ベルグルント/交響曲全集

収録曲:(1)交響曲第1番〜第4番 (2)交響曲第5番〜第7番、フィンランディア、タピオラ、大洋の女神
レーベル&番号:EMI 5 68653 2 & 5 68646 2
演奏者:ベルグルント/ヘルシンキ・フィル

オーソドックスにあらず。独特な名演。

 ベルグルントの当全集は一般にオーソドックスな名演として知られており、各種雑誌等で初めて買うシベリウスの交響曲全集のお勧め盤として挙げられることが多いと思います。おそらくそれはヘルシンキフィルとベルグルントというフィンランドコンビで、両者とも経験豊富で円熟したシベリウスを聴かせるからということと、この演奏がやや地味でありながら素朴で美しく、リスナーにフィンランドのイメージを抱かせるのに十分なものであることからきているのでしょう。しかしながら、この演奏が中庸でスタンダードなものであるかと訊かれると、それは否であると答えざるをえないでしょう。

 確かにこの演奏は表面的には極めて”繊細で自然な感じ”に聞こえます。それはベルグルントの指揮が織りなすフレージングの良さに由来するのですが、ベルグルントの手法というのは独特なものがあります。そのため表面的にはオーソドックスな感じを受けますが、よく聴いていると実際はかなり独特でエキセントリックでさえある演奏であるといえます。

 注目すべきは旋律のフレージングや歌わせ方です。シベリウス固有の息の長い旋律を歌わせるときに、テンポを非常に柔軟に変化させている点がそれです。特に後期の交響曲では曲想になじんでいるためあまり目立ちませんが、1〜3番に関してはそれを強く感じることができます。しかしテンポを自在に揺らすと言っても、ルバートによって、明らかに「遅くなった」「速くなった」と感じることは全くないやり方であり、常に小節の内部でつじつまがあうように、きわめて自然に減速、加速が繰り返されています。これによって、外見からすると、きわめてオーソドックスで聴きやすいという側面を持ちながらも、息の長いシベリウスの旋律を決してだれさせることがありません。このような演奏法は多くの指揮者が採用するものではありませんし、楽譜に忠実なオーセンティックな演奏ともまた違うように思います。

 しかしながら、オーソドックスでないゆえに、この全集は名演であると私は思っています。まさにベルグルントならではの個性がよく出ており、この演奏の独特の浮遊感は他ではなかなか得難いものだからです。そして何よりもこの演奏がいかにも”シベリウス的”な核心をついた表現である点において、この演奏がオーソドックスでないにせよ多くの方に愛好されるのだと思います。

※このディスクの解説は、サイト開設間もない頃より掲載しておりましたが、管理人のこのディスクに対する印象が当初とかなり変わってしまい修正を必要としていました。当サイトが3周年をむかえたこともありまして、良い機会でしたので全面改訂をいたしました。

(2002.11.18 管理人Johansen)


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