旧、今月のCD(1999年5月〜2000年2月)


Contents:
1999年 
 5月 ヴォーン=ウィリアムズ:交響曲第5番、他  プレヴィン/LSO
 6月 メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」 プレヴィン/VPO
 7月 シベリウス:交響曲第5番、他 ベルグルント/COE
 8月 サンサーンス:交響曲第3番「オルガン付き」、他 プラッソン/トゥールーズ・カピトールO.
 9月 ブラームス:交響曲第1番 ミュンシュ/パリO.
10月 フィンジ:作品集 マリナー/ASMF
11月 ベートーヴェン:交響曲第7番 アーノンクール/COE
12月 ブラームス:交響曲第4番 ヴァント/NDR
2000年
1月 ブルックナー:交響曲第8番 朝比奈/大阪P.O.
2月 吉松隆:ピアノ協奏曲「メモ・フローラ」 藤岡/マンチェスター・カメラータ


5月 ヴォーン=ウィリアムズ/交響曲第5番、他

演奏者:プレヴィン/ロンドンS.O.
その他のカップリング:ヴォーン=ウィリアムズ/「エリザベスのイングランド」より3つのポートレイト、チューバ協奏曲
レーベル&CD番号:RCA 60586-2-RG(輸入盤)

解説:
 ヴォーン=ウィリアムズはホルストやブリテンと並ぶ20世紀のイギリスにおける代表的作曲家です。彼の作風は、例外はあるにしても、とても穏やかで、イングランドの田園風景を彷彿とさせるような静かな美しさを持っています。しかしながら、彼の生きた時代には2度の世界大戦がありました。戦争に対して空しさや怒りを感じ続けていたのでしょう。ときには同じ作曲家の作品とは思えないような荒々しい曲もあります。今回取り上げた交響曲第5番は前者に属する曲です。この曲の作曲を開始したのが2つの対戦の合間であったからこそこのような美しい曲が生まれたのでしょう。皮肉なことにこの曲が初演されたのは第2次大戦中でしたが・・・・・・・・。

 この曲は天気のいい穏やかな日にのんびり聴いたり、一人で真夜中に静かに聴いたりすると結構いいと思います。とても静かな曲です。地味かもしれないし、むこうからこちらに訴えかけてくるような曲ではないけれども、聞いていると不思議と穏やかな気分にさせてくれます。そういう暖かさと優しさがこの曲にはあるような気がします。

 プレヴィン/ロンドン響のCDは録音がちょっとうるさいけれど、古き良き時代のローカルな味わいを残した木管楽器(オーボエやクラリネット)が絶妙な音を出しています。最近の、美しいけれど画一的な感じのする音とは違う、いかにもイギリス音楽にあう音です。プレヴィンの場合はいつもそうですが、自然体の音楽がとてもいい雰囲気を作っています。並録のチューバ協奏曲は史上最高のチューバ奏者のJ・フレッチャーによる演奏です。チューバとは思えないような機動力(トリルや跳躍など)も見物ですが、2楽章のRomanzaがとても美しいと思います。



6月 メンデルスゾーン/劇音楽「真夏の夜の夢」

演奏者:プレヴィン/ウィーンP.O.
レーベル&CD番号:フィリップス PHCP-10594

解説:
 どうしてまだ8月になってもいないのに「真夏の夜の夢」なのかという方がいるかもしれません。けれども、ここでいう真夏、英語でいうMid Summer とは夏至のころのことをいいます。そういえば、ついこの間4月になったばかりだと思ったらもう6月なんですね。気持ちのいい季節というのはあっという間にすぎていくような気がします。
 ヨーロッパでは夏至の頃「聖ヨハネ祭」というのが行われるのですが、その前夜には不思議なことが起こるという言い伝えがあります。シェイクスピアの劇「真夏の夜の夢」はちょうどそのときの話なわけですね。このほかに、「聖ヨハネ祭」に関係する音楽はいくつかあって、たとえば「禿げ山の一夜」(これは別タイトルがその名の通り「聖ヨハネ祭の夜」でしたね。そういえば。)、ニュルンベルクのマイスタージンガー、あとマーラーの交響曲第7番なんかもそうらしいです。
 それはともかくとして、メンデルスゾーンがこの劇音楽の序曲を書いたのが確か17歳の時、この若さでこんな完成度の高い曲が書けるのだから、やっぱりこの人は天才だったというほかないですねえ。序曲以外は後年の作で、有名な結婚行進曲などもあります。

