飢狼の欲望

                 

「ふははは、森を焼け!そして、エルフの財貨を奪って、ガキどもは皆殺し、女達は奴隷にしろ!半分

 は、お前達のものだ!」

 トリ−ル一の強欲領主クロ−エ伯ダフニスは狂ったような声で命令を下した。                                 

 兵達は率先して、ラジュ−ヌの森―――妖精族の住む地へと殺到していく。

 ダフニス同様に強欲な者達だ。

 そういう兵しか、ダフニスは自分の私兵に雇わなかった。

「ふふ、ようやく、夢がかなったわ」

 地方領主となる前のしがない商人の時代から、ダフニスはエルフの住むラジュ−ヌの森に目をつけて

 いた。

 ダフニスが望むのは、美しきエルフの娘。

 若い頃、望んで、振られ、消えたエルフへの恋。

 その感情は、歪んだ欲望となって、領主となった今、爆発していた。

 ダフニスの策略によって、森はかつて有していた抵抗の術を持たなかった。

 迷いを与える森の呪いは解かれ、森の守護者と呼ばれたエルフの老英雄は毒殺され、男達はだまし討

 ちによって全てを討ち取られ、森に残るのはエルフの娘と子供達だけであった。

 森々は焼かれた。

 悲鳴をあげ、エルフの娘と子供達は逃げようとする。 下卑た笑いと共に、それを追いかけるゴロツ

 キ同様の兵士達。

中には、武器を振るったり、魔法の力を行使したりして、抵抗した者もいたが、一地方領主が有する

には多すぎる兵力をもって攻めたてたクロ−エ伯爵の軍には抗しきれずに、子供達は惨殺された。

 そして、エルフの娘達は兵士達の欲望の生贄となっていた。

 兵士達は美しい容貌を誇る異種族達を、遠慮容赦なく凌辱する。

「ひいっ〜い、痛い、やあぁ」

 兵士二人に嬲られるエルフの娘。

「いやッ、そんなの‥‥‥」

 獣の姿勢で慰み者にされるエルフの娘。

「あいつはいないのか? 俺を振ったあの女に似たエルフは!」

 ダフニスは、この襲撃をすることを決定させたエルフ娘がいないかをどうかを、燃えている森と獣の

 ような行為を続ける部下達の間を馬を進めて確認していった。

 

 

「森の中も捜してみたが、どこにも居らぬ。クララという名のはずだ。どこだ!」

ダフニスは部下に命じて、全裸にして燃え残った木に縛りつけさせたエルフの娘に鞭を振るって、詰

問していた。

「ひっ、ひい、痛っ、ク‥‥‥クララなら他の森に薬の調合に必要な香草を集める旅に出ているはずで

 す。やだぁ、や、やめて‥‥‥」

 答えを聞いたダフニスが縛り上げられたエルフの娘の小振りの胸を揉みしだいたのである。

「あの女がいないだと!いつ、帰る!」

「ひい、あっ、あふっ、やあっ!」

「答えろ!」

 エルフの娘の至近で、ダフニスは鞭を振るった。

「きゃああ!み‥‥あさって、明後日です‥‥‥」

 喘いだようにかすれた声で答えた。

「明後日だな、分かった。それまで、お前を代わりに可愛がってやる」

 ダフニスはそう宣言すると、木に縛りつけられたエルフの娘を本格的に弄び始めた。

 

 

