〈2002.12.1 宮城県自然保護課〉

メールマガジン「みやぎの自然」12月1日号(第4号)
 
■■■「私と自然保護−自然保護・環境保全『うその話・ほんとうの話』−」■■■
 
東北大学工学研究科教授、宮城県自然環境保全審議会会長 澤本 正樹
 
 私の専門とする河川や海岸の分野でも数年前河川法・海岸法の改正があり、従来の防災・利用に合わせて環境面を考慮することが条文化された。自然保護や環境・生態系の保護の大切さは社会的にも十分に受け入れられ、また制度面でも義務化されてきているのだけれど.........
 気になるのは、もっともらしいけれども間違った意見がまかり通っている場合が結構あることである。ふたつ例を挙げると、
 
「緑のダム構想:木を植えて森林を育てていけば現在のようなダムは不要になる」
某政党もこれを政策に掲げている。全山はげ山のような流域ならこの議論は限られた条件の下で正しい。しかし、そのような流域は今の日本にはほとんどない。わりと誤解されているようなのだが、現在の日本はここ千年くらいで見ても非常に山に木が多い時代である。今あるダムも当然この豊かな森林があることを前提になりたっている。だからこれからダムの代用になるくらいの膨大な森林を新たに育て上げることはできない。
 それと森林があると山から出てくる水が増えるような議論があるが、それも間違っている。確かに山に森林があると渇水期にも川の水がとぎれなくなる。しかし、森林があると蒸発量も増え、トータルの損失は増加する。だから国によっては貯水池を作るとその流域の森林を皆伐するような所もある。
 それでも森林には重要な役割がある。洪水の流出を緩和し、土砂崩れや土砂の流出を防ぐといったことなどがそれである。これらの本当の話をきちんとしておく必要がある。
 
「森林は酸素を出し炭酸ガスをどんどん吸収してくれる」
これも正しそうな気がするけれども大分注釈がいる。植物は光合成で炭酸ガスを吸収し、酸素を放出する。しかし、夜間には呼吸で酸素を吸収し炭酸ガスを放出する。さらに枯死すればその分解で炭酸ガスを放出する。実際に大気中の炭酸ガス濃度を森林の中で測ってみると、光合成が盛んなはずの夏、その夜間には炭酸ガス濃度が年間でもっとも大きな値をとる。そのプラスマイナスは植物が成長している間は炭酸ガスを吸収する側になるが、森林が十分に成長するとゼロでつりあってしまう。ただあるだけの森林は、それが立派であればあるほど炭酸ガス吸収を期待できないという逆説的なことになるのである。
 
 以上のような間違った議論は、通常自然保護・環境保護の応援団からでてくる。だから特別な不都合がない限り反論されないのだけれども、やはり本当の話をして正しい議論をしていかないと、おかしなところでつまづくことになりかねないのではないか。
 
みやぎの森の写真はこちら
 
澤本正樹先生のプロフィール
 1985年から仙台在住。専門は水環境システム学。仕事柄、東北の海・川・山によく行く。趣味は山登りと高山植物の写真撮影(下のURLを参照してください)。
http://kaigan.civil.tohoku.ac.jp/~sawamoto/Gallery.HTM
 


