〜イリアル=ラングレート・決意の肖像〜

 

茜色に染まった空。

暮れゆく秋の陽が、野辺の全てを赤々と染めあげて、水面をキラキラと光らせている。

ふわり、音にすればそんな感じか、風が流れて、草々を揺れた。

そんな風景に穏やかな瞳を向けて、彼は眺め続けている。

繊細な容貌としなやかそうな肢体をした青年だった

ゆったりとした黒い長衣を纏った様は魔道士を思わせる。

しかし、彼の足元に転がるは魔道用の杖と魔道書にはあらずして、画材道具とラフスケッチだった。

写実的な絵ではない、どこかやんわりとした感覚があらわれた風景。

心性がうかがえるような絵だった。

「イル兄ッ!!!」

心地よい感覚は唐突すぎる呼びかけで遮断された。

背後からの威勢のよい声に応じて、彼はゆっくりと振り向く。

その視線の先には元気良く手を振る妹の姿が立っていた。

「どうしたんだ?」

口元に淡い微笑をたたえて、優しい声を紡ぎ出す。

「何をって…………まったく、ご飯食べないの?」

青年の声に少しあっけに取られた後に、頬を膨らませて抗議する。

「ああ、もうそんな時間か」

ころころと変わる表情を面白そうに眺めつつ、画材とスケッチを手に立ちあがった。

「また、絵を描いてたの?」

目ざとく手にしたものを見て、ややあきれたような声をあげるが、どこか、仕方ないなぁという風に

微笑をたたえていた。

「行こうか?」

妹の言葉に答えずに、青年は妹の頭をやさしくポンとたたいた。

「……うん、えへへ」

一瞬だけ、きょとんとしてから、すぐに妹は嬉しげに青年の腕に組みついた。

 

 

