シックハウスについて考える

平成14年9月14日(土)に「ひと住まい環境ネットワーク北陸」主催で開催された住まいの座談会でのお話を簡単にご紹介しながらシックハウスについて考えてみます。

目次
1.シックハウス症候群と化学物質過敏症
2.化学物質の種類と現在の基準濃度
3.建築材料と化学物質の放散
4.対策としての換気
5.北陸の住宅における屋内空気質測定結果の現状
6.まとめ

 「住まいの座談会」開催概要

 テーマ 「シックハウス対策の調査と現状」
 講師  金沢工業大学建築学科・住居環境学科教授 垂水弘夫氏
 開催日 平成14年9月14日(土)
 会場  石川県産材の家「木の家」
 主催  ひと住まい環境ネットワーク
 共催  シックハウスを考える会石川支部


1.シックハウス症候群と化学物質過敏症
 「シックハウス症候群」という言葉を聞いたことがあると思いますが、この言葉はシックハウスを考える会の理事長でもある上原氏が作った言葉で、WHO(世界保健機構)では、「ビル・ホーム関連健康障害」と言われています。(この先はシックハウスで統一させていただきます。)

 シックハウス症候群は、住宅の建材や家具、日用品などに含まれる化学物質によって室内の空気が汚染されることが原因で発生します。その症状は、めまい、吐き気、頭痛、目や喉の痛み、喘息、鼻水、倦怠感の他、病気になりやすくなったり、アトピー性皮膚炎が悪化したりする事もあります。
 これらは、アルミサッシなどの普及により、住宅の気密性が向上したにも関わらず、換気がなされないことが大きな原因の一つと考えられます。

 また、これらの化学物質を曝露した場合、体の強い人であれば一時的に体調を崩すだけで済みますが、いったん化学物質過敏症になると、普通の人が感じないような少量の化学物質にも反応して症状が現れ、普通に生活が送れなくなることもあります。

 シックハウス症候群になりやすい人は、家にいる時間の長い主婦や高齢者が多いというデータもあります。症状は夏にでやすく、冬には出にくいようです。
 シックハウス症候群の治療方法として、代謝促進(サウナ、運動など)、栄養剤の服用(ビタミン剤、アミノ酸剤など)があります。
現在日本では、北里大学でシックハウス症候群や化学物質過敏症の治療・研究が進んでいると言われています。

2.化学物質の種類と現在の基準濃度

 シックハウスの原因とされる化学物質は数多くあり、VOC(揮発性有機化合物)は、天然のもの人工のもの合わせて数千種類以上あると言われています。
 化学物質が全て悪いわけではなく、ヒノキなどに多く含まれるピネンやリモネン等は、森林浴をしたときの効果があります。しかし、家を総ヒノキで造った場合、やはり体の弱い人などは、これらの化学物質に負けるときがあるので、自然材料だからといってやみくもに木さえ使えばよいと言うものでもありません。うまく使い分けることが必要です。

 厚生労働省ではシックハウス対策として以下の化学物質について室内濃度指針値を発表しています。

個別物質の室内濃度指針値等
  化学物質 指針値 主な用途
ホルムアルデヒド 100μg/m3(0.08ppm) 合板、パーティクルボード、壁紙用接着剤(尿素系、メラミン系、フェノール系の合成樹脂)、接着剤、のりの防腐剤
アセトアルデヒド 48μg/m3(0.03ppm) ホルムアルデヒドと同様の一部の接着剤、防腐剤等
トルエン 260μg/m3(0.07ppm) 内装材の施工用接着剤、塗料等
キシレン 870μg/m3(0.20ppm) 内装材の施工用接着剤、塗料等
エチルベンゼン 3800μg/m3(0.88ppm) 内装材の施工用接着剤、塗料等
スチレン 220μg/m3(0.05ppm) ポリスチレン樹脂等を使用した断熱材等
パラジクロロベンゼン 240μg/m3(0.04ppm) 衣類の防虫剤、トイレの芳香剤等
テトラデカン 330μg/m3(0.04ppm) 灯油、塗料等の溶剤
クロルピリホス 1μg/m3(0. 07ppb)但し小児の場合は0.1μg/m3(0.007ppb) 防蟻剤
10 フェノブカルブ 33μg/m3(3.8ppb) 防蟻剤
11 ダイアジノン 0.29μg/m3(0.02ppb) 防蟻剤
12 フタル酸ジ-n-ブチル 220μg/m3(0.02ppm) 塗料、接着剤等の可塑剤
13 フタル酸ジ-2-エチルヘキシル 120μg/m3(7.6ppb) 床材、壁紙等の可塑剤
シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書による(H14.1.22)