 今回のCDもまたプレヴィンの演奏です。この指揮者がウィーンフィルを振ると、非常に柔らかい音がでます。これ以上心地よい音はないのでは、というくらいです。フィリップスのアコースティック感豊かな録音もそれを巧みにサポートしています。



7月 シベリウス/交響曲第5番、他

演奏者:ベルグルント/ヨーロッパ室内O.
その他のカップリング:シベリウス/交響曲第7番
レーベル&CD番号:FINLANDIA 0630-17278-2 (国内盤もあります。)

解説:
 なんだか毎日じめじめした日が続いていますね。梅雨明けは数週間先(6/29現在)、もう少しの辛抱といったところでしょうか。そんな季節なのでさわやかで美しい曲にしようということでシベリウスを取り上げてみました。フィンランディアや交響曲第2番を耳にしたことのある方は、シベリウスのどこがさわやかなんだ、熱い音楽ではないかと思われるかもしれません。上記の2曲は優れた作品であるのは確かですが、作曲者がヤルヴェンパーの山荘に移り住んで、自然に囲まれた中で書いた後期の作品は透明な音を持ち、とても静かで、北欧の空気を感じさせてくれるような美しいものがたくさんあります。どちらの時期の作品もまさにシベリウスの音楽であり、それぞれに魅力を持っていますが、私個人としては後者の方がフィーリングに合う感じがします。

 シベリウスの音楽、特に交響曲は作曲を重ねるにつれて、凝縮度が非常に高く、無駄のない構成になっています。特に交響曲第7番に至っては、フィンランドの夜空とそこに広がる広大な宇宙を連想させる、あるいは宇宙に語りかけているなどとよく例えていわれたり、非常に内向的で孤立無援の境地にあると評されたりします。第5番はそこまで深い音楽ではありませんが、いかにも北欧の風景を連想させるような平明な美しさと磨き抜かれた構成、そして交響曲第2番のような、あるいはベートーヴェンの交響曲に見られるような、「喜び」「勝利」で終わる内容(といってももっと精神的なものですが・・・・・)を併せ持っていてシベリウスファンならずとも楽しめる音楽になっています。
 交響曲第5番はシベリウスの生誕50周年に際して作曲されたもので、初演も大成功に終わったのですが、その後数回にわたって改訂を行って今の形になりました。初稿による演奏はヴァンスカ/ラハティ響のCDで聞くことができます(10月の日本公演でも聞くことができます)。初稿からは、決定稿にないきらめきや、暖かさ、優しさを感じることができますが、やはり決定稿のほうが、シベリウスのメッセージが伝わってくるような気がします。

 CDはどの演奏にしようか迷いましたがベルグルント3回目の録音を挙げておきます。フィンランドの鬱蒼とした森をイメージさせるようなほの暗い雰囲気で始まる演奏が多いですが、この演奏は鬱蒼とした森、というよりは北国に降り注ぐ光を連想させるような透明度の高いもので、隅から隅までクリアな解釈をとっています。これはやりすぎだと感じる方もいるかもしれませんし、クリアでなくても非常にいい雰囲気を持った演奏もありますが(たとえば、カラヤン/ベルリンフィル 65年録音)この曲のひとつの究極の解釈として、非常に強い説得力を持った演奏だと思います。またこれら2つの録音の中間的な解釈をとった演奏としてはベルグルント/ヘルシンキフィルの演奏があります。初めて聞かれる方はこちらの方がなじみやすいかもしれません。



8月 サンサーンス/交響曲第3番「オルガン付き」、他

演奏者:プラッソン/トゥールーズ・カピトールO.
その他のカップリング:管弦楽とオルガンのための「糸杉と月桂樹」、交響詩「誓い」
レーベル&CD番号:EMI(France) 5 55584 2 (国内盤もあります。ただし2枚で分売。)

