当に
環境との共生を行っていると感じられた。それは単に緑が多いとか自然エネルギーを活用していると言うことではなくて、意義や必要性を感じられたからではないだろうか。というのも、消費や排出のほとんどが島の中で解決しなければならない島という一種閉鎖的な条件から、環境との共生が不可欠であると言える。
 我々が普段消費している食べ物はどこから来て、使っているエネルギーはどのようにして生み出され、排出したゴミがどう処分されているのか?改めて考えさせられ、今ある自然とうまくつきあっていくと言うことの重要性が感じられた。

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