■■■特集 「里山の万葉歳時記(2) やぶこうじ(藪柑子)」■■■
 
宮城県名誉森林インストラクター 大柳 雄彦
 
 葉の落ちた雑木林から、モズの鋭い鳴き声が聞こえてくる。肉食のモズにとって、昆虫や蛙など餌の少ない冬場は苦難の時期である。餌を求めて縄張りを争う仲間同志の叫び声がひびき、「冬鵙(ふゆもず)の猛り竹林夕日落つ」とうたわれる。
 この季節、山林の林床に青々と茂るのがヤブコウジ。「藪柑子」と書き、俳句では冬の季語である。藪柑子のコウジは、昔、田道間守(たじまもり)が常世の国から求めてきたコウジミカンという小さなミカンの実や葉に似ていることからきた名といわれる。
 話はかわるが、マンリョウ、センリョウと大金の名のつく植物がある。両種とも正式の和名で、赤い果実が美しく、庭園木や鉢植えにして鑑賞する。同じように赤く美しい実をつける植物を、昔の貨幣単位になぞってカラタチバナを百両、ヤブコウジを十両、ツルアリドオシを一両と呼ぶ。いずれも実の美しさや大きさは大同小異であるから、この値ぶみは背丈の高さで決められたものらしい。因に、センリョウはセンリョウ科、ツルアリドオシはアカネ科のもので、他はすべてヤブコウジ科の植物である。
 十両の値がつくヤブコウジは、草本と見紛うばかりに小さな常緑木本。茎は地面を這い、その先端は立ち上がるが、高さはせいぜい30センチメートル以下である。枝先の上部2節ほどに楕円形の葉を数枚輪生する。盛夏の頃、その葉腋(ようえき)に白色の小花を数個、下向きにつける。これが冬になると赤い果実に熟し、濃緑の葉とのコントラストが美しい。里山の樹林の林床に多く見られるが、沿海部の松林の内部や、山地帯のブナ林下でも繁茂し、分布域はかなり広い。向陽の地よりも樹陰地を好み、「樹のうろの藪柑子にも実の一つ」の句がある。
 緑葉紅実のヤブコウジは、古来嘉祥の植物として蓬莱台の上に飾られ、正月などの祝儀によく使われてきた。万葉集ではヤマタチバナとして詠まれているが、コウジミカンと良く調和した名である。大伴家持は、師走に降る雪を見て、次の歌を詠じている。
 
 この雪の消(け)残る時にいざ行かな山橘の実を照るも見む(巻19・4226)
 
 この雪の消えてしまわぬうちに、さあ早く山へ行こう。ヤブコウジの赤い実が雪の間から美しく照り輝いている姿を見るために、というのが歌意。わざわざ赤い果実を見るために、寒い雪の中を歩いて行こうとする健康的な歌である。家持は、ことのほかヤブコウジにはご執心だったようで、次の歌も作っている。
 
 消(け)残りの雪に合へ照るあしひきの山橘をつとに摘み来な(巻2・4471)
 
ヤブコウジの写真はこちら
 
大柳雄彦先生のプロフィール
 岩手大学農学部卒業後、昭和31年宮城県入庁、林務治山関係の業務に従事。森林保全課長・林政課長を経て、平成2年3月水産林業部技監を最後に退職。平成2年から9年まで県森林審議会委員。平成2年から12年まで県自然環境保全審議会委員・専門委員。植物だけでなく、万葉植物歌集にも明るい。現在株式会社宮城環境保全研究所代表取締役社長。70歳。
 


■■■知っ得情報■■■
 
林地開発と自然環境
 全世界的には人の経済活動等による森林の減少が進み、地球環境は危機的だといわれています。目を転ずれば私たちの周辺でも年々森林が失われているのが現実です。宮城県土の6割、約42万ヘクタールを占める森林は、人工林か天然林かを問わず、様々な生物のあらゆる生息環境の根元をなし、まさに生態系ピラミッドの底辺を形成しています。もちろん私たちも皆等しくその恩恵を享受していますが、こうした森林を特定の目的により一たび開発(土地形状の変更)してしまうと、森林が持つ機能の回復は非常に困難となります。象徴的な出来事として、開発箇所で太古から続いてきた動植物の営みが寸断され、局所的な生態系が消滅する結果、その周辺でも種の希少化や絶滅が加速されると考えられます。いわゆる「かけがえのない自然」といわれる所以です。
 このような観点をふまえ、私有林で1ヘクタール(1万平方メートル)を超える面積の土地形状を変更する場合には、林地開発許可制度が適用されており、気象災害や土砂流出等の防止、水源確保、環境保全の面などから開発後の適正な土地利用を確保できるか、森林が持つ諸機能の喪失を最小限に止められる施工内容かどうかの審査を行っています。
 昭和49年の制度創設時から平成13年度末までの28年間で許可された本県における林地開発は、地方公共団体等の公共事業までを含めると総数1,243件、約1万ヘクタールにのぼります。用途内訳では、住宅地(3,692ヘクタール)、ゴルフ場(1,385同)、工場事業用地等(1,117同)、以下農用地、土石採取、道路というように、どれも私たちの生活とは密接な関係があります。昭和50年代半ばから平成6年頃まで毎年の新規許可総数は約300〜700ヘクタールで推移しましたが、近年は社会情勢に呼応するように、年間数十ヘクタール規模で推移しています。
 ところで、あくまで仮に、過去28年の開発実績が単純に繰り返され、新たな森林も増えないとすれば、今後千年あまりで、本県の森林が消滅してしまうという計算だけは成立します。「自然との共生…」とはいうものの、開発の恩恵で現在を生きている私たち個々人のライフスタイルこそが、自然環境の行く末を担っているという自覚を持ちたいものです。
 