「これは‥‥‥?」

 帰ったエルフの娘クララは、燃え落ちたラジュ−ヌの森を見て絶句した。

 到る所にエルフの子供の惨殺された死体が転がっている。

「帰る前に聞いた噂が‥‥‥本当だったなんて、そんな‥‥‥」

 クララは力なく呟く。

「そんなところで、何をしている!この場に近づいてはならぬとの通達を知らぬのか」

 ダフニス配下の兵士達がクララに声をかけた。

 全部で四人。

「あなた達がやったのね?」

 ロ−ブのフ−ドをとりながら、クララは兵士達の方を振り向いた。

 長い黄金の髪が揺れ、天与の美貌の中にある碧い宝石のような瞳が兵士達を見据えた。

 ラジュ−ヌの森のエルフの中でも随一と讃えられた美貌であった。

「何てぇ‥‥‥美貌だ。お館が言っていたクララというかいう名のエルフだな」

「お館が執心なのも分かるものだ」

「隊長、どうします?」

 兵士達が色めきたつ。

「とりあえず捕まえろ。慰み者にして、奴隷商人に売るか、お館に差し出すかはそれからだ」

「承知」

 答えて、兵士達はクララに近づいていった。 

 クララはそれに対して、呪文を唱えた。

 兵士達が跳びかかる。

 その刹那に呪文が発動した。

 大地が割れ、そこから灼熱した橙色の塊が吹き出るや兵士達に絡みつく。

 絶叫をあげながら、クララに襲いかかった三人の兵士達は瞬時に焼かれていく。

「よ、溶岩だと‥‥‥。そんなものが呪文で出すことが可能なのか」

 隊長が呻く。

「伝えなさい、クロ−エ伯ダフニスに。ラジュ−ヌの森の魔道士クララが近いうちに会いに行くと」

 穏やかともいえない声が響き渡った。

「は、はい」

 それだけの言葉をしぼりだすと、隊長はその場から走り去っていった。

 

 

