ペトリ・サカリ/アイスランド響 (1)交響曲第4,5番 (2)第6,7番 テンペスト第二組曲


 


収録曲:(1)交響曲第4,5番(2)交響曲第6,7番 テンペスト第2組曲
レーベル&番号:Naxos (1)8.554377 (2)8.554387
演奏者:ペトリ・サカリ/アイスランド交響楽団


 近年、ナクソスやシャンドスレコードにシベリウスの交響曲全集や管弦楽曲を録音し、シベリウス指揮者としての頭角を現し始めたペトリ・サカリのナクソスレーベルにおける交響曲全集の最後の2枚です。オーケストラはアイスランド響。首都レイキャビクのオーケストラです。このオーケストラはは、それほど技術力が高くはありませんが、いかにも北国のオケらしい、透明で、優しい響きを持っています。

 この2枚のCDを聴いて、まず始めに印象的だったのが、オーケストラが作り出す響きです。北欧系のオーケストラは、透明感のある響きをもったところが多いですが、このコンビの良いところは、それに加えて、ふわっとした羽毛のような感触の響きも兼ね備えているところです。そのため、との透明感はあっても、決して冷たい感じにならないところがよいです。

 個人的にはこのオケのホルンがお気に入りです。決してビルトゥオーゾ的ではなく、また、セクション的に目立つというわけではないのですが、要所要所で絶妙なサウンドを作っています。たとえば交響曲第5番の冒頭などはよい例です。あの空間にふわっと漂う柔らかい響きがとても美しいです。

 と、ここまでサウンドについて書いてきましたが、このコンビの良いところはほかにもあります。柔らかい音を持ったオーケストラ(と指揮者))は得てして、細部がきこえにくくなるものですが、このコンビは解像度の高さと柔らかい響きを見事に両立しています。これは弦楽器を中心に繊細な弾き方をできる奏者がいて、指揮者がそれを引き出すことができて初めて実現できるのでしょう。曲のテクスチャを解析して、非常に美しいバランスでオーケストラをならしていると思います。

 サカリの解釈はスタンダードといえるものが多く、とりたてて何かをやっているわけではなく、強烈に訴えかける要素はあまりないのですが、非常に流れが良く、何回も聴きたくなる演奏が多いです。個性を強烈にアピールするのではなく、曲の持つイメージに素直に従い、そのなかで自分の持つメッセージを表現しようとしているような謙虚さはシベリウスの作品に良くあっていると思います。

 では、次にそれぞれの曲に関して書いて見たいと思います。

 4番は、非常にスタンダードなアプローチだと思います。ただどちらかといえば、控えめで、ソフトタッチな感じも受けます。ベルグルントの2回目の録音の身の凍るような冷たさや、ケーゲルのような激しさはあまり感じられません。ただ、そのぶん、この曲(特に1楽章)の随所に見られるオルガン的な響きが美しくきこえますし、聴いている途中で怖くなって停止ボタンを押してしまうようなこともないのはある意味では好ましいのかもしれません。曲の作られた背景が反映された演奏と言うよりは純粋に音楽的な演奏といえるのかもしれません。

 5番は1楽章冒頭、3楽章冒頭などの雰囲気がとても良いです。曲のテクスチャが浮き彫りにされていながら、ふわっとした響きを保ち、フォルテになってもがなり立てることがないオーケストラは素晴らしいです。聴いていて強烈な印象をうけることはありませんが、素直に感動できますし、また聴きたくなる演奏です。私のお気に入りの5番の演奏の一つです。

 6番、7番が入ったディスクは録音、オケの状態ともさらに良くなっています。

 6番はシベリウスの交響曲の中ではシンデレラ的存在・・・とどこかに書いてありましたが、この曲にはほかの曲にないような美しさ、可憐さ、はかなさといったものがあります。この演奏はそういったイメージそのままの演奏です。即物的にならず常に美しい響きを保った弦楽器には拍手です。管楽器はときとして埋もれてしまう演奏が多い中、解像度も(ベルグルントほどではないにしろ)高く、聴いていてもどかしい感じがしないのが素晴らしいです。ほんのすこし演奏に不安定なところがあるのが少し残念ではありますがやはり何度も聴きたくなります。
 テンペスト第2組曲は、私にこの曲の良さを教えてくれた演奏です。私にとってテンペストの音楽はある意味シベリウス的ではない、ドビュッシーなどの西欧の作曲家の影響を強く受けたものに感じられ、それはそれでよいにしても、なにか異質な感じがしていました。でも、この演奏を聴いて、やはりこれはシベリウスの音楽で、交響曲第6番、7番、タピオラなどともつながっている音楽なのだと初めて感じることができました。音の美しさはこの曲が一番良く出ていると思います。

 7番は個人的には冒頭のクラリネットのソロの吹き方が、ちょっと気に入りませんが、全体的な流れがとてもよく、自分が有機的に構成されたこの曲のどの部分を聴いているのか、というのがよくわかります。この曲のあるべき姿がそのまま現れていると思います。ただそこにたたずんでいるといえるような、枯れた演奏というのではなく、あくまでナチュラルに、背伸びせずに曲を描き出している指揮者には拍手です。


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