やがて、二人は連れだって、湖より街中へと戻ってきた、街門を抜けると、石畳によって整備された

大通りへと入る。

仕事終えたとばかりに座をたたむ露天商、酒場の前で大声を張りあげて呼びこむ酒場娘、街角ですさ

んだ雰囲気を漂わせる、ごろつきやチンピラとおぼしき不穏な輩達、疲労して表情を浮かべて、帰途

につく労働者、広場にてリュートを奏でる裕福そうでない吟遊詩人、噂話に余念がなさそうな主婦達、

見慣れた人間模様をつぶさに眺めながら、歩を進める内に、やがて二人は閑静な住宅が広がる区画へ

と入っていった。

騎士身分を持つ街役人、有力商人、聖職者といった都市貴族(ハダリー)とも呼ばれる裕福な者達が

居を構えている場所だけあって、比較的な大きな邸宅や屋敷が建ち並んでいる。

その中の一角に彼の家はあった。

家というよりは館というべきであろうか、その規模は周囲の建物に引けを取らないどころか最大級と

いってもいい。

夕闇に浮かぶ、三階建ての瀟洒な建物、その西翼には重厚な五層の塔が付随している。

その周りを取り囲む庭園は広々とし、色とりどりの花や様々な樹木が植えられ、花々と果実は甘美な

芳香をはなっていた。

特に実をぶら下がらせた林檎とすももの香りが甘く薫る。

妹はその匂いに食欲を刺激されたらしく、青年から離れ、近くの林檎の木へと走っていった。

「……えへへ、美味しそうッ♪」

果実をもぐと、甘い匂いを味わうようにゆっくりと噛みしめる。

妹の様を微笑ましげに見やってから、青年は改めて、館を眺めた。

見慣れた重厚な造りの建物は彼の生家、ラングレート家の権勢を無言の内に語りかけてくる。

しかし、その勢威を確認する度に彼の心は暗く沈む。

何故、僕はこの家に生まれたのだろうか、と。

「イル兄、どうしたの?」

彼の思いが出ていたのであろうか、手に二つの果実を抱え持った妹が青年の表情を見咎めるように尋

ねてきた。

青年はとっさに応える言葉が、思い浮かばずに、沈黙を持って報いてしまった。

「えい、白状しろ♪」

そんな沈んだ青年の心情を半ば本能的に察したのか、妹は空いている手の人差し指で青年の頬をつっ

つきながら、元気づけようとする。

「……おい、よせよ」

妹の愛らしい行動に、思わず青年に苦笑が浮かべつつ、手で妹の手を払いのけようとする。

「や〜だよ、っと♪」

「イル、ルシー、何をやっているの? もう、そろそろ夕飯よ、それに今日はお父様もいらっしゃる

のよ」

ようやく浮かんだ青年の微笑が嬉しかったのか、調子に乗って、さらに続けようとした妹の動きが、

突如として割って入った声によって止まった。

二人が兄妹であることを物語るように、ほぼ同時に青年と妹が同じような動作をとる、玄関の方を振

り向いたのだ。

玄関には二人にとって姉にあたる人物が腕を組みながら、立っている、秀麗な容貌は青年の妹に似て

いるが、憂い気味な瞳が決定的な違いであろうか、姉は微かな怒りとあきれが混じった表情を浮かべ

ていた。

「あ、ごめん、ファー姉、つまみ食いしちゃって」

妹はこの姉が苦手なのか、さっと青年の背後に隠れると、舌をペロリと出しながら、姉に謝罪する。

「ごめんよ、ファー姉さん、今日、夕飯の手伝いしなくて……」

青年も髪をかきあげつつ、バツの悪そうな表情を浮かべた。

「もう、いいわ。さっさと手を洗って食堂に来なさいな」

二人の返答に姉はすぐに相好を崩し、声色は優しい。

しつけに厳しいが、慈愛に満ちている、姉のそんなところが二人はたまらなく好きで、青年と妹は敬

愛していた。

「は〜い♪」

勢いよく、イリアルの背後から飛び出ると、妹はパタパタと走って館の中へと駆けこんでいく。

「……元気だね」

躍動に満ち溢れた妹の背中をどこか羨ましげに、淡い微笑ををたたえながら見送って、青年も姉の側

を通って館へと入っていこうとした。

「……イル」

「何、ファー姉?」

姉の側を通りかけた時、名を呼ばれ、青年は困惑げに顔を向けた。

その双眸に緊張と憂愁に満ちた姉の表情が写る。

(何か、あるのかな?)

「お父様が戻られている理由、判っているわよね?」

少しの間の後、念を押すような口調の声が姉の唇から洩れた。

「………うん」

青年の顔が翳る。

やがて、翳ったままの表情でなんとか返答をしぼり出した。

「もう、いいわ。お行きなさい」

青年はどこか力なく、うなずいた。

そして、いたたまれなくなったように、その場を足早に去って行く。

「……無理かしらね」

青年の背中が見えなくなってから、姉は囁くと、扉を閉めた。

 

 