解説:
 やっと梅雨が明けました。これから夏本番といった感じですね。というわけで、夏にちなんだ作曲家でも取り上げようかと思ったのですが、これといったものが無くて困ってしまいました。私のイメージの中では、夏、というとベルリオーズ(イタリアのハロルドや序曲など)、フランクのシンフォニーなどが連想されますが、これらの曲すべてを知っているわけではないので、お薦めするにはちょっと躊躇してしまうといった具合なのです。そこで、夏に聴くのにふさわしいような明るく輝かしい音を備えるトゥールーズ・カピトール管弦楽団がサンサーンスを録音したCDを紹介します。

 サンサーンスは、ご存じの通りフランスのロマン派時代における代表的作曲家です。彼は当時、フランスの作曲界で、ともすると軽視されがちであった交響曲の分野において大きな成功を収め、フランスにおける交響曲の一連の流れを作り出しました。交響曲第3番はその集大成といえる作品です。当時サンサーンスは2人の子供を失うという不幸に見舞われ、また支持者であったフランツ・リストの死も重なったことから、この作品には死の陰が投影されていますが、それを乗り越えて悲しみと決別しようとする強い意志の力がこの作品には感じられます。
 カップリングの作品は作曲者晩年の作です。これまでほとんど知られていなかった曲ですが、とてもすばらしい内容で、どうしてこうした作品があまり演奏されなくなってしまったのか不思議です。作曲者の最後の煌めきを感じさせる「糸杉と月桂樹」は特にお薦めです。

 トゥールーズ・カピトール管弦楽団は南フランスの団体だけあって、真夏の地中海に照りつける太陽のような非常に明るく華やかなサウンドを持っています。やっぱりサンサーンスなどのフランスものを演奏するにはこういう音が一番です。さらに圧巻なのはオルガンの音です。絢爛豪華というのはこういうことを指すのでしょう。こればかりは言葉では説明できない音です。フランスのオケらしいセンスの良さを感じさせるところも気に入っています。また、プラッソンは、オケの特性を十分に生かしながらも、交響曲第3番がもつペシミスティック(悲観的)な雰囲気をうまく表しているため、外面的演奏には決して陥らずにすばらしい演奏をしています。このコンビは現在では珍しく20年以上続いており、指揮者とオーケストラの良好な関係が伺えます。スター性の有るオケとはいえませんが独特の良さを持った団体といえるでしょう。
 フランスのオーケストラなんて、と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、一度は聴いてみてほしい演奏なので取り上げてみました。



9月 ブラームス/交響曲第1番

演奏者:ミュンシュ/パリO.
レーベル&CD番号:EMI TOCE-3037 (国内盤;外盤もあるがこれが音質良好)

解説:
 ブラームスの音楽から連想されるのは晩秋とか、春に残された暗さとかいったものが多いですが、交響曲第一番に関しては、そういったある種の暗さや寂しさは若干はあるにしても、ベートーヴェンの交響曲のように、力で苦難をうち破っていくという強い意志が感じられます。

 交響曲第1番のアプローチに関しては、晩年の作品のような解釈をとることも不可能ではなくそれはそれで味わい深いものではありますが、やはりいい意味での若さが現れている解釈の方がふさわしい気がします。この点でミュンシュ/パリ管の演奏は最右翼と言えるでしょう。驚くべきことはこれが75歳を越えた老人指揮者から生み出されたということです。なんと力強く若々しい音楽なのでしょうか。よく指揮者は年をとるにつれ枯れた味わいが出てくるといわれる反面、力強さは失われてしまうことが多いですが、この指揮者に関しては亡くなるまでそうはならなかったと言えるでしょう。でもなにより残念なのが、ミュンシュがこの録音が行われた直後のアメリカへの演奏旅行で心臓発作によって亡くなってしまったと言うことです。しかしフランスのいわば「国家プロジェクト」として生まれたパリ管とは4枚のレコードを残してくれました。これらはおそらくパリ管の歴史上最初期でありながら最もすばらしいものだと思います。ブラームスの交響曲第1番もその1枚です。



10月 フィンジ/作品集

収録曲:クラリネット協奏曲、弦楽のためのロマンス、ノクターン(新年の音楽)、カンタータ「クリスマス(生誕の日)」
演奏者:マリナー/アカデミー・オブ・セントマーティン・イン・ザ・フィールズ、A.マリナー(クラリネット)、ボストリッジ(テノール)
レーベル&CD番号:フィリップス PHCP-11083 (国内盤)