■■■自然保護団体活動PRコーナー■■■
 
◎宮城県森林インストラクター協会
 みなさんは、宮城県森林インストラクターを知っていますか?
 いまの日本では、手入れをされずに荒廃し放置されている森林が増えています。森林には木材の供給だけでなく、水資源の確保、洪水や土砂崩れの防止、二酸化炭素の吸収、空気の浄化、さらには森林レクリエーションの場としてなど、さまざまな役割があります。しかしこれらは健全な森林でなければ達成できません。
 そこで宮城県が、県民に森林・林業の大切さや役割を広く普及・PRするボランティアリーダーとして養成したのが、森林インストラクター、いわば「森の案内人」です。1年間の講義と実践を経て養成されたインストラクターは、学生・主婦・サラリーマン・OL・仕事をリタイアしたシニア世代など職業も年齢もさまざま。現在は111人のインストラクターが協会に登録し、県や各種団体が開催する森林や林業に関する行事や、森を訪れる一般の人々への案内を通し、森林・林業に関する正しい知識を普及する活動を行っています。
 
〔どんなことをしているの?〕
 それぞれの得意分野を生かし、3つの部会に分かれて活動しています。
○森林づくり部会
 県民の森にある四季の森除間伐作業、ふれあい「どんぐりの森」整備作業、大和町蛇石せせらぎ(伝説)の森整備事業など。下刈りや苗木育成、枝打ち、除間伐、遊歩道整備などをしています。
○自然観察部会
 植物・野鳥・昆虫・きのこ・地形地質などをテーマにした観察会、登山指導、植生調査など。
○自然体験部会
 竹笛・輪切り材や小枝細工をはじめとするネイチャークラフト、リースづくり教室、火おこしネイチャーゲームを含めた自然体験ゲームなど。
 これらの部会に分かれて、学校、市民センターをはじめとする地域の各団体からの要請による派遣、県民の森での自主活動「もりもり教室」などを実施。平成13年度は約50件ほどの活動を行いました。
 
〔自主活動 県民の森「もりもり教室」にぜひ家族でおでかけください!〕
 これまで青少年の森で開催していた活動の拠点を、今年度から県民の森中央記念館周辺へ移しました。より多くの県民のみなさんの参加をお待ちしています!
「もりもり教室」これからの予定を紹介します。
 12/1(日)森の散髪・下草刈り
 12/15(日)冬のクラフト・クリスマス対策
 1/19(日)歩こう県民の森・冬
 2/16(日)身近な素材で作ろう
 3/2(日)冬鳥ウォッチング
 3/16(日)きのこにょきにょき植菌体験
 いずれも午前9時半、または10時に中央記念館に集合(行事内容によってちがいます)。参加費は100円程度(保険料ほか)。誰でも気軽に参加できますので、一緒に楽しく自然の中で活動しませんか。(なお、行事テーマはあくまで予定です。諸般の事情により変更する場合がありますので、ご了承ください。)
 
〔いろいろな派遣要請にもおこたえします〕
 学校や地域の各団体など、「森林や林業のことをもっと知りたい」「自然観察会を開催したい」「自然の素材を使って木工作をしてみたい」など、いろいろな要望にできる限りおこたえします。お気軽に宮城県森林インストラクター協会事務局、または県環境生活部自然保護課までお問い合わせください。
 
〔お問い合わせ先〕
・宮城県森林インストラクター協会事務局:電話090-1936-0606(木村)
・県環境生活部自然保護課みどり保全班:電話022-211-2676(千葉・名和)
ホームページ 
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/9223/
 