藍色の宵闇に月が浮かぶ頃、ラングレート家では家族全員が顔を合わせていた。

ラングレート家、家門から代々、優秀な魔術師を輩出してきた、有数の家系で、その魔術の業、賢者

の知恵を見込まれて、しばしば各国の君主や貴族に雇われ、栄誉と資産を欲しいままにしている。

その家門を統べるのは、上座に座るイレイアス・ラングレート。

今、現在はシュトローム王国の王家ベルフェン家に連なる王族に仕え、相談役としてその家の全てを

とりしきっている。

五十歳を越えた、その姿は一国の貴族に負けぬ風格を漂わせていた。

その側で坐し、年齢にあわぬ聡明さと落ちついた雰囲気をうかがわせるのはイレイアスの長女、ルシ

ファーネ・ラングレート。

先日、二十歳になったばかりである。

厳しさと優しさを兼ね備えた彼女は、不在がちの父と若くして亡くなった母に代わって、この家の一

切を遺漏なく運営していた。

優秀な成績で魔導学院をなんなく卒業後、街で私塾を開き、学問と魔術の指導に当たっている。

姉の向かいにはイリアル・ラングレート、先刻の青年であり、彼も又、魔術師である。

魔術師としての才能は姉どころか、父をも凌いでいた、その真面目すぎる性格故にか、集中力に優れ

ており、その為にあらゆる場面で才能を発揮してきたが、前年に魔導学院学院を卒業後、魔術師とし

て仕官をせずに家に戻ってきて、家事の手伝いと時折、姉の手伝いをして、子供達に学問の手ほどき

をする以外は、思うままに絵を描く生活をおくっていた。

そのイリアルの側では、彼の妹、ルシア・ラングレートが肉料理を胃袋に収める作業に没頭していた。

イレイアスの末娘である彼女は甘えっ子で、快活な性格で、よく喋り、よく笑う、非常にきまぐれで、

標的となったイリアルは常にふりまわされっぱなしだった。

ルシアも又、魔術師となるべく魔導学院に通っていたのだが、符術・召喚術・紋章術といった様々な

魔術をかじったあげく、飽きて、中途自主退学してしまった、もっとも、潜在能力は高いらしく、符

術による風を使った業はそこそこのものであり、街で魔道の業を扱う仕事をどこからともなく、探し

てきては、それをこなす生活を送っている。

この四人がラングレート家の面々であり、四人全てが揃うのは、三ヶ月ぶりのことだった、最も、街

の外で仕事を持っているイレイアスがいる以上、やむを得ぬことかもしれない、が。

だが、四人が揃う食卓はイリアルにとっては苦痛の時間だ、正確にいうと、上座に座る人物、父イレ

イアスが、だ、その姿を見るのが耐えがたい苦痛だった。

ルシアもその空気を感じ取ったのか、場を和ませる為に、持ち前の明るさで冗談を飛ばそうとするの

だが、空気の重さに負けて沈黙した。

スープを飲みながら、イリアルはちらちらと父に視線を走らせる。

イレイアスはワインを楽しみながら、ルシファーネから、彼女の手に余る家の資産の運営や法律上の

問題について質問を受けては、返答をしていた。

立派な父親だ、だが、イリアルは素直に尊敬はできない。

魔術師ということを肯定し、自信を持って、生きている姿が、自分の二、三十年かと思う気落ちした。

そこでイリアルは再び、不毛な思考へと、入り込んでしまう。

 何故、僕はこの家の長男として生まれたのだろうか、と。

イレイアスは卒業後、イリアルが仕官しなかったことについても、ルシアが中途自主退学したことに

も何も言わなかった。

 だが、イリアルには父が望むことが判っていた、そして、その道を選べない自分がないことを。

「イリアル……イリアル、聞いているか?」

「……………は、はい、父さん」

思考にふけっていたイリアルは不意の父の呼びかけに、慌てたように父へと視線を転じる。

強い意思を感じられる視線とぶつかりあい、少したじろいたが、イリアルは正面からそれを見返して、

次の言葉を待った。

その情景をルシアもはらはらとしたように見守っている。

「あとで私の部屋に来るように」

しばしの時が流れた後、イレイアスは宣言するかのように言葉を発すると、席を立った。

「えへへ、何かお父さんがいると緊張するね」

イレイアスが去った後、明るく和ませようと、林檎を搾ったジュースが入ったグラスを左右に振りな

がら、おどけてみでたが、イリアルもルシファーネも沈黙したまま、わずかにうなずいただけだった。

「むう〜もういい」

あまりの反応の無さに腹を立てたように席をけって、ルシアもその場から去って行く。

「イル、どうするの?」

 ルシアの姿がいなくなってから、ようやく、ルシファーネが口を開いた。

「……判らない……でも」

目の前にあるワインを口に含んでから、椅子から立つと、イリアルはゆっくりと付け加えた。

「だからこそ、はっきりさせたい」

決意ととれる言葉にルシファーネは何も答えなかった。

答えを期待してなかったイリアルは迷いを断ち切るように軽く首を振ると、食堂を離れた。

 

 