解説:
 おそらくこの作曲家のことをご存じなのは相当イギリス音楽に精通している方だけでしょう。かくいう私もひょんなことからこの作曲家のクラリネット作品を聴く機会があったからこそ、このようなすばらしい音楽に出会えたという感じですから、本当に偶然だったといえるでしょう。
 フィンジは20世紀初頭生まれの作曲家です。20世紀のはじめといえばベルク、ストラヴィンスキー、バルトークらの当時からすれば非常に革新的な音楽家たちが活躍した時代でしたが、フィンジの作り出す音楽は前衛的なリズムや和音といったものからは無縁でした。しかしながら、フィンジは単なる保守的な思考の作曲家ではなく上記の人たちの音楽を非常に高く評価していました。かといって無理矢理に前衛的な書法を取り入れることなく、自分がもっともその才能を発揮できる作曲スタイルを使って、自分の信じるとおりに作曲をしました。彼は音楽史に大きな足跡を残すような作曲家ではありませんでしたが、磨き抜かれたすばらしい音楽を聴かせてくれる音楽家だったといえると思います。
 フィンジはとても内向的な人間だったそうです。それもそのはず、フィンジは幼い頃父親を亡くし、続いて兄弟を3人失うという不幸に見舞われたからです。そんな孤独だった彼を救ったのは文学でした。また、読書によって、彼は自国の文学に深い関心を持つようになりそれが彼の音楽に好影響をもたらしたといえます。フィンジの音楽は彼の人柄を反映するような内省的なものですが、そのなかに孤独を乗り越えた者がもつ強さ、優しさを感じることができます。こうしたものは彼の音楽に聴く人をはっとさせるようなきらめきを与えています。
 クラリネット協奏曲はクラリネットの協奏曲としては数少ない美しい旋律をもった作品です。時に穏やかであり、ときに作曲者が心に秘めた情熱の炎が現れたかのような激しさを見せたりと変化に富んでいます。この曲は古典派の協奏曲のような均整のとれた構成はありませんが、そのかわりに作曲者が曲に込めたメッセージがダイレクトに伝わってきます。聴き終わるととても穏やかな気分になれる逸品です。ここでは、サー・ネヴィルの息子であるアンドルーが柔らかい音色で好演です。
 弦楽のためのロマンスも非常に美しい作品です。ヴァイオリンのソロを交えた抒情的な音楽を切々と歌い上げます。ちょっぴり感傷的すぎるのかもしれませんが個人的には結構お気に入りです。
 当アルバム中で一番美しいのはカンタータ「クリスマス」(原題:DIES NATALIS)です。弦楽オーケストラをバックにテノールが歌います。歌詞はイギリスの聖職者にして詩人のトマス・トラハーンの詩からとられたものです。テクストの内容は特にクリスマスに限定されるものでも、キリストに関するものでもありません。どちらかといえば人間が生きているということへの歓びの表明といった方がわかりやすいかもしれません。この曲を聴いたときに感じられる安らぎは何物にも替えられないような深く温かいものです。このテクストを読んで、フィンジが大いに共感し、孤独から救われたであろうことは容易に想像がつきます。そしてフィンジの才能はこの詩の言葉と音楽を絶妙の形で結合させました。これは文学にも深い造詣のあったフィンジだからこそできたことだと思います。この曲を聴いて私は初めて英語という言葉の美しさを知りました。ボストリッジはこの曲のすばらしさをほぼ完璧な形で提示してくれます。私は声楽曲にはなじみがないのですが、非常に強い感銘を受けました。でもこの曲を聴いてえられる感動はどうも言葉でうまく表現することができません。是非一度この曲を聴いてみてください。必ずや美しい世界に出会えると思います。



11月 ベートーヴェン/交響曲第7番

その他のカップリング:ベートーヴェン/交響曲第5番
演奏者:アーノンクール/ヨーロッパ室内O.
レーベル&CD番号:WPCS-5772(0630-10014-2)