「ひぃ、はあん、やっ、やあぁぁぁ」 

 嫌悪感で身を焦がしながらも、肌をピンクに染め、甘い声を出してエルフの娘は抱かれていた。

「愛らしい楽の音だな。一生飼って慰み者にしてやろうか?」

 嘲笑を浮かべながら、ダフニスはエルフの娘の肢体を弄んでいる。

 その反応を楽しんだ後、ダフニスは欲望を満たすべく己の象徴でまだ幼い花芯を貫いた。

「痛いいっ!、やぁ、ぐうぅぅ‥‥‥」

 容赦のない挿入にエルフの娘は激痛に呻き、気を失った。

 ダフニスは獣の行為を終えるまで続けると寝床から離れ、近くにある白ワインの入ったグラスに手を

 伸ばした。

 そして、微笑を浮かべてから、それを口に含むと口移しでエルフの娘に飲ましてやる。

「はぁん、あっ、あ‥‥‥」

 まだ気を失っていたエルフは甘い声を上げる。

 強力な媚薬を含ませたワインの効果だった。

 無意識下の中で、エルフの娘は股間へと繊細な指を伸ばした。

「ああっ、あふっ、はぁん‥‥‥」

 それで自らを慰める。

「ふふっ‥‥‥」

 ダフニスは椅子に腰掛けると、媚薬の入っていない白ワインを口に含みながらそれを見物した。

「ひぃ‥‥はぁぅ‥‥‥あぁん」

 甘い声を響かせながら、身悶えし、淫らな舞いを見せるエルフの娘。

「それにしても‥‥‥あのエルフめは、まだ戻らぬのか。奴隷として、このように可愛がってやるのに

 な」

 呟いて、ダフニスは低い声で笑った。

「申し上げます」

 悦楽にふける中、突如、部屋の外から声がかかった。

「何用か?」

「はっ、伯が求めしエルフの娘が現われたとの報が入りました」

「何っ!捕えたか?」

 朗報とばかりに思わず、手にしたグラスを床に落として、ダフニスは叫んだ。

「いえっ、遭遇した兵の一分隊が隊長を残して、全滅とのことです。何でも魔道を用いて兵士を倒した

 上で、隊長に伯のところに赴くと申したそうでございます」

 声には怯えが含まれていた。 

 エルフの誇る魔力の凄まじさを思い起こしているのであろう。

「役たたずめが! このような時の為に高い金を払っておるのに」

 エルフの娘を手に入れ損なった兵士の不手際を責めると共に、エルフの魔力に対する怯えが含まれて

 いた。

 ただ一つ、商人時代に習得した狡猾な策略を目的の娘に仕掛けることをしなかった事に対する苛立ち

 もそれに含まれている。

「クララの魔力はラジュ−ヌの森でも随一よ。どうやって、対抗するつもり?」

 ダフニスの背後からエルフの娘が喘ぎながらも、底意地の悪そうな微笑を浮かべた。

「気づいたのか?」

「あれだけ、大きい声で叫べばね‥‥‥」

「ふんっ、ならば、また可愛がってくれるわ。とりあえずは、我が配下の兵全てに館の警備にまわるよ

 うに伝えよ。それと、間抜けな分隊長は今日限りで処刑せよ」

「はっ」

 一言発すると、伝令はその場から去っていった。

「エルフは同族意識が強い。それを利用すれば済むことだ、苦慮するには及ばぬ。さてっ、生意気な口

 を叩いたおしおきはしてやらんとな‥‥‥」

 呟いてから、ダフニスは寝床で悶えるエルフの娘の肢体に手を伸ばした。

 

 

