1月上旬

 昨年の秋頃ぼんやりとあったモノが、突然脳内キャビネットからとびだし、部分的に映像となり、文章付きで目の前に流れていく。つかめるかと思い、思いきって用紙を机に置く。そのとたん、ビスケットがばらばらとこぼれ落ちるように目の前の文章がバラバラになって、落ちて消えた。厳しいな。まだ無理か。
 用紙はそのまま机にある。書けないが。心理的にストップがかかる。ひさしぶりに用紙がだせただけよしとしよう。
 趣味のものがひとつでも書ければ、大きな一歩につながると思うのだが…。あせりは禁物。
 同じ創作なのに、似て否なるもの。
 趣味ものは、おおまかな球を、ひたすら研磨し、精巧な球につくりあげていく作業。
 仕事は、粘土工作。つけたし、そぎ落とし、形づくっていく作業。
 おもしろいな。
 この頃小説を読むと、内容によっては、ビリビリとこちらの感情を揺さぶってくる表現にであうときがある。読み直した本にもそれはあり、以前読んだときにはそんなことはなかったのにと、気持ちが揺さぶられる分だけ、痛みはともなうが、おそらく感じられるようになればなるほど良い方向に歩んでいるのだと思う。

1月10日

 ひさしぶりに、昼食にパンを口にできた。
1月11日

 一本の電話が入る。神経をキリキリとさいなみ、この頃穏やかだった日常からまた混沌へと突き落とそうとする。たまらない。

1月13日

 龍谷大学、市民のための公開講座、「生命倫理をめぐる日米宗教界の違い」、受講。
 とてもおもしろかった。ざっと室内を見渡し、自分が一番年下らしいことに気付く。そうだろうな。この内容では。
1月19日

 武蔵野大学、生涯学習、「漢方の基礎知識」、受講。
 疲れた。レジュメが用意されてはいたが、ボードに書かれたものを書き写す、話を聞き取り記録する、これらの作業がこれまでの講座のなかで最もハードだった。

1月20日〜22日

 合唱団、定期演奏会。
 レセプションまでは身がもたないので不参加。帰宅後、頭痛。
 21日早朝、頭痛治まらず目が覚める。水分補給、クラッカーを少々口にし、めったなことでは使用しない頭痛薬を服用。寝る。昼過ぎ目覚める。痛みは治まるが、無理矢理押さえこまれている感覚。頭痛の種というかしこりみたいな感覚も有り。身体がだるく、昼食後、休む。次に目が覚めたとき、時刻は午後七時になろうとしていた。
 22日、だるさ、とれず。
 20日から22日のあいだ、満腹感いつもよりぶっ壊れ状態、甘いものも止まらず。疲れるとこれだ。

1月26日

 「漢方の基礎知識」全2回の最終回。
 日本フィルハーモニー交響楽団第587回定期演奏会。
 指揮:小林研一郎、マーラー交響曲第9番
 音、表現、細部にまで神経の行き届いた演奏。タクトが下ろされるまで、こちらも緊張感抜けなかった。

1月28日

 東京オペラ・プロデュース第78回定期公演。
 オペラ「ルイーズ」
 知り合いが出演しているのでチケット購入、観劇。
 近代劇、かつとても身近なテーマだった。そのせいか、物語に入り込みすぎ、神経ズタズタになる。とにかく、登場人物全員の気持ちがわかり、登場人物ごとに感情のスイッチが入れかわる。あるいは3人に自分の内で分裂し、それぞれの感情がなだれこみ、せめぎあい状態。まるでほとんど創作モード…?
 終了後、とにかく疲れた。ヘトヘト。精神的にボロボロ。口ききたくない。人と会いたくない。「ルイーズ」の世界から抜けるのに一苦労。オペラ鑑賞って、こんなにハードなものだったか? とうぶん観たくない。
 クールダウンするために、疲れているのに鞭打って書店に寄り文庫本購入。夕食後、一冊読んで寝る。

1月30日

 嫌な電話、2件。黒い小さな染みが広がっていくような感覚。不快、おぞましさ、嫌悪感。広がらないよう柵を作り、せき止めるので手一杯。

 レニングラード国立バレエ「ジゼル」
 ジゼル:オクサーナ・シェスタコワ
 アルブレヒト:ファルフ・ルジマトフ
 すごかった。ここまでの感覚を味わったのは初めてだ。
 一幕はもちろん良かったが、普通に観ていられた。
 二幕、コールドに入ったとたん、腰から脳天にむかっていっきに悪寒と微弱電流のようなものが走り抜け、止まらない。シーンが変わりいったんおさまったが、コールドと森の番人で再発。ジゼル、アルブレヒト、コールドにいたっては、体中がぶわっと熱くなり、背筋はぞわぞわと前述のものが走りっぱなし、幕が下りるまで続いた。途中途中、見せ場で拍手がおきるのだが、私には拍手する余裕がない。ラストの別れのシーンは泣きそうになるし。よくこらえたな。
 カーテンコールにつぐカーテンコール。拍手が鳴りやまない。最後のカーテンコールでは、会場の半数がスタンディングオベーション状態(TVで、海外での公演では観たことがあるが、私は日本では初めて観た)。席を立ち、オーケストラピットまで寄って来る観客もいるいるいる。私もスタンディングオベーションしたかったが、立てない。すごい舞台観ちゃったよー!に、膝が震え立つことができなたった。
 家にたどり着くまで、ハイ状態、動機がおさまらなかった。
 主役はもちろん良いけれど、コールドの良いバレエはやはり良いなー。トウシュウーずの音、生で観るとかなり響いてきこえるので、初めて観賞したときは驚いたが、アレがけっこうクセになる。コールドで、移動やジャンプ等のトウシューズの音が、一糸乱れずそろい、ひとつの楽器の音色、音楽にきこえる。コールドの動きが二種にわかれると、アンサンブルにきこえてくる。トウシューズ独特の音。トウシューズ達が奏でる音楽。これがほんとうに一糸乱れずのコールドだと、視覚聴覚で楽しめるほんとうにすばらしい音楽。舞台芸術。とても好き。
 ルジマトフ、美しいなー。優美だなー。足のつま先まで優美だなー。私はバレエの知識などないけれど、それでも、正確な踊り、すばらしい表現力、と感じさせられてしまう。
 二幕の、ジゼルとの、感情はあふれているのに、人の体重のなさ、すごいなー。
 こんな感覚を味わえるものにめぐりあえるのは、人生のうちで何度あるだろう。あるいは、いちどもない人もいるだろう。めぐりあえた私はとてもめぐまれている。とても幸福。とてもしあわせな時間。あのぞわぞわ感、もういちど味わいたい。

1月31日

 1月30日の事。バレエ鑑賞にでかける前、電話の一件について人と会う。すさまじく嫌な件。できれば回避したかったがしかたない。会話しながら、自分がおかしい、通常ではないのを感じながら、それを止められなかった。
 今日は起床してからずっと、その件で自己嫌悪におちいっている。活字に逃げ込めているあいだはいいが、他の活動になったとたん、再び始まる。しまいには確実に死ねる方法を考え、そこから自分をひきはがすのに精一杯になる。
 食事に正直にでる。オールスナック菓子。夕方、スーパーのレジに並び、会計で愕然とする。二千円近く、全部スナック菓子だった。