3.建築材料と化学物質の放散


 シックハウスの原因となる建築材料にはどのようなものがあるかというと、前項の表の主な用途を見ていただければわかりますが、現在では業界内でもかなり対策が進んできていますので、化学物質過敏症でなければ滅多なことはない(施工業者にもよりますが・・・)と思われます。

 気を付けたいポイントとしては、家本体では押入の合板。押入やクローゼットの中は換気されることが少ないことから、化学物質が残留しやすいようです。また、造り付け家具に使用する材料にも気を付けたいです。さらに、あとから家具の量販店で買った家具などでも、合板、集成材やパーティクルボードを使用したものが原因と言うこともあります。
 これまであまり大きな話題にならなかったスチレンは、テレビやパソコンなどの電化製品のボディーに含まれており、熱が高くなると放散します。これは意外に家の中でも多く存在するのではないでしょうか。
 その他にも、防虫剤、化学雑巾や芳香剤など日用品から放散される化学物質も見逃せません。

 また、家の中だけではなく、外にも化学物質は多く存在します。都会ではなにより自動車の排気ガスが多いですが、田舎に行ったからといって安心はできません。郊外の工場からの排煙や汚水、農地では農薬がまかれ、野焼きをしただけでも化学物質が放散されます。また土壌汚染なども深刻な問題です。

 さて、私たちがこれらの化学物質にどれくらい影響されるかというと、
 ・食べ物  2kg/人・日
 ・飲み物  2kg/人・日
 ・空気   20kg/人・日
 直接摂取する食べ物や飲み物以上に空気による曝露量が多いのは意外に知られていません。

 化学物質は温度が高くなると放散しやすいのですが、湿気にも影響され、ホルムアルデヒドは湿気が高いと加水分解しやすくなり、多く放散されます。
 ちなみに前項の表では、「μg/m3」と「ppm」という単位が出てきますが、前者は空気中の質量で、後者は空気中の濃度になります。質量は温度に影響されませんが、濃度は温度によって変わりますので、測定結果を比較をする際は「μg/m3」を使うのがよいでしょう。前項の表における濃度は摂氏25度の場合です。


4.対策としての換気


 化学物質の放散への対処として、換気、ベイクアウト、空気清浄機などがあります。また最近では化学物質を吸着する製品が出てきており、代表的なものでは炭や珪藻土を使用したものがあります。その他植物が化学物質を吸収することも知られています。
 これらを分類すると、化学物質を外部に排除する「換気」、化学物質を取り込む「吸着」、化学物質を無害にする「分解」と3種類の方法に分けられます。

 この中で一番効果があるのは換気です。まずシックハウス対策の基本と考えてください。現代は、クーラーや暖房器具を使用することが多く、窓を開けることが少なくなっていますが、季候の良い季節は窓を開けることが重要です。気密住宅だからといっていつも閉め切る必要はありません。換気設備に頼らずとも快適な生活はできます。
 しかし、本当に暑いとき、寒いときは窓を閉めなければなりません。(省エネルギーの観点から気密性が高まっているのですから。)そんなときは、熱交換型の換気扇が有効です。また、窓にあらかじめ換気ガラリを設けておくことも良いでしょう。
 通常は、換気回数が0.5回/h(1時間に部屋の空気の半分を入れ替える)と言われています。放散濃度を0.5mg/m3を換気するためには1時間に10回以上空気を入れ換えないといけません。

 次に「吸着」ですが、確かに炭や珪藻土などは化学物質を吸着する性質がありますが、吸着する量に限界があります。また、吸着したものは後で放散するおそれもあります。これらの製品は今後さらに研究が進められていくと思われますので、現段階では、製品の特徴をよく見極めてから使う必要があります。
 このような建材、製品についての研究も、金沢工業大学とシックハウスを考える会石川支部で調査を始めています。

 「分解」についても、まだこれからの分野と言えますが、空気清浄機では、かなり性能の良いものが出てきているようです。ただし、ハウスダストや煙草の煙を排除するものから、化学物質を分解するものまで様々な製品があるので、どのような機能で、どの程度の能力があるのか見極める必要があります。
 植物の化学物質の吸収・分解についてはNASAでも研究がされているようですが、実際に効果があり、ホルムアルデヒドにはポトスが、ベンゼンにはガーベラが良いなど、観葉植物の種類によって効果の差もあるようです。また葉の面積が広い(葉が多い)ものほど効果があるといわれ、6畳間に4〜6鉢くらいあると効果を発揮する目安だそうです。

 これ以外の方法としてベイクアウトが知られていますが。これは、部屋の中の温度を上げ、建材に含まれる化学物質を強制的に排除しようという方法ですが、あまり効果があるという報告はありません。やはり内装仕上げの段階や、竣工後に根気よく換気するのが良いでしょう。