解説:
 演奏会前のハードスケジュールで、しばらく更新が滞っていました。演奏会も終わってようやく一段落したので、ようやく更新作業に入れます。忙しいときというのは季節の変化にも鈍感になるらしく、最近の朝の寒さでようやく、秋が深まっていたことを実感しました。
 と、季節柄の話題で入ったのはいいのですが、まだ疲れが残っているためか、秋をイメージさせるたとえばブラームスのような曲はあまり聴く気になれません。こういうときには栄養剤でも飲んでよく寝る・・・・・のもいいですが音の栄養剤とでもいえるベートーヴェンの音楽を聴くのがいいなと思っています。ベートーヴェンの音楽には聴く人を元気づけてくれるような明るさが常にあります。マイナスよりプラス、過去より未来、後ろより前、といった風に常にポジティブです。あまりにあっけらかんとしているという人もいるかもしれませんが、そういう前向きな姿勢を恐れずに堂々と提示してくれたのがベートーヴェンであったと思います。
 交響曲第7番はベートーヴェンの交響曲の中では一番気に入っています。円熟期に入った作曲者の筆はますます冴え渡り、力強さと優しさを兼ね備えた充実した音楽が作られています。
 アーノンクールは、言うまでもなく現代を代表する指揮者の一人です。古楽器界でデビューした彼ですが、近年はドヴォルザークやブルックナーにまでレパートリーを広げています。古楽器畑の人らしく、当時の楽器奏法を取り入れて、斬新な効果を出しています。一つはビブラートの排除で、これにより音の厚みは損なわれますが透明度が高くなっています。ほかには音を音価いっぱいにのばさずに減衰させることにより、解像度の高さを獲得したり、スラーの解釈を工夫することにより「歌う」のではなく「語る」ようなフレージングを実現しています。これによって、時代がかった後期ロマン派風の重苦しさから解放されて、ある意味軽やかな音楽になっています。けれど、アーノンクールは単なる当時の演奏の再現のみを目的としておらず、現代に通用する解釈をとっているところに好感が持てます。



12月 ブラームス/交響曲第4番

演奏者:ヴァント/北ドイツ放送響
レーベル&CD番号:RCA BVCC-34001

解説:
 気がつけば、なんともう12月。早いもので今年もあと1ヶ月ですね。最近だいぶ寒くなってきて、冬らしくなってきました。いよいよこたつに蜜柑のシーズンの到来です。あ、こういってしまうとなんか、日本的で西洋音楽の世界に話題がつながりませんねえ。
 ブラームスは秋を連想させる作曲家だというかたが多いと思いますが(人によっては、いや、あれは春の暗い部分が現れているんだという方もいますけどね。)、僕の中では、ブラームスが寒い真冬の日に、暖炉のある暖かい部屋で、過去を振り返って、物思いにふけているといったイメージがうかびます。すべての作品がそうとはいえませんが、特に晩年の作品には、やはり冬をイメージさせるようなどこかひんやりした感覚があると思います。
 交響曲第4番をきいていると、どこかシベリウスやニールセンといった北国の作曲家の作り出す音とにている響きを感じることがあります。ブラームスはもともとドイツ北部の人でしたから、どこか相通ずるところがあるのかもしれません。
 この曲は作曲家の晩年の心境をよく表していると思います。悲しげであり、またどこかはかない感じが曲全体を通して感じられます。人生ってこういうものなんでしょうか。まだ僕にはわかりませんが・・・・。僕の心境からはもっとも離れている曲のはずですが、ブラームスの曲の中ではなぜか一番共感できるのが不思議です。
 ヴァントの最新盤のこの録音は徒に旋律を歌わせすぎることなく、淡々と音楽は進んでいきます。普通なら、淡泊な感じになってしまいますが、そこに何ともいえない寂しい表情が漂うのは、やはり名指揮者ならではといえるでしょう。また、ヴァントは楽譜の指示に忠実な指揮者であり、リズムを厳格に処理しているため、ブラームスのもう一つの特徴といえる、リズムのギミック(自然な拍子をわざとずらす、シンコペーション、など)が浮き彫りになっている点も好ましいです。