「来たぞ!」

 館の警備に就いていた一人の兵士が叫んだ。

 クロ−エ伯の私兵軍兵士達は近づいてくるそれに意識を向けた。

 淡い緑色のロ−ブを纏い、短い棒杖を手に持ったエルフの娘だ。

 腰には小剣を下げている。

 クララだった。

 碧色の瞳が燃える怒りの色が浮かんでいるように見えた。

 ほとんどの者が鮮烈なイメ−ジを感じた。

「美しい」

 兵士達の誰かがそう呟いた。

 魅了されていたといっても良かった。

 だが、それは兵士達にとって美しき死神であった。

 奇妙ともいえる旋律がクララの口元から流れ出る。 

 それは兵士達への鎮魂歌だった。

 クララの呪文が発動した。

 空に向けて掲げた右手より、白熱した炎の鳥が抜け出るや、それは兵士達目指して飛んでいった。

 それは、華麗に飛びながらクララに見とれていた兵士達を黒くなるまで焼いた。

 兵士達は断末魔の叫びと共に全滅していた。

「炎鳥の召喚。完全に出来たのは初めてね」

 呟いた後に、クララは指をパチリと鳴らす、とたんに。空を飛んでいた炎鳥は姿を消した。

 それからゆっくりと歩を進め、館の中へと入っていく。 館の中を歩き回りながら、クララはダフニ

 スを捜したが、ダフニスの姿どころか誰も見ることはできなかった。 

 しかし、寝室を見つけ、クララはそこで書き置きを見つけた。

『クララ、地下の拷問室へ来い』 

 ただ、それだけが書かれていた。

「罠ね。卑劣な人間がそうなこと‥‥‥いいわ、何であろうと打ち破ってあげる」

 独語してクララは地下へと向かった。

 罠を予期して、館の地下に向かったクララであったが、何の抵抗も受けずに地下牢や倉庫の間を抜け

 て、拷問室らしき所に到達した。

「ここね」

 中から声らしきものも聞こえてくる、からには間違い背もなかった

 クララは分厚い扉を眺めた。

 頑丈な鋼鉄製の扉であり、開けるにはかなりの力を要するであろう。

 だが、それもクララが呪文を呟き、棒杖が扉に触れただけで、きしんだ音をたてながら開いていった。

「な‥‥何て事を‥‥‥」

 ゆっくりと開かれた扉から見えた光景にクララは衝撃を受けた。

 全裸にされたエルフの娘達は様々な拷問道具に拘束され、拷問吏の責めを受けながら苦痛の呻きを

 発している。

 十字架の磔台に縛られ、鞭によって無数のみみず腫れを負った者や馬型の木製に拘束された者などで

 あった。

 そして、責められるほとんどのエルフの娘達の瞳は人形のように焦点があってなかった

 その部屋の奥にあるベットの上で、ダフニスは一人のエルフの娘を弄んでいた。

「ア、アニ−‥‥‥」

「ようこそ、クララ。私はクロ−エ伯ダフニス、これから君を奴隷にして飼う主人の名だ」

 ベットにいたダフニスは起き上がると、抱いていたエルフの娘の首に短剣を突きつけながらクララに

 話しかけた。

 同時に拷問吏達もダフニスに習い、手近にいたエルフ娘の首に短剣を突きつける。

 これで手詰りになった。

 とても全員を無事に救うのは難しい。

 少しの俊巡の後、クララは口を開いた。

「あなたが首謀者ね。森を破壊し、一族に酷いことをした‥‥‥」

 怒りの眼差しがダフニスを見据えた。

「そうだ、お前を得るためにな」

 その視線を心地よさげに受けながらダフニスは悠然と答えた。

「そんなことだけの為に汚い手段で仲間達を滅ぼしたのね」

「そんなことはどうでもいい。今、主導権を握っているのは私だということを忘れるな」

 ダフニスはクララの弾劾を無視し、事実を口にした。

「くっ‥‥‥」

 クララは苦悩した。

 確かに今、下手に動けば、ダフニスが短剣を突きつけているエルフの娘―――アニ−も他の者の命の

 保障はない。

「理解いただけたようだな。さて、クララ、私の奴隷としての行動してもらおうかな」

「何をしろというの?」 

 ダフニスの楽しげな声とクララの苦悩に満ちた声が対照的に響く。

「服を脱げ。それから、その肢体で私に奉仕しろ

 クララはそれを聞いた後、屈辱に身を震わせた。

 だが、決然としてロ−ブに手をかける。

 短衣姿になったクララは、それもを脱ぎ捨て、下着だけの姿になった。

 ダフニスはその純白の雪のように白い肌、肢体に目を奪われる。

 周りの拷問吏も同様であった。

 さすがに欲望の視線にさらされながら、肌をさらすことへの羞恥かクララの手がそこで少し止まった。

‥‥早くしろ、お前のすべてをワシにさらせ!」

 興奮しつつ、ダフニスは言葉を加えた 

 諦めたようにクララは下着に手を伸ばし‥‥‥。

「クララ、やめるのよ!」

 アニ−が突如として叫んだ。

「アニ−‥‥‥」

「クララ、もうやめるのよ。皆、人間達にいいように凌辱されたわ。でも、あなただけでもそうなっち

 ゃいけない」

「女、黙らんか!」

「皆、いえ、私も屈辱でおかしくなってしまっている。もう、私たちは戻れないわ、お願い、あなたの

 魔法で私達を殺して!」

「ええぃ、いいところを邪魔するな、早く脱げ、クララよ。でないと殺すぞ」

 ダフニスの手が動き、アニ−の皮膚を裂いた。

 血が首筋をつたう。

「クララ、お願い‥‥‥。せめて、私だけでもあなたが殺して! もう屈辱を味あわせないで」

 クララはその言葉にしばらくの間、動きをとめてアニ−を見ていたが、決心した。

「アニ−、分かったわ、あたしはあなたの忠告に従う。誇り高きエルフの民が屈辱を甘受したままでい

 られないし、あたしがこいつに肢体を提供しても何の解決にならない‥‥‥」

 そこで一旦、言葉を切ると、クララはダフニスをキッと睨みつけた。

「同族殺しの名を負って、あたしが復讐するわ。ラジュ−ヌの森のクララの名の元に」

 凛と言い放ってクララは床に落ちた棒杖を拾い上げた。

「アニ−、一族の者達よ。さよなら」

 クララは呪文の詠唱にはいった。

「ハッタリはよせ!」

 ダフニスの手が動き、アニ−をさらに傷つける。

 しかし、呪文の詠唱をやめる様子はない。

「なっ、何だと! エルフが仲間を殺すだと!」

 ダフニスは驚きを隠しきれずに叫んだ。

 拷問吏達も展開の異様さに動揺する。

 その瞬間、クララの呪文が完成した。

 まばゆい光がクララを中心にして疾った。 

 光を浴びたものが、瞬時に消滅していった。

「そんな!」

 絶叫するダフニス。

「クララ、元気でね」

 呟くアニ−。

そして指向性のない光の放射が終わった時、クララは何もない地面の上に立っていた。

「さようなら、アニ−」

 クララは焼かれた森の跡地と魔力で灼きつくした館の跡に他の森で集めた香草を死んだ者への手向

 けとして置くと、その地から離れていった。

 クララ・ラジュ−ヌは生涯、その地へと戻ることはなかったという。

 

END

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