食堂を離れたイリアルは浴室で汗を流し、着替えてから、自室に戻った。

部屋においてある、あらゆる絵画を一枚一枚、眺めて、心を落ち着ける。

それから、父の私室へと向かうことにした、部屋は塔の最上階にある、子供の頃はよく出入りしたも

のだが、ここ何年か入った記憶はなかった。

部屋の前で大きく息を整えてから、扉を叩く。

「入ってくれ」

 返事は早かった、重々しい声がすぐに返った。

「失礼します」

丁寧に言って、扉を開き、中へと入ると、久しぶりに見る部屋がイリアルの視界に入って来た。

魔術の光に照らし出される数々の魔道工芸品、それに囲まれた部屋、それが父の私室。

父は部屋の奥の机に向かっており、イリアルに背を向けていた。

「そこのソファーへ座っていろ、すぐに終わる」

扉の開閉の音が止むと、父は身体を動かして、ちらりと来客を一瞥し、一瞬後には、意識を机にある

らしき書類に戻していた。

父が何やら書き連ねている音を聞きながら、勧めに従って、イリアルはソファーへと身を沈める。

仕える家の法律的な書類の決裁しているのかと思った。

やることがないので、久しぶりに魔道工芸品を見ていると、やがて、音がやんだ。

椅子から立ち上がったイレイアスは息子の前のソファーへと腰を降ろすと、封蝋をした手紙を差し出

した。

封蝋の紋章はイリアルにも知識があった、シュトローム王国の紋章である、おそらく父が仕える家の

ものだろうと推測した。 

「シュトローム王国の軍事大臣を務められるロッシェ伯爵宛てへの紹介状だ、これを持って伯爵を訪ね

るように、そこで顧問魔術師となることが決まっている」

「……え?」

心は定まっていたと思っていたのは、早計だったようだ、少し取り乱しながら、父の顔から視線を離

さずに言葉よりも視線で耳朶を打った言葉の意味を問う。

「ロッシェ伯に魔術師として仕えろということだ」

簡潔な表現でイリアルに説明すると、鋭い眼でイリアルを見据えつつ言葉を続けた。

「私が仕える家を守るためにロッシェ伯の力は必要だ、ロッシェ伯の勢力を伸張させるには優秀な人材

が何人か必要としている、そこで私は最も信頼がおける魔術師を派遣したいと思う、さらに、その措

置はラングレート家を守る為の措置となる、満足か?」

「……断ります」

長い間の空白の後、イリアルの口から父へと投げかけられた決意は小さかった、だが、撤回させるの

は容易ではないことを悟らせる声だった。

イリアルの言明にイレイアスの鋭い双瞳に怒気にも似た感情がこもった、それはイリアルを威圧する

ような光、思わず竦みあがるような厳しい迫力を感じさせる。

しかし、イリアルは父を真っ向から見返していた、威圧には決して屈しない、自己の存在を賭けるか

のように。

先に力を抜いたのはイレイアスであった。

譲ったわけでない、魔術師たる者、情動に身をまかせずに、感情を制御し、冷静に事態を把握せねば

ならぬからだ。

「理由を聞こうか、家長として命令する」

イレイアスは軽く眼を瞑って、瞬時に気を落ちつけると、再び、開いた眼を向け、いまだ、興奮おさ

まらぬ、イリアルに冷静な声を投げかける。

「……魔術を積極的に行使して、人を傷つけたくないからです」 

イリアルはゆっくりと呼吸を整えてから、つとめて落ちついた声を出す、そして、さらに言葉を繋げ

た。

「魔術によって不幸にさせてしまった人の為に、そして、また、人を積極的に落とし入れる世界で生き

たいと思わない」

「……魔導学院での事故か?」

イリアスが心中を告げた後、イレイアスは頭の中での記憶を思いあさってから、確認する。

「はい」

そして、イリアスもそれを否定しなかった、全てではないが、原因の一端であるのだから。

「さらに問おう、なら、何故、最後まで魔術を収めた、ルシアのように捨てたのなら、むしろ、その方

が私は認めるとは考えなかったのか」