5.北陸の住宅における屋内空気質測定結果の現状

 平成13年に、シックハウス実態調査委員会(金沢工業大学、シックハウスを考える会石川支部)において、揮発性有機化合物を中心とした室内空気環境調査を新築住宅及び居住住宅を対象として行いました。

新築住宅の状況
測定対象住宅:金沢市近郊の新設2団地、72棟
測定対象:ホルムアルデヒド及びVOC(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン)
測定方法:内装仕上げ工事の完了後、南側居間において測定点高さを1.1mとした。
       測定前には備え付けの家具や収納の扉を開けた状態で外気に面した窓・扉を閉め、
       5時間密閉した後で測定を開始した。
測定結果
 ホルムアルデヒドは、Fc0、E0等の材料を使うことで指針値を上回る数値はなかった。
 トルエンは、指針値を超えた住宅が48/72棟
 キシレンは、4/72棟
 スチレンは、18/72棟
 エチルベンゼンは、指針値を超えるものはなかった。
 また、ホルムアルデヒド以外の4物質の合計を今回の測定においてTVOCとし、厚生労働省の指針値である400μg/m3以下と比較した場合に、指針値を下回る住宅は1棟もなく、最も低い住宅で520μg/m3であり、最も高い住宅では4684μg/m3も検出され、指針値の12倍近くもあった。

 結論として、建材から出るホルムアルデヒドに対しての対策はとれているが、塗料・接着剤等に含まれるトルエン、スチレンなどのVOCについては、まだ対策が遅れていることが判明した。

居住住宅の状況
測定対象住宅:金沢市近郊の居住住宅6棟
測定対象:ホルムアルデヒド及びVOC(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン)
測定方法:普段の生活状態のまま、化学物質の発生源と考えられる場所を想定して、多点測定を行った。主な測定点は、居間、台所、寝室、子供部屋、和室、食器棚、洗面所、トイレ、タンス、本棚、収納、クローゼット、玄関、下駄箱

測定結果
 ホルムアルデヒドは、1/6棟が指針値を超えていた。
 トルエンは2/6棟(超えたのはトイレ、下駄箱)
 キシレンは超えるものはなかった。
 エチルベンゼンは、超えるものはなかった。
 スチレンは3/6棟(タンス、本棚、寝室、居室収納、洗面所)
 TVOCでは、全測定点において指針値を超えており、一番高いもので1540μg/m3であった。

 結論として、居間などの居室自体は濃度が低く、収納棚といった家具や非居住空間の方が高濃度であった。これらの非居住空間がそれらが設置されている居住空間に影響を与えていると考えられる。

経過による濃度の変化状況
 居住住宅における1棟は新築住宅の入居後であったため、その4ヶ月後に再度測定し、経過による濃度の変化を調査した。
 トルエン 413 → 102μg/m3
 キシレン 211 → 281μg/m3
 エチルベンゼン 124 → 133μg/m3
 スチレン 102 → 155μg/m3
 これにより、住宅建材からの化学物質の放散が減少するものの(トルエン)、キシレンやスチレンは入居後に持ち込まれた家財によって濃度が高くなることが判明した。


6.まとめ

 現在建築基準法改正され(平成14年7月12日)、建築材料の規制と、換気設備の設置について定められました。詳細については、法律公布後1年以内に告示が公布、施行されます。その主な内容は、ホルムアルデヒドを使用した材料の制限と気密性の高い住宅での換気設備の設置、クロルピリホスを放散する材料の使用禁止です。
 後者のように使用禁止という方法は、明快でよいのですが、ホルムアルデヒドなどは材料の指定や面積制限などがあるように聞いており、今後も測定によらなければ、良い建物かどうかがわかりません。しかしながら、大きな前進ではあります。

 それでは、これまでのシックハウス対策を簡単にまとめてみました。
 家を建てるときのポイント
 ・自然素材を活用する。
 ・化学物質を多く放散する建材を使わない。
 ・気密性の高い住宅を造る場合は換気計画をする。(換気設備を設ける。)
 生活する際のポイント
 ・よく部屋の換気をする。
 ・家具の購入の際、化学物質を多く含む材料を使用したものを買わない。
 ・日用品でも化学物質を多く含むものは使用しない。
 ・気密性の高い住宅では、開放型のストーブ、ファンヒーターを使用しない。
 ・部屋に観葉植物を置く。

 まとめが簡単すぎて実践しづらいかもしれませんが、常に家の中を清潔にし、よく換気をしていればかなりの対策になります。また、シックハウス対策よりも煙草を吸う方は、煙草をやめた方が室内環境は確実に良くなりますよ!
(たばこの紫煙に含まれる化学物質 ベンゼン300μg/本、トルエン500μg/本、キシレン200μg/本)


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