モーツァルト:クラリネット協奏曲、ブゾーニ:同小協奏曲、コープランド:同協奏曲


演奏者:ポール・メイエ(Cl) ジンマン/イギリス室内管
レーベル&CD番号:DENON CO-75289


 ポール・メイエは天才的な奏者のひとりと言えると思います。彼のテクニックは、やはり並はずれたものがありますし、ソロとして引き立つサウンドを持ち合わせています。ただ、それだけでは、クラリネットの名手ではあっても、それ以上の存在にはなれないでしょう。彼の素晴らしいところは、非常に現代的なセンスを持っていることと、非常に自然に歌うことができるということでしょう。

 ここでの話題は主にモーツァルトのコンチェルトについてです。モーツァルトの作品というと、とにかく美しいというイメージがあると思います。特に晩年の作品に見られる透明さが好きという方も多いでしょう。一方でモーツァルトはいたずら者という側面が曲の中になるということも見逃してはいけません。非常にセンス良く、知的にユーモアを織り込むような作風もまた天才のゆえんでしょうね。このことがモーツァルトの音楽に美しさだけでなく、楽しさをも与えていると思います。

 ただ、私見では、モーツァルトやその作品があまりにも神格化されすぎたため、美しいけれどきまじめな演奏が非常に多いのではないかと思います。もちろん、ベームの振った晩年のモーツァルトとか彼の伴奏によるプリンツが吹いたCl協奏曲とかは、まさに天上の音楽という感じがしてとても美しいですが、その一方で、機知に富んだユーモアや悪戯者的な側面というのはずいぶんと後退してしまっているのではないかという気がします。 

ポールメイエの吹くモーツァルトは、早めのテンポで、時に少し走ってみたり、高速なパッセージをばしっときめてみたり、本当に自由で楽しくなります。その一方で、全体の枠組みの中では破綻がなく、きわめて自然に歌われているという離れ業を実現しています。これによってモーツァルトの作品の美しさと楽しさが全面に出て、しかも対立することなく自然な調和をみせています。しかも現代的なあるいみさっぱりした感覚にも欠けない。このあたりが彼のすごいところですね。彼の特徴が全面に現れていますね。彼はこの曲と非常に相性が良いのだろうと思います。

 併録の小協奏曲の作曲者ブゾーニはシベリウスと同時代のイタリアの作曲家です。この時代になるとイタリアの音楽もずいぶんと近代的でシャープになっているのですね。どこかひんやりした感触も。これも曲の特性をうまく生かした好演となっています。

 コープランドの協奏曲も、前半は非常に美しく、後半はジャジーにかつ技巧的に、見事に吹き分けています。そういえばメイエはベニー・グッドマンに知己を得て、彼から非常に良い評価をもらったのでしたね、確か。


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