「……魔術は恐るべき力です、ですが、其れゆえに大事な存在を守る力となると思うから」

「納得も理解もできそうにないが、考えがあって使わぬということだけは認めよう、だが、どうやっ

てお前は生きていくつもりだ、ラングレート家の次期家長がそれでは済まぬ……絵描きにでもなる

のか?」

「……何故、それを知っているのです?」

感情を交えぬ声で、的確に要所をつくイレイアスの言論に、イリアスは激しく動揺する。

絵の事は父に隠して来たのに、看破されているとは思いも寄らなかったからだ。

「私に隠し事は通用せぬと………といいたいところだが、ルシファに聞いた、上手らしいな、お前が好

きに生きるがいい」

「………」

答えた父の口調は抑揚の音韻こそないが、承認する言葉だった。

イリアルは戸惑いなが、父を見つめ続ける。

「だが……その魔術の力は封印する、力ありながらラングレートの為に用いぬ者の力は家長として認め

らぬ、汝、それを認めるか?」

「……望むところです」

父の重々しい呟きに、イリアルは答えた。

父はうなずくと、イリアルの額に印章(シジル)を描く、それで終りだった、あっけなく、イリアル

の魔力は封印が施された。

「少なくても三年間は解かぬ、その間はラングレートの者としてお前を認めない、明日を期限として、

即刻、家を離れよ」

 ソファーから立ち上がると、無言でイリアルは深々と父にお辞儀すると、立ち去って行く。

「………仕方のない奴だ」

首にかけたペンダントの細密画(ミニアチュール)の妻の姿を見つめながら、イレイアスは一人、呟

いた。

 

 

「じゃあ、ファー姉さん、いない間も元気でね」

明朝、払暁のきらめきが満ちる中で旅支度を済ませたイリアルは玄関でルシファーネに別れの挨拶を

済ませていた。

「イルこそね」

微笑ながら、手を振る姉のひどくやさしげで、それが凄く、嬉しかった。

同じように手を振ってから、イリアルは旅だって行った。

「行ったのか?」

イリアルの姿が見えなくなり、館の中へと戻ろうとしたルシファはガウン姿の父へと呼びかけられた。

「ええ……本当に力を封じられたのですか?」

父に答えてから、ルシファーネはあえて、逡巡した後、その質問を投げかけみることにした。

「いや、イリアルが心の底から渇望すれば、解ける印章(シジル)だ……ふぁ、私はもう少し寝る、昼

に起こしてくれ」

イレイアスはこともなげに答えた後、あくびを噛み殺しながら、ルシファーネに背を向け、歩み去っ

て行く。

「はい」

そんな父の背中へと向けて、ルシファーネは微笑ともに返事をした。

 

 

中空にある陽光の下で、二人の旅人の姿が街道の分岐路にとあった。

「ええと、左がシュトローム王国で、右が魔導王国ユニカンか、イル兄、どっち行こうか?」

「好きなほうでいいさ」

ルシアの元気そうな声に対して、イリアルの声は疲れている。

あの出立の後、必死に追いかけてきたルシアはイリアルを捕捉し、旅に同行することを承諾させら

れた。

落ち込む暇がないのはありがたかったが、快活さときまぐれに振りまわされて、少々、疲労気味だ

った。

(これからも大変だなぁ)

しみじみと思いながらも、ルシアのはしゃいでいる姿に悩む気持ちが払拭されそうだった。

「よし、こっち、っと、あ、イル兄、魔導王国ユニカンに決定したから」

手にしたロッドで倒れた方へと、アッサリと行く先を決めた、ルシアは元気よく、そちらへ街道を走

り出す。

「ああ、判った、そっちに行こう」

苦笑いを浮かべて応じると、イリアルはゆっくりと自分の道を決める為に、言葉通りに歩き出した。

 

 

この後、魔道王国ユニカンへと向かった二人は、サプリームソーサレスでの悲劇といくつかの旅を経

て、ロンド亭で新たな出会いをもつことになるが、それは未来の話となる。

 

F I N