1月 ブルックナー/交響曲第8番

演奏者:朝比奈 隆/大阪P.O.
レーベル&CD番号:キャニオン・クラシックス

解説:
 いよいよ2000年の到来です。今月はMilleniumを記念して祝祭的な雰囲気のある曲でいってみましょう。というわけで今月はブルックナーの8番です。ブルックナーの音楽は好き嫌いがはっきりする傾向がありますが、後期の交響曲の完成度の高さは万人の認めるところでしょう。そのなかでも8番は完成した最後の作品として、ブルックナーの作品の中で最高峰に位置するものだと思います。70分をこえる長大な構成とワーグナーチューバを含む大編成の管弦楽はまさに祝祭的ですが、その規模ゆえそうやすやすと聴けるものではありません。聴くにはそれなりの時間と体力(?)が必要ですよね。だからそれほど身近には感じない曲ではありますが、やはり全曲を通して聴いたときの感動は計り知れないものがあります。また、この曲にはブルックナーの魅力がいっぱい詰まっています。金管楽器によるコラール風の楽節、ワーグナー風な美しい和声進行、金管楽器の咆哮、天才的なスケルツォの構成、天国的な美しさのアダージョ、4楽章コーダの主題回帰・・・等々。ブルックナーを聴いたことがない方には是非とも聴いていただきたい逸品です。
 さて、では次にこの曲の聴きどころを少し挙げていくことにします。まずは第1楽章の冒頭です。弦のトレモロによる開始は俗にブルックナー開始とよばれ、非常に神秘的な雰囲気に満ちています。「原始霧」などとも表現されます。この「霧」のなかからテーマが現れる部分からして感動的です。この冒頭部はどこかベートーヴェンの第9の冒頭とにた感じがします。それもそのはず、この冒頭のテーマは第9冒頭の動機と同じリズムで作られているのです。1楽章はコンパクトながらスケール感にあふれていて壮大です。構成も見事ですね。2楽章のスケルツォはブルックナーがもっとも得意とした形式です。ベートーヴェンと並んでスケルツォのスペシャリストだった彼の神髄を聴くことが出来ます。3楽章は全体を通してどこまでも崇高で美しいです。本当に説明はいりません。4楽章は冒頭の第1主題、これは俗っぽい言い方ですが非常にかっこいいです。ティンパニの使い方もいいですね。次に第2主題の後にでてくる第3主題。これがとにかく美しいです。ブルックナーの心優しさを感じることが出来ます。その後の主題展開も感動的ですが、やはりコーダの1〜4楽章の主題回帰が感動的です。ここまでのすべてのテーマがフィナーレに有機的につながっていて、ブルックナーの言いたかったことはこういうことなんだということが実感できます。
 ここで取り上げたCDはみなさんご存じのブルックナー演奏の大家・朝比奈隆による大阪フィルとのライブ録音です。CDでこれほどの感動が得られるとは思っていませんでした。確かにオケはパワー不足な点がありますし、ライブならではのミスも見られますが、それを越えて音楽が伝わってきます。もし会場できいていたらどうなっていたことやら。事実終演後の拍手も凄まじく、その様子も収録されています。



2月 吉松隆/ピアノ協奏曲「メモ・フローラ」

演奏者:藤岡 幸夫/マンチェスター・カメラータ 田部 京子(P)
レーベル&CD番号:CHANDOS CHAN9652
その他のカップリング:鳥は静かに、天使はまどろみながら、夢色モービルII、白い風景

解説:
 最近暖かくなったな、と思いはじめたばかりだったのに、ここ2,3日また、急に寒くなってきました。日の光はだいぶ明るくなってきましたが、春の到来はまだまだのようです。そんなわけで一足はやく皆さんに春をお届け、ということで今月はこのCDです。
 タイトル曲になっている、メモ・フローラは宮沢賢治のノートの題名からとられているようです。同時に、花をタイトルとして曲を作るというところは、どことなく彼が敬愛するシベリウスとの関連を思い起こさせます。
 1楽章の冒頭はいかにも花が開いていく感じがしますし、静かな春の到来が感じられます。 2楽章は水に落ちて浮いている花びらをあらわしているそうです。この作曲家の繊細な感性がうかがえます。3楽章になると、春もたけなわ、鮮やかな色彩に満ちてきます。4拍子と5拍子が交代するリズムも躍動感を高めています。
 併録作品の白い風景は、反対に冬が去っていくのを名残惜しむような雰囲気が漂う作品です。雪が空から舞い降りて(第1曲)、積もり、美しい雪景色が広がって(第2曲)・・・でも春の到来と共に雪がとける。ようやく春が訪れて喜ばしいのですが、その反面、何ともいえない切ない気分になる、(第3曲)と言った感じでしょうか。日曜には関東地方も雪がふるようです。雪をみながらこの曲を聞くのもいいかもしれません。



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