◎募集します!
 このコーナーに活動内容などについて掲載を希望する団体を募集しております。希望団体の方は、自然保護課まで御連絡ください(末尾の連絡先まで)。
 


■■■県からのお知らせ■■■
 
◎伊豆沼・内沼サンクチュアリセンターについてのお知らせ
 ラムサール条約の登録湿地に指定された伊豆沼・内沼は、ハクチョウ、ガン、カモなど冬鳥の飛来地として知られ、現在、ガンやハクチョウ等の冬鳥がたくさん飛来しています。
 宮城県伊豆沼・内沼サンクチュアリセンターでは、最盛期に渡り鳥の観察を楽しんでもらえるよう平成15年1月1日(水)から5日(日)までの5日間、特別開館いたします。開館時間は午前9時から午後4時30分までです。なお、年末の12月30日(月)と31日(火)は休館しますのでご注意ください。
 また、11月30日(土)に若柳町内の農家の方々が、宮城県伊豆沼・内沼サンクチュアリセンターの2階に農家レストラン「四季味(しきみ)」をオープンしました。宮城米やみやぎのポーク、若柳牛など地元の食材・素材を生かした家庭料理・郷土料理が味わえます。
 より多くの方々にご来館いただけるよう今年4月から入館を無料にしておりますので、是非お越しください。
 お問い合わせは、自然保護課又は宮城県伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター(電話0228-33-2216)へ。
 
◎自然教室のお知らせ
 冬は雑木林がおもしろい!複数の野鳥が混じった群れ、動物の食べた痕、昆虫の冬越し、冬芽、樹液が凍ったツララなど、見通しの良い雑木林は、意外な生き物の冬の姿を見せてくれます。いつもと違う雑木林の姿をのぞいてみませんか!
 日時:平成15年2月9日(日)
 場所:蔵王野鳥の森自然観察センター「ことりはうす」
 募集対象:小学3年生以上の親子20組(平成15年2月2日締め切り、先着順)
 参加費:300円
 申し込み:「ことりはうす」電話0224(34)1882へ
 
◎平成14年度ガンカモ科鳥類の生息調査
 11月7日に、県内約430箇所においてガンカモ科鳥類の生息調査を実施しました(ガン類については天候の関係で翌8日に再調査)。観測された羽数は、ガン類57,281羽(昨年同時期比91.3%)、ハクチョウ類4,043羽(同113.7%)、カモ類27,814羽(同86.7%)、合計89,138羽(同90.6%)です(羽数は速報値であり,今後変動することがあります)。
 羽数は例年並みですが、蕪栗沼でシジュウカラガン(県のレッドデータブックで絶滅危惧T類)が1羽確認されました。ハクチョウ類は11月調査としては過去最高の羽数となりました。これは本県から更に南下して越冬する移動途中のコハクチョウが、例年よりも多く観察されたためと思われます。
 次回調査は平成15年1月15日及び3月13日に実施する予定です。
 
◎「ふるさとの自然」バックナンバーについて
 10、11月号で御紹介しました「ふるさとの自然」バックナンバーにつきましては、まだ6号、8〜11号、14号、16号、19号、20号の在庫がありますので、先着順により無償でお分けいたします。申込みは電話でのみ受け付けます。なお、在庫がなくなりました場合には御容赦願います。(原則として当課まで取りに来られる方のみとしますが、取りに来られない方は費用を負担していただければ郵送いたします。冊数により費用が異なりますので、申込みの際に御連絡いたします。)
 なお、21号から23号は、県庁地下1階県政情報センター(電話022-211-2263)で販売しております(郵送による購入もできます)。値段は21号が190円、22号が160円、23号が140円となっています。
 


★御意見・御希望・お問い合わせ先など★
 メールマガジンの発信に当たってHTML形式で送信しておりますが、今後TEXT形式での送信を希望される方がおりましたら、誠に恐れ入りますがメールで御連絡ください。また、メールアドレスを変更された場合には、誠に恐れ入りますが、自然保護課まで御連絡ください。
  より良いメールマガジンづくりをしていきたいと考えておりますので、皆様から御意見・御希望・お問い合わせなどをお待ちいたしております。より多くの方に読んでいただきたいので、このメールマガジンを友人やお知り合いの方にもぜひ御紹介ください。
 来月以降の送信を希望されない方は、誠に恐れ入りますが、下記の連絡先までご連絡ください。
 【宮城県自然保護課】
  
sizen@pref.miyagi.jp
  電話 022-211-2671
   FAX 022-211-2693